投稿日:2025年6月28日

ファン騒音を抑える空力設計と吸音遮音材の活用による防音対策

はじめに:製造業現場におけるファン騒音の悩み

工場や生産現場では、様々な設備を安定して稼働させるためにファン(送風機や排気ファン等)は欠かせません。
しかし、ファンが発生させる騒音は、従業員の作業環境を悪化させるだけでなく、近隣への騒音トラブル、製品品質への悪影響、さらには労働災害(難聴など)にも直結する深刻な課題です。

日本の製造業界は長年、昭和時代からの設備や手法を継承し、改善の手を入れづらい“アナログ文化”が色濃く残っています。
そのため、騒音対策は「耳栓をする」「騒音計で測定する」「防音壁で囲う」など、対症療法的な対応で済まされてきた現実も否めません。

しかし、今や働き方改革・SDGs・ESG経営の観点からも、根本的な騒音低減が強く求められています。
本記事では、ファンから発生する騒音メカニズムを分解し、空力設計および吸音・遮音材の最適活用による本質的な防音対策について、製造業現場経験に基づき深掘りして解説します。

ファン騒音の発生メカニズム

ファン騒音は大きく分けて「空力騒音」と「機械騒音」に分類されます。
機械騒音は、ベアリングやモーター、回転軸など機械部品の摩耗・振動によって発生するものです。
これに対して本記事で主に取り上げる空力騒音は、ファンの羽根やハウジング周辺での空気の乱れや渦、空気の衝突音などが主な発生源になります。

ファンの種類と騒音特徴

一口にファンといっても、「軸流ファン」「遠心ファン」「斜流ファン」など種類がありますが、軸流ファンは比較的高周波の風切り音、遠心ファンは中~低周波の“ゴー”というこもった音が主です。
それぞれで適切な防音対策アプローチも異なります。

なぜ騒音が発生するのか

ファンが高速で空気を移動させるとき、羽根の形状・角度・回転速度によって周囲の空気が振動し、“騒音エネルギー”として外部に放出されます。
さらに、羽根自体に着いた汚れや経年劣化によるバランスの乱れが不規則な風切り音・振動につながります。
ファンの設置状況(壁との距離・吸気口/排気口の配置)によっても、共振や騒音の大きさは大きく変動します。

空力設計でファン騒音はどこまで低減できるか

ファンの騒音発生源の多くは「空気の流れの乱れ」にありますから、同じ風量・圧力を維持しながら乱流や剥離を減らす設計が、もっとも効果的な騒音根本対策となります。

最先端の空力設計アイデア

・羽根(ブレード)の形状最適化
→鳥の翼やサメのヒレの縁(ノコギリ状構造)に倣って、ファンブレードの先端を波形やギザギザにすることで、乱流や空気の渦(ボルテックス)が抑えられます。
この「バイオミミクリー」の技術導入が、近年の空調・産業ファン設計で急拡大しています。

・ブレード数、角度、素材の工夫
→ブレード(羽根)の枚数を増やしすぎると発生する騒音が累積しやすくなりますが、枚数を減らしすぎると振動が大きくなるリスクも。
最適な設計バランスが必要です。
また、材質を金属から樹脂や複合材料に変えることで、弾性の違いから音の広がりを抑える使い方もあります。

・ケーシングとガイドベーン
→ファン本体を囲むケーシング(筒)やガイドベーン(空気流路を整える羽根)の内壁をスムーズに設計し、流路周辺で起きる急激な圧力変化を抑制。
これによって“ボーー”というこもった低い騒音も抑制できます。

実際の現場での改善事例

多くの工場で、とくに“古い設備”ほど、ファン設計自体が旧式のまま見直されないケースが目立ちます。
しかし、ファンの羽根形状を小改良するだけでも、10dB以上の騒音低減を達成した事例も多く存在します。

また、単に回転数を落とすのではなく、高効率設計で“風量を維持しつつ低騒音”への進化を遂げているメーカーも増えています。
定期的なファンの清掃や摩耗部品の交換など「基本の徹底」こそ、騒音対策の大前提です。

吸音材・遮音材による現場レベルでの防音最適化

物理的にファンから出る音を抑制できたとしても、やむなく生じる騒音成分を“設備の外に出さない”二次的な対策も重要です。
ここで重要となるのが吸音材(音を吸収・拡散する材料)と遮音材(音の透過を防ぎブロックする材料)の使い分けと工夫です。

吸音材の特徴と使いどころ

吸音材は、ガラスウールやロックウール、ウレタンフォームなど繊維構造の素材が代表的です。
これらは“空気中を伝わる音”(空気伝播音)を内部で散乱・吸収し、反射・増幅や直進伝達を防ぎます。
ポイントは「ファン周辺に吸音材を適切配置」すること。
例えば、ファンハウジングの内側やダクト内壁に貼り付けると、空気中を進む騒音成分を80%以上削減できる例も多いです。

また、吸音材の厚み・密度は取り扱う騒音周波数に合わせて最適化しなければ意味がありません。
「低周波音」対策には分厚く重たいウール系、「高周波音」対策には繊維径の細かい発泡系を使い分ける知恵が求められます。

遮音材の特徴と現場事例

遮音材(鉛板・鋼板・複合シート等)は、音エネルギー自体を跳ね返すことで「外部への音漏れ」を物理的にブロックします。
現場では、ファンの外側全体を鋼板で箱状に囲い、その内側を吸音材で満たす「二重構造」がもっとも効果的です。
これにより、単体使用時と比べ数倍の防音効果を発揮できます。

ただし、遮音材は重く、密閉度が高いほどメンテナンス性が損なわれやすいデメリットも。
また、ファンの“冷却効率”や“廃熱対策”も配慮が必須です。
安易な全文密閉は設備トラブルを招くため、吸気排気のスリット一部に吸音・複合材を使い「機能と安全」のバランスをとるのが熟練現場の知恵です。

アナログな現場でも実現できる!実践的・段階的ファン騒音対策の進め方

現場では「最新理論は分かっても現場改修コストが…」という声がつきものです。
そこで、すぐ実行できる身近な対策から導入し、PDCAサイクルを踏んだ段階的な改善が現実的です。

現場で応用しやすい“簡単防音対策”のアイデア

・ファンやダクトの設置場所を壁・柱から離す
・吸音スポンジパネルを簡易的に貼り付け
・ラバー材で設置部の共振・振動吸収
・回転数を制御できる可変速制御(VFD)の導入
・メンテナンスの徹底(清掃・軸受交換・バランス調整)

また、汎用吸音材・遮音パネルはDIYレベルでも設置しやすく、対コスト効果の高さが評価されています。

中長期の設備更新にも“防音”の視点を

設備更新・増設の際には必ず「ファンの空力設計」「防音パネルとの組み合わせ」をセットで検討するべきです。
いずれもメーカー選定時に“防音性能値”のカタログ比較が可能な時代となっており、バイヤー主導で仕様書に“低騒音化”を盛り込み、サプライヤーと協働改善していく流れが定着しつつあります。

バイヤー・サプライヤーが知っておきたい最新の業界動向

今、製造業の調達現場では「脱炭素」「エネルギー効率」と並び、“作業環境改善”や“近隣配慮”を重視する動きが鮮明です。
空調・換気設備の更新やエネルギーマネジメントにおいて、ファンの静音性・省エネ化は調達要件の一丁目一番地といえます。
たとえば欧州では、工場新設時の「職場環境ノイズレベル基準」適合が法制化される事例も増えており、日本国内でもこうした流れが確実に加速しています。

また、サプライヤー側も、単なる安価な部品供給ではなく「静音ファン」「カスタム防音ソリューション」「周波数帯ごとの吸音セット提案」など、高付加価値提案力が強く求められるようになりました。
調達バイヤーの意図を汲み取り、「なぜ静音化が必要なのか?」「現場でどんな困りごとが起きているのか?」を理解したうえで、技術者・購買担当・製造現場が一体で改善に取り組むべきです。

まとめ:現場目線の地に足着いた“静かな工場”づくりを目指して

ファン騒音の解決は、一朝一夕に実現できるものではありません。
しかし、空力設計の見直しによる“根本的発生源の削減”と、吸音・遮音材の現場的な「しなやかな活用」を積み重ねることが、着実な静音化への一番の近道です。

昭和からの“騒音は仕方ない”という諦めを脱却し、作業者・バイヤー・サプライヤーが本気で協働できる環境が今こそ求められています。
ぜひ本記事を参考に、自社現場の静音化・働きやすさ向上のPDCAに役立ててください。

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