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印刷後のインククラックを防ぐための乾燥温度と柔軟剤の調整

目次
はじめに:印刷業界におけるインククラック問題とは
印刷業界において、完成品の品質を左右する重要な課題の一つが「インククラック」です。
インククラックとは、印刷工程後にインク表面に生じるヒビ割れのことを指します。
これは見た目の美しさを損なうだけでなく、耐久性の低下やクレーム発生の原因にもなり得ます。
特に、素材の伸縮による影響を受けやすいTシャツや布生地へのプリント、パッケージフィルム、工業用ラベルなど、多岐にわたる現場で頻出する現象です。
この問題は「昭和のアナログ的な経験頼み」の現場がいまだ多い日本では、マニュアル化が十分ではなく、属人的なノウハウに依存している傾向も見受けられます。
今回は、印刷現場のリアルな目線から、インククラックを防止するための乾燥温度管理と柔軟剤(プラスティサイザー)調整の実践的方法、業界動向を踏まえた最新の知見を解説します。
インククラックの発生メカニズムと主な原因
インククラックの基本的な発生要因
インククラックが発生する主な要因は、以下の三点に集約できます。
– 乾燥不良(温度・時間・加熱方法)
– インク成分(樹脂、顔料、柔軟剤等)のミスマッチ
– 基材(素材)の膨張・収縮や相性の悪さ
一言で言えば、「インク層の柔軟性」が足りない、あるいは柔軟すぎて密着力が弱まっている、というアンバランスが原因です。
特に近年は、より環境配慮型の水性インクや溶剤フリーインクも多く使われるようになり、過去のオフセット印刷やシルク印刷とは乾燥・硬化条件も大きく変わっています。
典型的な現場の失敗例
– 乾燥工程の温度を上げすぎてインク表面だけが硬化し、内部に残留水分・溶剤がこもりヒビ割れ
– 逆に乾燥温度が低すぎてインクが十分にフィルム化せず、柔軟性不足
– インクメーカーの推奨柔軟剤を使いすぎて、密着力が逆に低下
– 生産管理側が「とにかく加熱すれば良いだろう」という根拠のないマニュアル運用
どれも、設備任せ・経験任せになりがちな日本の中小印刷現場でしばしば見かける光景です。
昭和の「一発勝負」「現場感覚任せ」から抜け出すには、理論と現実の両輪が不可欠です。
乾燥温度が与えるインククラックへの影響
なぜ適切な乾燥温度が重要か
インクの乾燥は、実質「溶剤や水分を適切に揮発、樹脂・添加剤のフィルム化を制御する」プロセスです。
乾燥が適切であれば、インク内の樹脂が均一に並び、柔軟性と強度のバランス良い皮膜に仕上がります。
しかし、温度が高すぎれば「オーバードライ」となり、表層だけがガチガチに固くなり、内部の柔軟性が損なわれます。
逆に低すぎる場合、完全に乾燥・硬化せず、後工程(トリム、折れ、熱加工等)でクラックしやすくなります。
乾燥曲線の「スウィートスポット」発見法
経験則やインクメーカーの指導に頼りがちですが、現場が自信を持って判断するには「乾燥曲線の記録と分析」が有効です。
具体的には、下記のステップが現場改善に役立ちます。
1. 代表的な印刷条件ごとに、乾燥炉や熱風オーブンの搬送速度、炉内温度をパラメータ化する
2. 出口でインク表面温度(非接触温度計使用)・柔軟性テスト・フィルム厚さを確認
3. 各条件でのクラック発生率(加工後、折り曲げ試験、ミクロ断面観察なども活用)
4. 最適(スウィートスポット)な温度と速度条件を現場の標準として制定
この「データ可視化」は、人的スキルへの依存度を減らし、新人や派遣社員でも安定品質を出せる現場作りにつながります。
柔軟剤(プラスティサイザー)調整の基礎知識
柔軟剤は諸刃の剣
柔軟剤(可塑剤)は、インクの樹脂層に柔軟性を与え、折れやすさを格段に抑える添加剤です。
しかし、入れすぎは「ベタつき」「表面強度の低下」「密着不良」などの問題を引き起こします。
また、ベースとなるインクのレジン・顔料との相溶性によっては、時間が経つと「ブリード(にじみ)」が生じる場合もあります。
業界では「適正量を守る」「推奨配合率の範囲内で、現物を見て最終調整する」ことが鉄則です。
柔軟剤調整の現場的ベストプラクティス
– ロットごと、季節ごとの素材変動に応じて、柔軟剤の配合インチアップ(最大でも推奨比の120%まで)
– ミキサーでの十分な撹拌、溶剤型の場合は分離沈殿しないか毎回チェック
– テストピースでの「高速折り曲げテスト」や「恒温槽テスト」を現場で実施し、その年の標準を現場掲示板に貼り出す
– 柔軟剤のロット変更時は、小ロットで検証→実生産という2段階フローにする
特に昭和的な「大雑把な目分量投入」でごまかしている現場は、一度仕組みを見直すだけでも大きな品質向上につながります。
基材(素材)とインククラックの関連性
素材特性を理解する
PPやPETなどのフィルム、綿・ポリエステル混紡布、特殊樹脂など、近年は多様な素材が使われています。
素材ごとの表面張力、吸湿性、伸縮性に配慮せず、インクや温度、柔軟剤量を「一律」にするとクラックが激増します。
サプライヤー(材料メーカー・商社)のデータシートを活用し、「素材ごとの相性」を社内KAIZEN会議で共有する文化が求められます。
業界動向:DX・AI時代のインククラック防止対策
設備の自動化と温度・速度のIoT管理
今後は、オーブン内の温度ムラや速度制御を「人任せ」にするのではなく、センサーやAIカメラによる自動記録、異常時アラート、遠隔調整などの仕組み作りが進みつつあります。
特に量産ラインでは、異常兆候(小さなクラックや温度振動)をリアルタイムで検知し、「未然に止める(ポカヨケ)」方法の導入が進んでいます。
バイヤー・サプライヤーが協業する価値
バイヤー視点では「一定品質・歩留まり率で納入」という要求は年々高まっています。
一方、サプライヤー現場が「どういう調整が難しい」「どの範囲までは安定供給可能」など、実態を正直に伝えることで、無理な要求やムダな検査のコスト削減も可能となります。
インククラックは、発生時だけでなく「未然防止」の情報共有(NG事例・傾向値報告など)が、両者の信頼関係を深める鍵です。
まとめ:現場目線で「小さな改善」を積み重ねる意義
印刷後のインククラックを防ぐには、乾燥温度管理・柔軟剤の調整という両輪を、データに基づき「現場で納得できる改善」を続けることが重要です。
属人的・昭和的なカン頼みを脱し、IoTやテストピース運用など、地道な仕組み化が品質安定とコスト削減を両立させます。
また、バイヤー、製造担当者、サプライヤーが「問題を隠す」のではなく、「課題を見える化し、共に対策する」ことが、今後の製造業発展の鍵と言えます。
一人ひとりの現場改善が、会社全体の競争力となり、印刷業界の更なる成長へとつながります。
ぜひ、この記事をきっかけに、あなたの現場でも小さな一歩を踏み出してみてください。
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