投稿日:2025年6月12日

接着剤を使わない接合技術とその応用・例

はじめに:なぜ今、接着剤を使わない接合技術が注目されているのか

製造業の現場では、部品や素材の「接合」は製品の品質やコストを左右する重要なプロセスです。
かつては「ネジ・リベットで固定」「溶接による接合」「ボルトナットで締める」「接着剤で貼付ける」といった方法が主流でした。
特に昭和時代の製造業は、コスト重視や大量生産重視の流れもあり、「早く・安く・確実に」といった視点から接合方法を選定してきた歴史があります。

しかし近年では、地球環境への配慮、脱炭素化、微細化・高精度化のニーズ、安全性向上、さらには製造現場の働き方改革などを背景に、従来の接合方法を見直す動きが活発になってきました。
その代表例が「接着剤を使わない接合技術」です。
本記事では、現場感覚を踏まえつつ、最新動向や実践上のメリット・デメリット、産業用途での成功事例等について詳しく掘り下げます。

現場で用いられる接着剤を使わない代表的な接合技術

機械的結合(圧入・カシメ・クリンプ)

圧入は、やや直感的な方法ですが、素材同士を寸法公差で「ギュッ」と押し込むことで強固に固定するものです。
車のエンジン部品、ベアリングの嵌合、モーターのローターとシャフトなど、力が直接かかる重要部位で日常的に使われています。

カシメは、片方の素材に孔をあけ、相手側の部材を変形させて噛み込ませる方法です。
電気コネクタ、家電の筐体、IT機器の接続部分など、可動域が小さいものや薄板同士の接合に好適です。

クリンプ(かしめ圧着)は、ワイヤーハーネス、端子接続で電気業界では定番となっています。
機械的に変形させるだけなので、有害ガスや副産物も無く、現場の実装性が高いのが特徴です。

溶接技術(スポット溶接、摩擦攪拌接合、レーザー溶接など)

溶接はもっとも歴史ある技術ですが、進化し続けています。
スポット溶接やシーム溶接は薄板・自動車パネルで活躍していますし、さらなる高強度や軽量化が求められる分野では摩擦攪拌接合(FSW)も注目されています。

また、ファイバーレーザー等を活用した微細溶接や異種金属同士の接合は、EVバッテリーや精密機器でも大きくシェアを伸ばしています。

リベットレス接合(ハイドロフォーミング等の新工法)

近年、自動車の軽量化(燃費向上やEV対応)や航空機・鉄道の車体設計で「リベットレス」がトレンドになっています。
ハイドロフォーミング工法は、パイプや板状の素材を高圧の流体で変形させて一体化させるものです。
リベットや接着剤の使用量削減だけでなく、パーツ点数減や剛性向上も可能となるため、工程短縮・コスト低減に大きな効果を発揮します。

なぜ、あえて「接着剤を使わない」のか?現場の課題と限界

接着剤のメリット・デメリットの再考

接着剤は「異種材料も容易に接合できる」「分散応力による接合強度アップ」「軽量化」「コスト削減」など、今も多くのメリットがあります。
ただし接着剤にも「硬化時間が長い」「溶剤やVOC(揮発性有機化合物)など環境負荷」「経年劣化」「リワークやメンテナンス困難」「強度保証が難しい」などの課題がつきまといます。

特にEVや航空機など長寿命が必要な分野では、温度・湿度等の環境下での耐久性や、リサイクル時の分解性情報を求められることが増えています。
また作業者の健康確保という観点からも、化学的リスクの低減は避けて通れません。
このため、現場では「接着剤に頼りすぎない構造設計」「ノーケミカルの工程開発」が改めて重要視されています。

工程のデジタル化・自動化との親和性

製造現場の自動化やデジタル化(Industry4.0、スマートファクトリー化)の流れも、接着剤レス接合推進の一因です。
ロボットで部材を組付け・圧入する、溶接条件をIoTで管理する、といった自動化ラインを構築する場合、接着剤の「塗布」「硬化」「位置ズレ」等の厳格な管理が足かせになるケースもしばしば見受けられます。

その点、機械的結合や自動溶接・圧着工法は、自動ラインとの親和性が高く、不適合品発生のリスクも低減できる傾向にあります。

応用事例:各産業で進む“接着剤レス”の潮流

自動車業界での成功事例

自動車業界は、コストダウン・軽量化・歩留まり向上のプレッシャーが極めて強い業界です。
EV化の進展により、バッテリーや複雑なワイヤーハーネスの搭載が不可避となりましたが、ここでも「スポット溶接+FSW+カシメ+圧着」のハイブリッド戦略が採用されています。

代表的なのがドアパネルや車体フレームの圧入やシーム溶接、バッテリーパックケースのFSW、ECUと端子部の圧着やクリンプといった例です。
これらは「剥がれない」「緩まない」「環境規制にも対応可能」といった視点から導入が進んでいます。
また、アフターサービス(三次メンテや分解)時のリワーク性能が上がるという副次効果も見逃せません。

エレクトロニクス産業での展開

精密機器や電子基板分野は、耐熱やリサイクル性(鉛フリー化、樹脂レスパッケージ化)ニーズが顕著です。
「接着剤で組み立てたものは再分解しにくい=リサイクル困難」とされるため、初めから分解容易な機械的固定(スナップフィット、クリップ接合)、または基板側を溶接ナシで圧着して組み立てる工法が広まっています。

スマートフォンやモバイル機器メーカーの一部では、ねじ止め・スナップフィット構造の比率を増やし、分解修理性や廃棄時の分別性を高めています。
これがSDGs時代の企業イメージアップにも直結しています。

建材・鉄道・航空機での革新

鉄道車両や航空機分野では、「リベットレス化」「パネル一体成形」「複合材用の新型圧着接合(リベットフリー)」などの動きが加速しています。

特に航空機ではボンディング接着剤の見直しが世界的に進み、設計段階から「接着剤フリー」の仕様へシフトする動きが活発です。
建築部材では、トラスや梁の機械結合・ボルトレス工法の開発も進み、超高層建設現場で採用例が増えています。

調達・購買担当・サプライヤー目線で考える 「接着剤を使わない接合」導入のポイント

導入リスクとメリットの両面検討が重要

バイヤーやサプライヤーの立場からは、接着剤レス工法の「初期投資コスト」「調達性」「サプライチェーン安定性」「リワークや修理費用」などを汎用接着剤と比較し、慎重に見極める必要があります。

例えば、圧入やカシメは工程装置費用が大きめですが、ランニングコストが極小で済みます。
一方、FSWなど溶接ラインの自動化は設備回収までに長期間を要しますが、グローバル調達時の法規制・環境対応で優位に働きます。

案件ごとに「将来の部品調達性(入手性)」「昇進・リプレース対応性」「サプライヤー内作か外作か」「特許技術との関連」など、獲得利益とリスク許容度のバランスを見極めましょう。

バイヤーが求めるサプライヤーへの期待値

サプライヤー側は、「既存部品設計の見直し」「組立工法ごとのコスト提示」「長期安定供給に資する自社能力やノウハウ開示」「工程不良削減提案」「省人化・自動化の実績や事例」などを積極的に発信することで、バイヤー側との信頼構築が加速します。

また「昭和型の固定観念」を打破し、業界横断での技術習得や同業他社との共同開発・標準化も、今後はますます差別化ポイントとなります。

【まとめ】昭和的な発想を超えて、次の時代のものづくりへ

接着剤を使わない接合技術は、単なるコスト削減手段ではありません。
それは「環境対応とSDGs」「製品寿命の長期化・リサイクル性」「生産現場の働き方改革」「安全性・品質安定性向上」「脱炭素時代のグローバルサプライチェーン確立」といった、現代ものづくりが向き合うべき課題への解決策にも結びついています。

昭和的な「慣習」「思い込み」や、アナログな現場ルールを一旦立ち止まって見直し、「本当に必要な接合方式は何か」「顧客価値につながるのはどれか」を再定義する時期がきています。
今後は、現場主導での工法開発、購買部・設計部との連携強化、サプライヤーが持つ現場ノウハウの企業全体共有が、競争優位を築くうえで重要な武器となるはずです。

接着剤を使わない接合技術の最新動向や事例を、現場・経営・購買それぞれの立場からアップデートし続けることが、未来のものづくり改革の大きな一歩となります。
あなたもぜひ、今日から現場の「小さな工夫」や「新しい提案」に目を向けてみてください。

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