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災害時の運送業務委託における協定と効率的な実行方法

目次
はじめに
災害大国・日本において、製造業に携わる私たちが、突如発生する地震や豪雨、台風といった未曾有の災害に直面することは避けられません。
近年、気候変動や地殻変動の影響で自然災害が頻発化し、工場や物流拠点が被災した際の影響は、サプライチェーン全体に大きな混乱をもたらしています。
その際、運送業務委託のあり方や緊急協定の重要性はこれまで以上に取り沙汰されています。
本記事では、製造業現場で20年以上蓄積した経験や、アナログ文化が根強く残る業界構造を踏まえながら、「災害時の運送業務委託における協定と効率的な実行方法」について、現場目線で解説します。
災害発生時の混乱を最小限にとどめ、サプライチェーンの維持に不可欠な委託運送業務の仕組みづくりを模索する読者のお役に立てれば幸いです。
災害時の運送委託が抱える現場の課題
工場長目線でみる「緊急性」と「対応遅延」の間
災害発生時には、原材料や製品の移送が止まり、調達や供給がストップしてしまいます。
工場長を務めた私の経験から、最も怖いのは、工場と物流会社の間に情報伝達の断絶が生じることです。
「何が」「いつまでに」「どこまで」「どの経路で配送可能か」を本社指示で一元管理しても、現場ごとのインフラ被害、人的リソース、運転できる車輌ラインナップなど、予測不可能な障壁が立ちはだかります。
紙伝票や電話・FAXに依存した情報共有では、的確な調整や協議が追いつかず、「緊急物資が届かない」「予定していた便がキャンセルされる」など、混乱が発生しやすくなります。
バイヤーが陥りやすい落とし穴
バイヤーとしては、平時ベースで複数の運送会社と取引し、コスト競争力やサービス品質で評価しがちです。
しかし災害時には、災害対応力・ネットワークの多重化・地場企業との結束など、新たな評価軸が必要となります。
業務委託契約も「納期遵守」「安価な送料」の条項が強調され、緊急対応については明記されていないケースが大半です。
この「契約の穴」が、非常時の他社優先や、受託拒否のリスクとなるのです。
サプライヤーが知っておきたいバイヤー側の本音
サプライヤーの立場からすれば、「なぜ普段からもっとしっかり災害時対応を話し合わないのか?」「うちにだけ災害時の協力要請をしてくるのはなぜか?」という疑念が湧くかもしれません。
実際、バイヤー側が災害発生時に危機感一杯で協力を懇願することはよくあります。
その背景には、情報共有・契約策定・危機意識醸成が「昭和的」な信頼関係や慣習の中で済まされてきた業界ならではの事情が潜んでいます。
業界動向:アナログの壁とDXの兆し
紙・電話・FAX主義の限界
昭和から続くアナログな商慣習は根強く、一部では「災害時こそ顔見知りへの電話」「伝票は必ず紙で残すべし」といった習慣がいまだに主流です。
しかし、大手メーカーや先進的なサプライヤーを中心に、BCP(事業継続計画)の一環として「デジタル化された災害時運送委託協定」を結ぶ動きも加速しています。
DX導入がもたらす新しい連携の形
最新の業界動向では、Webベースの物流可視化ツールや、AIによる最適配送ルート自動提案システム、災害マップ連携型の運送可能経路管理プラットフォームなど、多様なソリューションが生まれています。
従来の「緊急連絡網」「手動調整」に頼るだけではなく、リアルタイムで被災地情報と空車状況をマッチングさせ、効率的な供給体制を事前に構築する企業が増えています。
サステナブルな運送協定の重要性
カーボンニュートラルやSDGsを意識したサプライチェーンマネジメントの流れもあり、単純な「コスト・スピード重視」ではなく、災害対応力や多様なパートナーシップ重視の委託形態が脚光を浴びています。
災害時にも持続可能な供給責任を果たせる委託先をどう見極めるかが、これからの製造業の争点です。
実践的な災害時協定の作り方
なぜ「災害時協定」が必要なのか
平時の業務委託契約だけでは、災害時の優先度や協力範囲が曖昧なままで、受託できないリスクが高くなります。
そこで必要なのが、「災害時対応に特化した協定」(防災協定)や「緊急時優先枠の設定」「代替輸送ルートの合意」といった事前取り決めです。
これらは義務規定や罰則ではなく、「共助契約」として柔軟に調整しあう形が効果的です。
現場に即した主な協定項目
– 災害時に適用される優先対応枠の明確化(例:被災拠点からの緊急移送は○社を最優先)
– 契約運賃・追加コスト負担の事前合意(例:臨時運行・迂回時の特別運賃)
– 現場責任者・連絡系統の明示(連絡先が紙で失われても復旧可能なデジタル管理)
– 運送手段の多様化(複数業者、複数車種、場合によっては鉄道・船便・ドローン活用までカバー)
これらを詳細に定めることで、いざ災害が起きた際にもお互いの期待値・リソース配分が事前に合意され、混乱を最小限にできます。
共同訓練の実施と見直しサイクルの確立
協定を結ぶだけで満足してはいけません。
毎年一度の合同訓練や、BCPマニュアル見直し、実際の災害経験をふまえた教訓共有のプロセスも不可欠です。
「協定内容が時代遅れになっていないか」「新たな脅威や教訓に即した改訂が必要ではないか」を定期的にチェックしましょう。
効率的に実行するポイント
その1:現場オーソライズ型のチーム編成
災害時はトップダウン指示が現場の実情に合わないこともしばしばです。
「物流・工場・サプライヤー・運送業者」それぞれの現場担当者に意思決定権を持たせ、柔軟に現場判断ができる組織体制がポイントです。
平時から「BCP対応チーム」をお互い横断的に組み、定例打合せを行うのが効果的です。
その2:多層的ネットワークの構築
1社だけに依存しない「2次・3次委託ネットワーク」の事前構築も、災害リスク分散の鉄則です。
通常時は下請けとして名ばかりになりやすい地域の中小運送事業者とも、「いざというときどう協力できるか」を丁寧にすり合わせておくことで、隠れたリソースを活かすことができます。
その3:デジタルとアナログの併用
情報伝達や指示・承認は、どちらか一方だけに頼るべきではありません。
クラウドやSNSでも情報共有しつつ、電源や通信が落ちた場合のアナログ連絡網(掲示板、FMラジオ、現地伝令など)も合わせて設計します。
複数手段をミックスすることで、有事の「想定外」に強いチームができます。
バイヤー・サプライヤー双方が考えるべき心構え
共助と責任の再定義
災害時は「それぞれの立場でできる限りの協力」を超え、「サプライチェーン全体の責任」を共有する姿勢が不可欠です。
バイヤーは「指示して終わり」ではなく、可能な範囲で現場支援や情報提供を惜しまない。
サプライヤーも「うちの責任範囲外」と切り捨てず、生活インフラや地域貢献の観点を意識する。
こうした新しい「共助」の価値観が、これからの製造業では必要不可欠になります。
BCP推進は全員で
BCP(事業継続計画)の策定や、サプライヤー・バイヤー間の事前協議は、一部の担当者だけの仕事ではありません。
トップから現場担当まで、危機意識をどう現場に浸透させるかを常に意識し、「机上の空論」にならない運用をすることが重要です。
まとめ
運送業務委託における災害時対応は、平時の取引以上に信頼と共助意識、そして現実的な協議・訓練が問われます。
アナログ慣習のよさも活かしつつ、デジタルの力も抜かりなく取り込むこと。
そして企業だけでなく、地域社会やサプライチェーン全体の責任を認識してこそ、真の「災害に強い」委託運送網が実現します。
バイヤー、サプライヤー、そしてすべての現場担当者が当事者意識をもち、時代に即した協定・運用・訓練に取り組めば、どんな有事にも揺るがない製造業の成長に繋がると確信しています。
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