投稿日:2025年9月23日

AIが現場特有の事情を理解できず反感を招く問題

はじめに:AI導入の期待と現場の現実

AI(人工知能)技術が製造業にも本格的に導入されはじめ、調達購買や生産管理、品質管理、設備保守といった現場の多くでデジタル化の波が押し寄せています。

経営層は「AIで省力化」「自動化によるミス削減」「データによる精度向上」など、数々のメリットを口にします。

一方で、現場の従業員や管理職にはAI導入への不安や反発の声が根強く残っているのも事実です。

その理由は、「AIは現場特有の事情を理解できない」という本質的なギャップに多く起因しています。

事実として、昭和時代から続く多くのアナログ文化や、現場独自のノウハウがデジタル化を阻む“見えない壁”となっています。

本記事では、製造現場で長年培った経験をもとに、なぜAIが現場に受け入れられないのか、その背景や現象について掘り下げます。

また、バイヤー・サプライヤー双方にとって役立つ視点、さらに将来的な展望まで、ラテラルシンキングで考察します。

AIの現場導入が進まない理由

1.“現場あるある”に寄り添えないAI

製造現場には、日々の作業に宿る独自のノウハウや、ベテラン作業者の勘・経験に根差した“裏ルール”が多数存在します。

例えば、部品の組み付け時、「ちょっとだけ角度を変えて入れたほうがスムーズだ」といった未マニュアル化のコツ。

あるいは、納期遅延を防ぐため現場同士で“自主的な段取り替え”を柔軟に組んで回している運用。

こうした知見は帳票やデータとして形式知化されていないため、AIが解析しきれず、的外れな提案をすることが少なくありません。

結果、「現場もわかってないくせに偉そうに指図するな」といった反発が表面化します。

2.“一律化”で失われる現場適応力

AI導入にあたってシステムベンダーや経営層は、業務の一律標準化を推進しがちです。

しかし製造現場の実態は、現場ごと、場合によっては日単位でも、他部門やサプライヤーとの力関係、設備の癖、人・モノ状況で柔軟なアレンジが必要となる場合が多々あります。

AIによる“最適化”が型にはまったものだった場合「柔軟な運用力」が削がれ、現場の士気低下や、現実との乖離が生じるのです。

3.ベテランの暗黙知・肌感覚がブラックボックスに

日本の製造現場には、ベテラン作業者たちが何十年かけて蓄積してきた“暗黙知”が数多く息づいています。

例えば
「この部品は温度が高いとクラックが入りやすい」
「このサプライヤーは月末に納期遅延しがちだから検品工程を先に回そう」
といった緻密な判断です。

AIはデータに基づく推論は得意ですが、“肌感覚”やインフォーマルな運用事情を吸い上げるのが非常に苦手です。

このため、ベテラン勢ほどAIのロジックに納得いかず、導入プロジェクトが迷走することも。

現場目線で考える:AIに欠けている“現場事情”の具体例

業務フローの勝手な“単純化”がトラブルの元

AI導入時に多発するのが、業務の実態をろくにヒアリングせずに「この部品はこの順番で流す」「納期遅延が出たらこう対応する」といった一律フローの設定です。

しかし、製造業の本当の現場は
・仕掛かり品の入荷遅延にどうアドリブ対応するか
・段取り換えの職人技(短時間で治具調整するコツ)
・突然の設備トラブルでどこを自分で補修するか
といった“現場裁量”が極めて重要です。

AIが一律フローしか提案しない場合、こうした臨機応変の余地が消え、現場はかえって混乱しやすくなります。

伝票文化・紙文化が根強く残る理由

多くの製造業では、未だに紙・ハンコ・伝票といった“昭和的文化”が現役です。

これは単なるデジタル遅れ、腰が重いだけではありません。

たとえば、伝票は
・突発の現場判断を即座に書き換えて回覧できるフレキシビリティを持つ
・サプライヤーや協力会社との細やかなコミュニケーションツールになっている
という側面があります。

AIシステムに置き換えた場合、こうした柔軟な“行間”のやりとりが断絶され、現場サイドにフラストレーションが溜まります。

個人の責任意識・プライドとAIの“中立性”ギャップ

日本の製造現場には、「この現場は自分が守る」という高い責任感・プライドが強く根付いています。

その思いは、単なる業務手順以上に、「自分の判断で最善を尽くしている」という自負を生みます。

ここに、AIの“中立的・客観的な判断”を持ち込むと、自分の存在意義やノウハウが認められないと感じる心理的反発が生じます。

「正論だけで回らない現場をAIが語るな」という声も、こうした感情が根底にあるからです。

バイヤー・サプライヤーはAI導入現場をどう見るべきか

バイヤー視点:サプライヤー現場のリアリティ把握の重要性

バイヤーを目指す方には「AI化企業選定」や「データドリブンな購買」が今後ますます重要になります。

しかし、自社以上にデジタル化が遅れたサプライヤーも多く、ギャップ把握は必須課題です。

例えば、
・“見積もり回答AI”が導入されているかの確認
・現場ヒアリングをきちんとやって業務の特性を把握しているか
・過去の突発トラブル時にAIがどこまで対応できたか
といった視点で、AIが本当に現場課題を吸収しているのかをバイヤーは見極める必要があります。

単に「AI化している=進んでいるサプライヤー」ではない点も注意が必要です。

サプライヤー視点:バイヤーのAI観を正しく理解し備える

一方でサプライヤー側は
「バイヤーがなぜAI導入を重視するのか」
「AI導入によってどんな現場改善を求めているのか」
を、正しく“バイヤー目線”で理解し、説明責任・現場連携強化に乗り出す必要があります。

「現場にはAIで代替困難な現実がある」
「一括データ化の前に現場ノウハウの可視化が重要」
といった視点で、現場独自の工夫や判断ポイントを理論的・データ的に示し、“昭和”からの進化を能動的にアピールすることも重要になってきます。

AIと現場ノウハウの融合による新たな地平線

AIが現場特有の事情を十分に理解しきれないまま導入が進むと、現場の“暗黙知”や運用ノウハウが失われるだけでなく、労働意欲や生産性が逆に低下するリスクもあります。

しかし一方で、「AIでは再現できない現場力」を逆手に取り、ハイブリッド型の業務改革を推進する動きも始まっています。

たとえば
・ベテラン作業員の作業動画をAIに解析させ、“勘に近いパターン”まで形式知化
・AIの提案をまず“現場レビュー”にかけ、ベテランが補正した情報で再学習させる
・現場ヒアリングをAIシナリオに組み込み、“個別カスタマイズ可能なAI”を追求する
といった、現場ノウハウとAIの知見を“融合”させる方向性です。

このような、“現場とともにつくるAI”が、今後の製造業進化の鍵になると考えます。

まとめ:現場を知る者こそ、AI時代の推進役になれる

AIの製造業への導入は必然の流れですが、本当に価値あるAI化には「現場特有の事情」と「経営視点の効率化」を融合させることが不可欠です。

現場スタッフ・管理職・ベテラン・若手、さらにはバイヤーやサプライヤーまでが、“現場を知る者”の強みを活かし、現場ノウハウをAIに伝え、磨いていくプロセスが重要です。

現場の事情を深く理解した人材こそが、AI時代の製造業を真に発展させる推進役となります。

“現場無視のAI”ではなく、“現場と歩むAI”の実現を、今一度みなさんの現場で考えてみてはいかがでしょうか。

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