投稿日:2025年7月8日

測定と実験で実践する空力騒音低減対策

はじめに:現場目線で考える空力騒音の本質

製造業の現場で実際に耳にする「ヒュー」「ゴー」といった風切り音や、設備が動き出した瞬間に感じる不快な騒音。
これらは一般的に「空力騒音(エアロアコースティックノイズ)」と呼ばれます。
本音を言えば「音なんて少しくらいしても仕方ない」と割り切ってしまいたくなりますが、近年の苦情動向や品質・信頼性要求の高まり、働き方改革による快適な作業空間の必要性など、空力騒音に真剣に向き合う時代がやってきています。

この記事では、測定や実験による空力騒音低減の現場的アプローチと、古い体質が根付く製造業ならではの課題や、調達・購買サイドが“何を重視するのか”について、20年を超える現場実体験に基づいて解説します。

空力騒音とは何か?その特徴を正しく理解する

空力騒音の発生メカニズム

空力騒音は、空気の流れ(気流)が設備や部品、構造物と干渉した際に発生します。
たとえば、送風機やエアコン、車両の窓枠、工場の搬送ラインのガード部品など、必ずしも「モーター音」や「振動音」とは限りません。
気流が段差や隙間、凹凸を通過・衝突・剥離することで、渦や乱流、圧力変動の連鎖反応が起き、それが音エネルギーへ変換されるのです。

アナログ的現場での“ありがちな誤解”

昭和から続いてきた製造現場では、「機械音=メカ的な問題」という先入観が根強く残りがちです。
現場の職人もベテラン管理職も、測定値や波形グラフより“感覚”を信じがちで、気流騒音の根本に目を向けることは多くありません。
ここを突破するのが、測定と実験に基づく次代のものづくりです。

空力騒音の測定手法:現場でも実践できる基礎

簡易測定から始める状況把握

まず取り掛かるべきは、「どこから」「どんな音が」発生しているかの見える化です。
高価なアナライザーをいきなり導入する必要はなく、最近ではスマートフォン用の騒音測定アプリや安価な携帯型騒音計でも十分に傾向を捉えることができます。
測定値が数dB単位で把握できれば、どの時間帯・どの部位・どの稼働状況でピーク音が出ているか、現場地図と組み合わせてトラブルの“ホットスポット”を特定できます。

風洞実験・簡易実験による探索

工場設備や製品の小部品では、風洞実験や小型扇風機・エアコンの送風機能を使い、風速計と騒音計を並べた手作り実験でも十分です。
アルミテープやガムテープ、粘土などで凹凸を一時的に塞いだり、流路を変更したりして、騒音値の「変化率」を追うことが、効果的な第一次アプローチとなります。
「なんとなく静かになった気がする」ではなく、「測定値が○dB下がった」とファクトで示せば、現場の納得度も段違いです。

空力騒音低減の具体的な実践手法

1. 流路と形状の最適化

風の流れを「できるだけ直線的に」「急激に曲げない」「いきなり拡大・収縮させない」。
これが空力騒音低減の基本です。
実際のメーカー現場でも、エアダクトの曲がりを緩やかにしたり、継ぎ目の段差をなだらかに研磨したり、窓まわりのゴムパッキン形状を絞り込むなどの工夫が効果を上げています。
図面や3Dモデルだけでなく、実物サンプルで試し切りやビニールシート仮設で流れを可視化する現場発案も侮れません。

2. デフレクター・撹乱防止部品の設置

気流の衝突ポイントや渦の発生部には、デフレクター(流れを整える板)や遮音カバー、低騒音グリルといった部品を追加することで、劇的な騒音低減効果が得られるケースが多々あります。
効果を可視化するには、実物でのA-B比較実験や、段ボールでの簡易モックアップ試行→即時測定が重要です。
これにより、投資費用に見合う改善効果をバイヤーへ数値で示すことができます。

3. 素材変更・表面処理による工夫

気流が当たる部位の素材を、硬い金属板から樹脂やゴム、吸音材付き部品へ切り替えることで音発生源そのものを抑え込む手法もあります。
Z世代の新しい調達・購買担当者の間では、「サステナブルな素材活用」や「生態系に優しい表面処理」(例:微細立体パターンで渦流抑制)の提案が求められつつあります。

現場とバイヤー、それぞれの思考回路

バイヤーの“重視する指標”

バイヤーが空力騒音低減策の提案を評価する際、単なる「安価・納期優先」ではなく、「どのサプライヤーが客観的データを持ち、改善実績をきちんと提示できるか」が差別化ポイントとなります。
また「規格値クリア」が当然の昨今、「実際に現場で役立つアドバイスをくれる」「設計段階から関わってくれる」サプライヤーは重宝されます。

サプライヤー側から見た“提案のコツ”

バイヤーが求めているのは「単なる静音」だけでなく、工程に組み込みやすいコスト・可搬性・メンテ性・耐久性まで含めた“パッケージ提案型”です。
「この部材にこういう対策を講じれば○dB下がり、トータルで月●万円のクレーム低減効果が見込める」と、現場データを用いて提案すれば、価格競争だけでない新たなビジネスチャンスが生まれます。

昭和的アナログ現場からの脱却:ラテラルシンキングのすすめ

“固定観念”の打破

ものづくりの世界には「音は二の次」「見えない問題よりモノの納期とコスト」といった無意識の壁があります。
AIやIoTが進展する令和の今こそ、空力騒音についても「従来通り」で終わらせず、測定・実験でファクトを可視化し、新たなアプローチで工場の音環境を革新しましょう。

OJT体験を活かしたラテラル(横断的)思考

たとえば「搬送ラインのシュート形状」「クリーンルームの循環口」「成形機の排気蓋」など、異なる設備でも同じ空力騒音の“構造的法則”が働いています。
現場OJT世代の知恵と、新たなツール・データ解析を組み合わせることで、従来の30%減、50%減といった抜本的な低騒音設計も夢ではありません。

まとめ:新たな地平を切り開く空力騒音対策

空力騒音は、従来「気にしない」「どうにもならないもの」と見なされがちな分野でした。
しかし測定・実験による確かなファクト、現場と購買の連携、そしてラテラルな発想を武器にすれば、“静かな工場” “快適な製品”を現実のものにできます。

これからは「測って伝える」「実験して示す」ことで、アナログ現場をアップデートし、製造業の新たな価値創造を目指しましょう。
この分野でチャレンジする皆さまの、確かな一歩を応援します。

You cannot copy content of this page