投稿日:2025年8月19日

アフターパーツ供給体制:サービスBOMと交換部品の在庫設計

はじめに:アフターパーツ供給体制の重要性

製造業が顧客に製品を届けた後、本当の意味でのサービスが始まります。
その中核となるのがアフターパーツ、すなわち交換部品の供給体制です。
この体制が脆弱だと、機械停止やダウンタイムが頻発し、顧客満足度の低下やブランド価値の毀損へと繋がります。
また、近年は製品単体ではなく「継続的な運用支援」もサービスとして捉えられるため、アフターパーツ供給体制の最適化は、企業競争力そのものと言っても過言ではありません。

特に昭和時代のような単純な部品供給モデルは、グローバル化とICTの進展にともない、もはや通用しなくなっています。
しかし、未だ紙の伝票が現役だったり、職人の勘頼みで在庫管理が行われている企業も少なくありません。
そういったアナログな現場が根強く残る中、どのようにしてアフターパーツの供給体制を構築するべきか、本記事では「サービスBOM」と「交換部品の在庫設計」という観点から、実践的なノウハウと業界動向を交えて解説します。

サービスBOM(Bill of Materials)の基礎知識

BOM(部品表)とは何か

BOMとは、製品を構成するすべての部品や材料を体系的にまとめたリストです。
設計BOM(E-BOM)は開発設計段階で用いられ、生産BOM(M-BOM)は実際の製造現場で利用されます。
一方、「サービスBOM」とは製品出荷後、保守・アフターサービスで必要となる部品構成を示すBOMです。

なぜサービスBOMが必要なのか

従来、日本の製造業では設計BOMと生産BOMさえあれば事足りるとされてきました。
しかし、サポート期間が長期化する中、「交換部品だけをピンポイントで管理したい」「保守作業に該当する組立順を知りたい」といった要求が強くなっています。
サービスBOMはまさに、そのための基礎資料となります。

サービスBOMをしっかりと設計すると、修理に必要な部品を的確に特定でき、適正在庫の維持や現場作業員への情報提供も効率化されます。
逆に、サービスBOMが曖昧・未整備だと「どの型式にどのパーツが付属していたかが不明」「修理時に必要なパーツが在庫切れ」といったトラブルが頻発します。
アナログ業界こそ、今こそサービスBOMの再評価が必要です。

アフターパーツ交換部品の在庫設計:現場で差がつく5つの視点

1. 需要予測:データと現場感覚のハイブリッド

最適な交換部品在庫を考える上で、最初に立ちはだかるのが「どれだけ在庫を持てばよいか」です。
AIやビッグデータで精緻な需要予測ができる時代ですが、現場には「予備として置いておきたいパーツ」「たまにしか壊れないけど壊れた時は超重要」といった暗黙知も多々あります。

まずは、過去の修理実績・出荷実績を集計し、最頻出・致命度の高い部品から重点的に在庫リストアップします。
定量的な分析も重要ですが、「実際には●年使って1回壊れる」「このパーツは納期が長いので余分に確保」といったベテランの声も加味しましょう。
ラテラルシンキングを働かせ、机上データに固執せず、現場の経験則も「見える化」して組み込むのがポイントです。

2. 供給リードタイム:アナログ業界ならではの壁

交換部品の在庫設計で最も見落とされやすいのが、供給リードタイムの設定です。
「足りなくなったらすぐ仕入れればOK」と考えがちですが、昭和の時代から続く「受注生産型部品」「専用治具がないと作れないパーツ」など、いざというときに数週間〜数ヶ月かかる事例は今も多いです。

サプライヤー各社の生産背景や、購買ルートの多重化、急な増産・自然災害リスクも織り込んで、なるべく「ワーストケース」でリードタイムを設定します。
また、部品ごとに「生産中品」「廃番品」「代替可能品」を棚卸しし、意思決定フローも明確化しておきましょう。

3. ライフサイクル設計とEOL(End of Life)問題

特に長寿命製品では、部品供給の「終わり」へどのように備えるかも重要な視点です。
設計段階で選んだ部品が5年後、10年後に市場から消えているケースは多々あります。
これを放置すると、「修理したくてもパーツがない」「高額な特注生産しか手段がない」といった問題が発生します。

サービスBOMを基軸に、各部品のEOL(販売終了)予定を製造元と密に連携し、廃番予定部品は前倒しで大量確保する、あるいは設計段階で標準品への切り替えを推進します。
後付けで「互換品マスター」を作成しておくなど、柔軟な在庫設計が求められます。

4. 適正在庫量の設定:ABC分析と金額バランス

部品一点一点に対し「どれだけ在庫を持つか」を決める際、最も実践的なのがABC分析です。
需要・重要度・金額を指標に「A級(絶対切らさない)」「B級(ある程度在庫)」「C級(バックオーダー可)」のランク分けを行い、工場スペースや管理コストも加えてバランスを取りましょう。

金額ベースでも「高額だけど絶対にないと困る」「低額だけど回転率が高い」など、パーツごとに在庫基準を柔軟に変えることが肝要です。
とくに現場目線では「金額で圧迫されたくないから絶対最小に」という声も根強いですが、機会損失や緊急手配コストの方が高くつくことも。
全体最適の視点を持ち、経営層・現場の双方が納得する「比較可能な基準作り」を推進しましょう。

5. トレーサビリティとデジタル管理の進化

昔ながらの「部品棚に紙伝票をペタペタ貼る」だけの管理は、ヒューマンエラーの温床です。
サービスBOMと連動した在庫管理システム導入はもはや必須といえるでしょう。

バーコードやQRコード活用、部品ごとのシリアル管理、IoT棚卸しなど、技術はすでに普及段階にあります。
一方で、現場には「入力が煩雑」「システム障害がこわい」といった不安も存在します。
ここで大事なのは、従来の紙文化も段階的に残しつつ、デジタル活用に徐々に慣れてもらう教育施策です。
レガシー保守・デジタル活用の両輪でトレーサビリティを高め、「いつ・どこに・どの部品が・いくつあるか」を社内の誰もがすぐ把握できる体制を目指しましょう。

バイヤー・サプライヤー双方の視点を知る

バイヤーが重視するのは「安心とスピード」

発注者としてのバイヤーは、「必要なときに、必要な分だけ、確実に」部品が入手できるかを最重要視します。
一度止まった工場の復旧は、損益に直結するからです。
過剰在庫でコスト増になるのも避けたい。
こうした間で最適なバランスを模索しつつ、サプライヤーにも無理難題を押し付け過ぎない信頼構築も求められています。

サプライヤーとしてバイヤー心理を知る

供給側にとって、急な増産・特急対応は負担ですが、「たまたま在庫があった」「事前に予備生産していた」ことで顧客満足につながる場合も多いです。
バイヤーに定期的に在庫状況を共有したり、需要変動の予兆をつかんだ段階で事前提案をするなど、能動的なコミュニケーションが信頼構築に繋がります。

また、アフターパーツ供給は一度きりの取引に留まらず、長期的なパートナー関係の礎となります。
「サービスBOMの設計段階から一緒に考えさせてほしい」といった姿勢を見せることで、バリューチェーンの上流から関わる機会も生まれます。

業界動向と今後のアクションプラン

グローバル調達と地政学的リスクの高まり

サプライヤー鎖国が許されない時代となり、アジア・欧米サプライチェーンの再構築が進んでいます。
COVID-19や自然災害、政情不安による物流ストップは、特にアフターパーツ分野で致命傷となりやすいです。

国内外複数の仕入れ先確保、在庫分散、代替部品DBの整備、見積・価格リアルタイム化など、複数の防衛策を掛け算することがリスク低減に直結します。

デジタルBOM連携とAI活用

近年は製品シリアルナンバーごとに必要なパーツを個別に紐づける「デジタルBOM」も普及しつつあります。
さらに、AIによる故障予測・部品需要予測の精度も年々向上。
IoTとERP/SCMを連動させ、「壊れる前にパーツを届ける」ポストメンテナンス型へと進化しています。

アナログ文化が残りがちな中小工場でも、まずはExcelベースのリスト整備や、現場の声を集めた「知見DB化」から着手し、徐々にIT化をステップアップしていくことが現実的なアプローチです。

まとめ:アフターパーツ供給体制の未来を創る

アフターパーツの供給体制は、現場の生産性・顧客信頼・ブランド価値をダイレクトに左右します。
サービスBOMの整備、適正在庫設計、現場知識のデジタル化、サプライチェーンの多重防御策――どれも一朝一夕に実現できるものではありません。
しかし、効率・コスト・お客様満足を両立するには、「今ここで立ち止まらず、新しい地平に踏み出す」勇気と、現場と経営、バイヤーとサプライヤーの距離を埋める工夫が必要です。

アナログ業界ならではの粘り強さを活かし、最新技術もうまく取り入れながら、誰もが「安心して製品を使い続けられる社会」を実現していきましょう。
そのために、今こそ現場・現物・現実を見極め、しなやかな発想でアフターパーツ供給体制を一歩ずつ改善していくことをおすすめします。

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