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スリッパのアッパー部分が足にフィットする縫製テンションの調整

目次
はじめに:スリッパの製造現場から見たアッパー部縫製の重要性
スリッパという日用品は、一見すると単純な製造工程でできているように思われがちです。
しかし、実は快適さや耐久性、美しさを左右する数多くのノウハウが詰まったプロダクトです。
そのなかでも、足の甲にあたる「アッパー部分」の縫製テンションの調整は、ただの工程の一つを超えた、製品品質の根幹を担うポイントです。
スリッパのアッパーがゆるすぎれば、足にフィットせず、歩行中に脱げやすくなったり、シワが寄って見た目や履き心地を損ないます。
逆にきつすぎれば、足を締め付けて不快感を与え、消費者からのクレームや返品の原因にもなります。
本記事では、大手製造業の現場で培った経験をもとに、スリッパのアッパー部分の縫製テンション調整の実際、業界のアナログな現実、これからの発展の方向性をあわせて解説します。
現場目線のリアルな課題や、その対処法に迫る実践的な内容を、バイヤーや熟練のサプライヤー、業界に興味のある方に向けてお伝えします。
アッパー縫製テンションとは何か
テンション調整の基礎知識
縫製における「テンション」とは、糸にかかる張力を意味しています。
スリッパの場合、上糸と下糸のバランスや生地の引き加減によって、仕上がりが大きく異なります。
「アッパー」部分は素材や形状が多様であり、どのようなテンションで縫うべきかは設計上の要求や商品グレード、用途によって大きく変わってきます。
例えば、柔らかい合成皮革のアッパーは、布帛やパイル地に比べてテンションを強めにする必要があります。
一方で、厚地のファブリックやクッション入りの素材では、必要以上のテンションをかけると縫い目が生地を引きつり、波打つ仕上がりになったりします。
フィット感を左右する縫製工程の工夫
縫製テンションが最適化されているかどうかは、スリッパを履いたときのフィット感に直結します。
例えばフットベッド(インソール)と、アッパーの端部の縫い合わせ。
ここでテンションが強すぎると、ベッド部が湾曲して足を圧迫、弱すぎるとアッパーが広がり足が滑りやすくなります。
現場ではこの微妙な調整を、機械設定に頼り切るのではなく、熟練した作業者の“手の感覚”と“目視検品”によって行うことが主流です。
この“アナログ”な現場発想の強さも、改めて見直すべきポイントです。
昭和から抜け出せない?縫製現場のリアルと課題
定量管理が難しい工程、それを支える現場力
多くの製造業がデジタル変革へと舵を切る一方で、スリッパ等の縫製業界、特にアッパーのテンション調整は「勘と経験」が支配する“定性的管理”が依然として主流です。
なぜなら、素材ごと・形状ごとに最適な値が定量化しづらく、現場スタッフの五感による微調整が必要だからです。
<例:ある縫製工場のケース>
年間数十万足のスリッパを生産する工場でも、新素材変更のたびにサンプル縫製を繰り返し、仕上がりごとに縫製テンションを手動調整しています。
標準化や自動調整が行われていないのは、一概に“遅れているから”ではありません。
むしろ、柔軟に対応できる“アナログな現場力”そのものが付加価値となってきた実態があるのです。
主幹スタッフの高齢化と技術継承の壁
しかし一方で、熟練した縫製スタッフの高齢化と人手不足は、今後の大きな課題です。
新人や海外スタッフにとって、「どの程度が最適テンションか」「どれだけ引っ張って縫えばよいか」といった暗黙知の継承が難しく、品質安定化の道のりは平坦ではありません。
また、経営側・工場長クラスとしては、テンション設定のナレッジを何らかの方法で“見える化”し、再現性を高めたいという思いも強いはずです。
自動化に向けた動き・テクノロジー活用事例
力覚センサーやスマートミシンの導入例
近年、一部の先端縫製工場では、縫製ミシンへ張力センサーや力覚センサーの取り付けが進んでいます。
例えば、ミシン本体が生地の抵抗値や糸張力をリアルタイムで測定、適正テンションを自動制御する事例も登場しています。
センサー付きミシンでは、オペレーターが生地ごとに設定した数値を保存して呼出可能にしたり、張力の履歴ログを取得してトレーサビリティ向上や品質改善につなげることもできます。
しかし、スリッパのアッパーのように「立体的な引き加減が多方向に及ぶ部位」では、完全自動化にはもう少し時間がかかるのが現状です。
ベテランの“勘”を数値化するための工夫
“昭和的な手作業”と“デジタル管理”の架け橋として、画像認識AIによる縫い目の波打ちやシワの自動検知、テンション異常時の検出なども実用化が進んでいます。
また、テンションフィードバックシートを作成し、作業者ごと・生地ごとの推奨張力を計測&記録しておく取り組みも有効です。
複数の作業者が入れ替わるラインの場合、人によるテンション差がかなり顕著に表れるため、ミシン単位での標準設定、結果のフィードバック、短いサイクルでの現品サンプルチェックがカギとなります。
なぜアッパーのフィットが重要なのか?
消費者の求める「快適さ」との直結
スリッパの購買理由の多くは、「足へのフィット感」「柔らかさ」「脱ぎ履きのしやすさ」「長時間の快適さ」にあります。
どんなにデザインが良くても、アッパー部分の縫製テンションがずさんだと、すぐに履かなくなってしまうことも少なくありません。
また、法人販売やホテル納入の場合は、「幅広の足でも窮屈に感じない」「多数の利用者でヘタリの出にくい堅牢な縫製」が求められるため、耐久検品も欠かせません。
クレーム・返品リスクの低減
アッパー縫製における不良発生事例には、
・履き口が波打つ、シワが寄る
・片足ごとにテンションが異なる(違和感)
・縫製時に素材が伸びて左右寸法が揃わない
といったケースがあり、納入後に大きなクレームや返品率増加に直結します。
こうした不具合を減らすためにも、アッパー部分のテンション調整は「現場スキル+機械化・見える化」の両輪で進めるべきテーマだと言えます。
現場で活かせる実践ポイント
今日からできるアッパー縫製ラインの改善アクション
1. 作業標準書への簡易コメント記載
「この生地はややタイトめのテンションで」「最初の3cmは強め、その後は緩めに」など、ベテランのコメントを作業標準書や指示書に加筆し新人にも伝える
2. 仕上げチェックのダブル化
1名の作業+他の第三者によるランダムチェックを加えることで、ヒューマンエラーや慣れによる見落としを減らす
3. 生地ごとのテンションレシピ作成
素材ごと、入荷ロットごとの微妙な違いを集積した「縫製テンションレシピ」を紙やデータベースで共有し、業務の属人化を抑制する
4. スポット教育・ナレッジ共有会の実施
特異な素材や新製品受注時には、縫製担当者への事前研修や失敗事例の共有会をタイムリーに開催する
今後に向けた進化と業界動向
今後、国内外の人材不足や賃金上昇、QCD(品質・コスト・納期)競争の激化によって、縫製ラインの自動化、標準化、DX(デジタル化変革)は一層加速していくでしょう。
しかし、アッパー部分のテンション調整に代表される“人間の感覚領域”は、急激な完全自動化が難しい「最後の砦」とも言えます。
ここで重要なのは、現場作業者の持つノウハウ(暗黙知)を形にして次世代へ継承するための仕組み作りです。
ベテランの“匠の技”と“最新技術”のいいとこ取りで、「伝統と革新のハイブリッド」なスリッパ製造現場を目指していくことが、これからの競争力強化に直結します。
まとめ:アナログの積み重ねと一歩先の変革を大切に
スリッパ一足のクオリティを左右するアッパー部分の縫製テンション調整という、現場に根付いたテーマでは、デジタル化が進みきらない“グレーゾーン”にこそ現場の意義が集約されています。
購買担当(バイヤー)としては、テンション調整の難易度や熟練度を加味した見積もりや発注先選定、サプライヤーとしては作業の標準化と現場力の両立―差別化の視点を磨くことが肝心です。
昭和的アナログの価値を見直しつつ、一歩先を見据えてデジタルとの融合を進めることで、現場スタッフも管理層も、次の時代に誇れる“ものづくり”を実現できるのではないでしょうか。
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