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バージン材とリグラインドの最適配合を合意し樹脂費を削る実務

目次
はじめに:コスト削減は現場の知恵から生まれる
製造業における利益率向上のための方策は多岐にわたりますが、材料費の削減は、特にプラスチック射出成形現場において長年の課題であり続けています。
材料のコストを下げる代表的な手法の一つが、バージン材(未使用樹脂)とリグラインド(再粉砕材)の最適な配合比率を設定し、かつ安定した品質を維持することです。
本記事では、昭和時代から令和の今に至るまで現場で繰り返されてきた「バージンとリグラインドの最適配合」を、バイヤーとサプライヤー双方の視点から実践的かつ最新の業界動向も踏まえて掘り下げます。
樹脂コストの真実:なぜバージン100%は非現実的か
品質神話の裏側
日本の製造現場では「品質が命」「不良ゼロ」という信念が根付いており、その延長でバージン100%に固執する現場やバイヤーも少なくありません。
しかし21世紀のグローバル競争下では、材料費の数%の差が利益構造を大きく左右します。
自動車や家電、OA機器など大量生産を行う分野では、バージン100%の原材料価格だけで年間数千万〜億単位のコスト増に直結するケースも珍しくありません。
リグラインドをどう配合し、品質とコストのバランスをどう取るかが、バイヤーや生産技術者の腕の見せ所です。
環境配慮:リサイクル樹脂活用の潮流
近年、環境配慮の観点から自動車メーカーやグローバル企業が「バージン材比率の低減」や「リサイクル材使用率の明確化」を調達指針に盛り込む事例が急増しています。
法令遵守や環境認証の取得(ISO14001、エコマーク等)、SDGs貢献…こうした背景もあいまって、従来以上に「最適配合」の提案力がバイヤーや技術開発現場に求められる時代へと移行しているのです。
現場が直面する「最適配合」設定のリアルな課題
リグラインドの種類と品質にまつわる誤解
リグラインド(再粉砕材)は、どんな工程・品種で生じた材料かによって品質が大きく異なります。
・エッジランナー、ゲートなどランナー部分のみ
・成形不良品/試作ピース
・回収品の洗浄粉砕材(汚れ・異物混入リスクあり)
それぞれ樹脂の劣化具合、水分率、異物混入リスクが異なり、バージン材との混合比率の「限界点」が変動します。
「リグラインド30%までOK」と一言で言っても、粉砕材の管理レベル・履歴トレースの仕組みによっては同じ30%でも品質に差が出るのです。
配合比率の決定:誰が主導権を握るべきか
実際には多くの現場で「とりあえずバージン90%、リグラインド10%」あるいは「材料メーカーの推奨値(例:最大30%まで)」といった “経験・慣例” で配合比率が決められています。
しかし、最適化の本質は「その配合比率で物性クレームや品質問題が発生しないか」「配合比率を高めることでどれだけコストダウン余地とリスクがあるか」を緻密に見極めることです。
配合比率を材料メーカーのマニュアルだけに頼る“昭和的発想”は、付加価値を生まないばかりか、時には「材料側の保守的見積もり」で本来可能だったコストダウンの機会損失にもつながります。
バイヤーはサプライヤー・現場技術者と「現実的な品質基準」を有機的に調整しながら、適切に主導権を握って配合比率を管理していくことが肝要なのです。
実践的アプローチ:最適配合設定の手順とポイント
1. 樹脂別の「劣化しやすさ」を見極める
樹脂によって「リグラインドの限界点」は全く異なります。
・PPやPEなど非極性樹脂はリグラインド率を比較的高めに設定可能(50%〜70%)
・PCやPAなど吸水性・熱履歴感受性の高い樹脂は通常20%程度が無難
・透明品、耐候品…などは混ぜすぎると物性低下やクレームに直結
・塗装や加飾成形用は、そもそもリグラインド不可の場合も
用途、部品のグレード、要求品質基準に応じて「妥当なリグラインド上限」を管理表に整理しておくことが現場力を底上げします。
2. 実機テストによる物性・色・外観データの見える化
「大丈夫だろう」「他社もやっている」という憶測ではなく、実機でのテストロット生産→物性評価(強度、衝撃、色差、光沢など)のエビデンスこそが、バイヤーとサプライヤー双方の合意の根拠となります。
例えば、リグラインド比率を5%単位で10%・15%・20%…と上げていき、NGラインを見極める。
成形機ごと・型ごと・投入時の状態ごとで細かなバラつきがないかをリアルに検証します。
そのうえで、ロット毎の混合オペレーションの標準化(マニュアル化)、トレーサビリティの仕組み化(バーコード/ロット管理など)が品質リスクの低減に直結します。
3. 材料サプライヤーとの柔軟な交渉
サプライヤーによっては「リグラインド材配合比率を高めるなら、バージン材のグレードを一段上げる必要がある」といった追加費用・技術対応を求めてくる場合があります。
バイヤーは、現場のテストデータをベースに相手先サプライヤーと「追加コストの要否」「品質基準に合致するための最良配合」「保証範囲(規格外時の対応)」について納得解を探ります。
昭和的な「言い値主義」や「相手が推奨した数字に甘んじる」姿勢から脱却し、合理的データと柔軟な提案を武器にサプライヤーとのジョイント・ベンチャー的共創関係を築くことが大切です。
バイヤー・現場管理者のリーダーシップが未来を変える
現場技術者と一体となった推進力
最適配合の習得・実装には、購買部門だけでなく、現場オペレーター・検査員・品質保証部門など多部門横断の情報共有と連携が求められます。
バイヤーだからこそ率先して現場(成形工場)に足を運び、作業員の声をヒアリングし、課題を「自分ごと」として捉える姿勢が、地に足の着いた配合最適化を推進します。
また、現場の自動化・IoT化など最新技術を活用すれば、粉砕材のロット履歴・投入量・不良発生率の「見える化」が実現でき、さらなる最適化と品質担保につながります。
サプライヤーがバイヤー視点を持つ重要性
サプライヤー側も、単なる「材料屋」にとどまらず、バイヤーが直面するコスト・納期・SDGs・カーボンニュートラルなどのプレッシャーを自分ごととして理解することが、信頼関係を築くための必須条件となります。
「うちは混ぜすぎNG」ではなく、「こうすれば少しでも混ぜられる」「混合材の事前テストを社内で協力する」など積極的な共創パートナーとしての姿勢こそ、今後の調達購買活動の鍵を握ります。
持続的コスト削減と業界全体の発展のために
日本の製造業は、いまだに「昭和の常識」が根強く残っている現場も多い反面、脱炭素・リサイクル・イノベーション推進が加速する社会的要請の中で新しいステージに入っています。
バージン材とリグラインドの最適配合を現場レベルで軸とし、バイヤー主導・現場技術主導のコストダウンと品質担保の両立を実践することで、競争力ある調達購買の在り方が確立できます。
業界の壁を越え、バイヤーとサプライヤー、設計者と現場が一体で「合理的な材料配合とその運用」を追求し、個社だけでなく業界全体のサステナブルな発展に取り組む——。
小さなミックス比率の工夫が、やがて大きな価値と利益をもたらす時代です。
目の前の常識にとらわれず、ラテラルシンキングの発想力と現場力で、新たな製造業の地平線をともに切り拓いていきましょう。
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