投稿日:2025年10月18日

缶ジュースの泡を抑える注入ノズル速度と脱気時間の調整

はじめに

缶ジュースの製造工程では、炭酸ガスや空気の混入を抑え、品質と効率を両立させることが重要です。
特に問題となるのは、注入時に発生する泡です。
泡は製品容量のバラツキ、ラベル不良、缶の膨張、品質クレームなど数々のトラブルを引き起こすため、現場では“泡をどう抑えるか”が長年の課題として取り組まれてきました。
本記事では、現場で実際に効果のあったノウハウとともに、缶ジュースの注入ノズル速度、脱気時間の調整方法について、具体例や業界動向も交えて深掘りします。

なぜ缶ジュースは泡が立ちやすいのか?

炭酸飲料で発泡しやすい理由

缶ジュースの多くは炭酸飲料です。
炭酸飲料は、液中に二酸化炭素が高濃度で溶けています。
注入の衝撃や気圧変化によって、液中のCO₂が急激に気化し、泡となって放出されます。
この泡が製品の容量不足や後工程の問題につながります。

前工程の脱気が大切な理由

缶ジュースの製造工程では、原液や加炭済み液体をタンクで貯蔵する際にも微小な気泡が混入しています。
この気泡が、そのまま注入工程に流れることで泡立ちやすくなります。
そのため、充填前の脱気が重要とされています。

缶ジュースの注入ノズル速度調整の基本

ノズル速度を落とせば泡立ちは減るのか

一般的に充填速度(注入ノズルの流量や落下速度)を遅くすれば、液体の衝撃が小さくなり、泡立ちは軽減できます。
しかし、生産現場では「速度を落とす=生産台数が減る=コストアップ」です。
単純に速度を下げることはできず、“生産性と泡抑制”という二律背反の課題を現場では追求しています。

現場で実践されている速度調整例

経験則として、缶のサイズや液質(糖度や炭酸濃度、添加物)によって最適値が異なります。
例えば、糖度が高めの缶コーヒーや、低炭酸の健康志向飲料は泡立ちが比較的起きにくい傾向にあり、注入速度を0.6L/秒から0.8L/秒程度に上げても支障が出にくいです。
一方、強炭酸ドリンクや果汁飲料では、0.4L/秒未満まで速度を落とすことでバラツキが減少します。
現場では、エアレーション(泡立ち)を鋭敏にするサンプリング方法として、毎時20本づつ抜き取り、重量・液面・泡残り量を比較して調整しています。

ノズル形状や材質も速度と密接な関係

ノズル先端が単純なパイプ形状では、落下衝撃が強まり泡が増えます。
そこで、ノズル内部に円錐フィンやスパイラル状の流路を設けて急激な流速変化を防ぐタイプが登場しています。
また、シリコンやフッ素樹脂など低付着タイプのノズルが、液ダレや泡付着を最小化する補助的技術として根付いています。

脱気時間の調整方法とその効果

脱気のタイミングと方式

製造ラインでは液体を充填タンクからサブタンクに送り込み、さらに缶に注入します。
このどこで脱気するかがポイントです。
代表的な脱気方法には「減圧脱気法」「超音波脱気法」「膜脱気法」などがあり、それぞれ設備投資や制御のしやすさが異なります。

経験に基づく脱気時間の設定例

一般的に、1バッチ(約1000L〜5000L)に対し、初動で10〜15分程度の脱気を行い、ライン稼働中は5分ごとに循環脱気をかけるパターンが多いです。
ラインのリセットや品種切り替え時には、泡や気泡の残留を避けるため「20分」の長時間脱気・サブタンク洗浄を行うのが現場では定番です。

脱気不足が引き起こすトラブルとコスト意識

生産ロスが最も多いのは「泡による内容量不足」クレームです。
また、残留酸素による液色変化・風味劣化も見逃せません。
現場では、“脱気による歩留り改善で1ライン当たり年間500万~800万円”の損失改善事例があります。
これは単なる工程改善だけでなく、脱気装置への投資判断にも直結する重要データです。

泡抑制トラブルシュート!現場での対応ノウハウ

泡が取れない場合のリアル対応策

脱気や注入速度調整でも泡が抑えられない場合、現場では下記の対策を講じます。

– 缶供給時に缶自体をプレウォーム(人肌程度に温める)
– 製造設備のバイブレーターを停止し、微振動による泡立ち誘発を防ぐ
– エアブローや仮真空で、缶内部の浮遊気泡を飛ばしてから充填
– 泡消し専用の食品添加物(天然由来可)を併用する
– 製品切り替え時のライン内洗浄剤の種類や濃度を見直す

現場改善で生まれるチームワークと風土

こうした現場改善は、調達部門・生産部門・品質部門、さらには協力サプライヤーとの連携で実現します。
「注入速度を下げないで泡を抑えたい」という現場の声を生産技術がくみとり、新ノズルや脱気装置の共同開発につなげる事例も多くあります。

これからの業界動向とデジタル化への期待

缶飲料業界の慢性的アナログ体質と変革の胎動

製造現場では、旧来の経験則や“ベテランの勘”に頼るケースが今なお多い状況です。
条件が再現性を持って記録・分析できないため、属人化・俗人化が進みます。
しかし、IoTを組み込んだ充填装置や、AIを活用した泡量画像解析装置の導入が増えてきました。
これらは生産性・品質向上だけでなく、生産現場の人材教育改革にもつながっています。

脱気・泡抑制とSDGs、環境対応

泡発生を防ぐことは、「製品無駄ロスの低減=食品廃棄削減」と直結し、サステナブルな生産活動の根幹です。
また、適正充填による軽量化・省資源化も各社で追及されています。
最近ではノズル素材・洗浄方法の見直しによる水使用量・排水削減も注目されています。

まとめ:泡抑制技術の知恵から現場を変える

缶ジュース製造における注入速度と脱気時間の調整は、単なる品質管理にとどまらず、生産効率や環境対応、さらに職場のチーム力やデジタル変革へと広がっています。
現場の知恵をベースにしつつ、時代の変化をラテラルにとらえ直し、これからも学びと改善を続けることが、製造業全体の持続的な発展に寄与します。

※本記事の内容は、筆者の現場経験と業界の最新動向に基づいて作成しました。
製造現場で日々奮闘する皆さんや、バイヤー・サプライヤー双方の視点で新しい地平を切り開く参考にしていただければ幸いです。

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