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見える化を訴えるのに自分の提案を見える化できない矛盾

目次
はじめに:見える化が叫ばれる製造業のいま
多くの製造業では「見える化」がキーワードとなり、業務改善や効率化に必須の取り組みとして広がっています。
生産現場に限らず、調達購買や品質管理、さらに工場の自動化推進の場面まで、あらゆる領域で“見える化”という言葉が大きな力を持っています。
しかし現場では、見える化を推進するリーダー自身が「自分の提案」を十分に見える化できていない、またはその矛盾に気づかずに突き進んでしまう事例が少なくありません。
この現象は、昭和から続くアナログ体質の名残や、属人的な判断がしみついた会社文化に根深く関わっています。
本記事では、製造業現場で20年以上培った実体験をもとに、「見える化を訴えるのに自分の提案を見える化できていない矛盾」を多角的に掘り下げます。
現場目線のリアルな課題分析と、ラテラルシンキングで未来を開拓するための提案―これを通じて、今後の製造業の発展に役立つ情報をお届けします。
見える化の意義と現場課題
なぜ見える化が重要なのか
見える化とは、本来“属人化した作業”や“暗黙知”を数値やグラフ、図表、フローチャートなどで誰でも理解できる形に表現し、情報共有や意思決定を迅速・的確に進めるための取り組みです。
長年の経験や勘に頼っていた昭和的な現場のやり方から、「データドリブン」や「プロセスオリエンテッド」なモノづくりへのシフトを加速させる原動力とされています。
品質トラブル時の早期対策、調達・在庫最適化、納期遵守、生産性向上、省人化・自動化の推進など、さまざまな場面で“見える化”の恩恵を受けている工場も多いでしょう。
「言うは易く、行うは難し」な現場の現実
ところが、実際の現場で見られるのはこうした理想像だけではありません。
見える化を声高に叫ぶものの、自身が提案する改善案やプロジェクトの内容が社員や関係者にうまく伝わっていない、あるいは腹落ちしていない例が散見されます。
なぜなら、見える化推進者自身が「自分の提案自体を見える化できていない」からです。
提案者の頭の中では“全て理にかなっている”つもりでも、企画書や説明会で資料を見せられたメンバーには「背景が分からない」「何をしたいのかピンとこない」「自分事として腑に落ちない」といった戸惑いが広がっている。
この“矛盾”こそが、見える化推進の本当の壁といえるでしょう。
どこに矛盾が発生するのか?
提案の曖昧さと情報の不足
例えば、現場改善や工程自動化に関する提案内容が、「A設備の稼働率向上を図るため、設備IoT化を進めます」という一文に終始してしまう。
これでは、現場オペレーターや協力する他部門、購買担当者には以下のような疑問が生じます。
– なぜIoT化するのか?(課題は何か?)
– 具体的に“どのように”進めるのか?(詳細プロセスは?)
– 誰が何を担当するのか?
– コストや効果はどのくらい?
– どのような指標やグラフで成果を見せるのか?
このような疑問に先回りして応え、“提案そのもの”を見える化できていなければ、せっかくの改善案も共感や協力を得られず立ち消えてしまうのです。
業界特有のアナログ文化と属人性
多くの製造現場には、「昔からのやり方」や「ベテランの勘」が尊重される文化が根付いています。
形式的な報告資料や数字だけではなく、「OOさんに聞けば分かる」「こういうときはXXの手順で進めるんだよ」という“空気感”が実際の業務を動かしている。
そこへ、急に“デジタルで見えるようにしよう”という掛け声だけが独り歩きすると、昭和的な文化との軋轢が生じ、「また言うだけで終わる改革か」という反発を招くこともしばしばです。
こうした現場と上層部の「見える化」に対する温度差、暗黙知の部分を放置したままの提案こそが、矛盾を生み出す根本原因といえます。
バイヤー・サプライヤー間の見える化ギャップ
調達購買とサプライヤーとの付き合いにおいても、「なぜこの品質基準が必要なのか」「なぜこの納期短縮が求められるのか」といった根拠や背景が見えないままリクエストされていることが少なくありません。
サプライヤーの現場からすると、“顧客都合・バイヤー都合”が優先され、情報が断片的なまま作業指示だけが降ってくる、そんな不満が溜まりやすい現状があります。
反対に、バイヤー側も“全体最適”を狙っているつもりでも、現実には「自分の調達案がサプライヤー現場でどう映るか」までは見えていないものです。
この双方向の見える化の未徹底が、シームレスなパートナーシップや効率的なモノづくりを阻んでいる要因となっています。
矛盾を打破するためのラテラルシンキングとは
“二階層上”の見える化を心がける
見える化は、単にデータやKPIをグラフ化するだけで終わりではありません。
「プロセス」「目的」「背景」「仮説」「関係者相互のメリット」など、二階層・三階層上の情報まで棚卸しし、多角的に見える化することが非常に重要です。
たとえば、提案プレゼンでは以下を意識します。
– なぜこの課題解決が今、自社に求められるのか背景まで語る
– どんな場面で、誰にどう“困って”ほしくないのか相手目線で示す
– 利害関係者それぞれの“得失”を図で俯瞰し、関係構造を見える化する
– シナリオや「if/then(もしこうなったら)」を複数用意し、柔軟性を持たせる
このように多面的な可視化ができれば、現場社員もサプライヤーも「自分たちのこと」として主体的に改善活動に向き合いやすくなります。
“見える化”にストーリーを持たせる
提案に納得感が生まれないのは、“ストーリー”が欠如していることが大きな要因です。
例えば、単純なグラフや分析結果だけでは伝わりにくいとき、以下のような物語性を盛り込むと効果的です。
– 特定工程で「毎日30分、重複作業が発生」と数値で示すだけでなく、その“影響”や“現場の日常”、改善後にどんな理想状態があるかをストーリー化
– 定量的なデータのみならず、現場作業員やサプライヤーの“体験談”や“困りごと”を紹介
– “あるべき姿”だけでなく、“現状・ギャップ”にも焦点を当て、腹落ち感を創出
ストーリーがあれば、提案の目的や価値が伝わりやすくなり、現場全体が「巻き込まれている」状態を生み出せます。
全員が参加しやすい“しくみ”を作る
見える化の矛盾を打破するもう一つのアプローチは、「情報発信のしくみ」を進化させることです。
提案者だけが説明会で頑張るのではなく、現場サイドや他部署・サプライヤーも双方向で意見発信し、フィードバックを受け取れる場を用意すること。
たとえば、
– 進捗可視化ボード
– 社内SNSやチャットツールによる“現場の声”の掲示
– 成功・失敗事例を社内勉強会でオープンに共有する
など、イノベーションが自然に生まれる「オープンな場」を徹底することで、トップダウン提案だけにならず全員が“当事者意識”を持つようになります。
これらはアナログ文化や属人化体質でも比較的導入しやすく、大きな拒否反応なく活用できる方法です。
バイヤー視点・サプライヤー視点で「見える化」するコツ
バイヤーを目指す方へ:顧客・現場の本当のニーズを“見える化”せよ
製造業のバイヤーを目指す方に求められるのは、いわゆる“コストカットだけ”の発想から脱却し、「現場や顧客がどこで本当に困っているのか」を多面的に可視化できる能力です。
– QCD(品質・コスト・納期)の全バランスを俯瞰
– 調達戦略をKPIやグラフで可視化するだけでなく、現場担当者やサプライヤーの視点で“困りごと”まで棚卸し
– サプライヤーに丸投げせず、「なぜこの依頼が必要か」を背景ごと説明し、相互理解を深める
こうした「提案そのものの見える化」ができる人こそ、これからの時代に活躍できるバイヤー像です。
サプライヤーの方が知りたい、バイヤーの“本音”の見える化
サプライヤーとしては、バイヤーからの依頼内容だけでなく、
「なぜこの変更が急に必要になったのか」
「どんな品質リスクを危惧しているのか」
といった“背景や本音”まで理解しようとする姿勢が、長期的な信頼関係には不可欠です。
資料や会議でのやりとりだけに頼らず、現場訪問時にバイヤー担当者と雑談したり、思い切って自社から“提案”することで、一歩踏み込んだ「情報の見える化」が可能になります。
また、バイヤー側に説明資料作成を丸投げされそうになったら、逆に「私たちが御社現場を理解するために必要な情報」をヒアリングフォーマットで求めてみるのも有効な手です。
結論:見える化の“見える化”を徹底せよ
「見える化」の推進は、製造業の生産現場やサプライチェーンのみならず、すべての業務・コミュニケーションの基盤となる価値観です。
しかしながら、見える化を標榜している本人が“自分の提案”や“伝えたいこと”を見える化できていなければ、現場の心には何も響きません。
アナログ文化や属人化体質が根強い今だからこそ、「背景を多層で可視化する」「ストーリーで納得感を持たせる」「全員参加の仕組みをつくる」など、ラテラルシンキングで新しい地平を切り開くことが必要です。
バイヤーを目指す方、サプライヤーとして現場を支える方、すべての製造業従事者に、“真の見える化”を一歩進めていただくきっかけとなることを願っています。
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