投稿日:2025年8月20日

危険地域通行の保険付保漏れでの不担保を避ける事前申告運用

危険地域通行の保険付保漏れでの不担保を避ける事前申告運用

はじめに‐製造業に潜む「保険の見逃し」というリスク

製造業において、グローバル展開は避けて通れないテーマです。
近年では、部品調達のために海外サプライヤーとの取引が増加しています。
一方、同時に高まるのが「物流リスク」です。
特に治安が不安定な地域を通る物流では、「危険地域通行」による損害リスクをカバーする貨物保険の果たす役割が大きくなっています。

しかし、日本国内の多くの現場では「保険付保の漏れ」や「不担保」というワナに知らぬ間に陥ってしまうケースが後を絶ちません。
アナログ慣習が色濃く残る業界だからこそ、事前申告というシンプルな運用ルールさえ徹底できていない企業も存在します。

本記事では、製造現場目線で危険地域通行時の保険付保漏れを防ぐ事前申告運用について深掘りしながら、そのリスクと解決策、業務フローへの落とし込みまでを解説していきます。
バイヤーを目指す方、サプライヤーの立場からバイヤーの考え方を知りたい方にも必ず役立つ実践知をお伝えします。

なぜ危険地域通行時の「事前申告」が必要か

保険契約の「不担保」とは何か

多くの企業が貨物保険を利用して国際物流の損害リスクを低減していますが、実はすべての地域やすべての条件で自動的に保険が適用されるわけではありません。
一般的な貨物保険証券では「危険地域」の通行について、付保前に事前申告が求められています。

この「事前申告」とは、「この区間をこの船便で通ります」と保険会社に告知し、承認(引受)を得ることです。
これを怠ると、たとえ保険料を払っていても、「危険地域通行」に起因する損害は保険金支払いの対象(=担保)とならず、「不担保」になってしまいます。

なぜ「付保漏れ」が起こるのか

付保漏れが生じる背景には、製造業独特のサプライチェーンが関係しています。
たとえば「A国→B国→日本」といった複数国をまたぐ間接調達の場合、中間拠点や輸送ルートが現場の購買担当に完全に把握されていないことが多いのです。

また、フォワーダーや物流業者に丸投げしたことで記録や申告が散逸し、情報が伝達されないことも多発します。
「社内で誰が、どのように、いつ申告するのか」が明確でないため、せっかくの保険契約が「なかったもの」になってしまうのです。

現場でよくある“昭和的アナログ管理”と落とし穴

紙ベースの伝達、属人管理の恐怖

私が製造業の現場で何度も見てきたのは「紙でのやりとり」「担当者の口頭伝達」だけで終わるプロセスです。
製品発注のたびに形式的に「保険OK」と記載するだけで、危険地域か否か、保険証券や契約内容そのものがきちんと精査されていません。

属人化ゆえに、担当者が異動あるいは退職するとナレッジごと消失し、いざ事故発生時に「誰も分からない」事態を招きます。
システム化が進んでいない、エクセル管理ですら情報連絡が手作業…業界のルーティンが課題です。

「バイヤーとサプライヤー」の摩擦—どちらの責任?

しばしば見かけるのが、バイヤーは「保険申告はサプライヤーがやるもの」と思い、サプライヤーは逆に「バイヤーが用意するもの」と捉えてしまい、結果として「誰も申告していなかった」という現象です。

責任分界点が曖昧なだけでなく、そのタイミング(輸送手配依頼時、発注時、書類作成時)を誰も意識していない場合、問題が水面下で進行します。
この認識ギャップが、万が一の際に莫大な損失につながりかねません。

海外購買、危険地域判定のカギと最新の業界事情

危険地域の定義は「動的」—常に最新情報をチェック

例えば中東、東南アジア、アフリカ諸国などは年単位で政情や治安情勢が激変します。
国によっては、昨日まで安全地域だった港や道路が、突如危険地域に指定されることもあります。

保険会社ごと、証券ごとに危険地域リストは異なります。
経済産業省や外務省が発表する危険情報も参考にすべきですし、保険代理店やフォワーダーが提供する最新リストを入手してアップデートすることが実務的に重要です。

「AI・IoT活用」の流れも増加中

近年、一部の大手メーカーやロジスティクス企業ではAIを使ったリスクポートフォリオ管理、IoTトラッキングによる「リアルタイムでの危険地域通行モニタリング」も進みつつあります。
運行経路の自動検知とリスク通知、保険申告システムとの自動連携など、業界のアナログ化が徐々に変わりつつあるのです。

しかし、すべての中小・中堅企業でこのようなシステム導入ができるわけではありません。
人と仕組みで着実にリスク回避する地道な工夫も依然として必要です。

実践的!現場で「事前申告運用」を徹底するポイント

1. 誰が「いつ」「何を」チェックするかの明確化

まずは社内基準として、「物流手配を行う際に、必ず危険地域リストを最新に更新し、該当する場合は保険会社へ申告する」フローを文書化してください。

主担当(例:購買部、物流部)を決め、サブ担当とダブルチェック体制を組みます。
出荷前(受注前)に担当責任者印を押すなど、確認フローを可視化しましょう。

2. 取引契約書や発注書に「保険申告責任分担」を明記

トラブルを未然に防ぐため、バイヤーとサプライヤー間で責任の所在をはっきりさせることが極めて重要です。
秘密保持契約(NDA)や基本契約書、発注書の備考欄に「危険地域通行時の保険申告および付保業務はバイヤー/サプライヤーが行う」と明記しましょう。

曖昧なまま取引を進めれば、万が一の時に泥沼の責任追及合戦となりかねません。

3. 教育と社内周知の徹底—現場担当を巻き込む重要性

せっかくフローを定めても、現場に「なぜ必要なのか」が伝わらなければ形骸化してしまいます。
定期的な社内研修やメルマガ、マニュアル配布で、具体例(過去のトラブルなど)を交えてリスクの高さを周知してください。

現場の物流担当者、調達担当者、仕入先との窓口担当も巻き込んで、現実の業務に落とし込むことが重要です。

まとめ:アナログから脱却し、事前申告運用を現場に根付かせるには

危険地域通行の際の保険付保漏れは、製造業におけるサイレントリスクともいえます。
特にアナログな現場体質が残る企業では、「仕組み」「現場意識」「情報伝達」と三位一体で改善を進めることが求められます。

本記事で紹介した「担当・責任の明確化」「契約での責任分担」「現場教育と周知徹底」という3つの柱を運用のスタンダードにすることで、リスクを大幅に減らすことが可能です。
業界最前線で生き抜いてきたからこそ体得した実践ノウハウを、ぜひ皆様の現場にも活用いただき、「昭和の管理」から一歩前へ踏み出してみてください。

グローバルサプライチェーン時代の物流リスク管理は、常に進化しています。
丁寧な事前申告運用で、思わぬ損失やトラブルを未然に防ぎ、安心して生産・購買活動を推進しましょう。

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