投稿日:2025年9月30日

AIを使って生産計画のムダを削減する超入門手法

はじめに:製造現場に広がる「ムダ」とは何か

製造業の現場では「ムダ」という言葉が頻繁に使われます。
この「ムダ」は単なる不要な作業だけを指すのではなく、余剰な在庫、人的リソースの過剰投入、不適切な段取り替え、また情報の伝達ミスによる工程遅延など、その形態はさまざまです。

実際、私自身20年以上現場で働く中で、優秀なスタッフほどこの「ムダ」に神経を尖らせ、日々の改善に努めていました。
しかし、どうしても属人的に、「経験値」や「勘」頼みに陥りがちな工場運営から抜け出せない現状が、日本の多くの現場に根強く残っています。

そんな中、現代の製造現場で熱い注目を集めているのがAI(人工知能)の活用です。
AIは、従来人が長年培ってきた「勘」と「経験」とはまた異なる、新しい視点で生産計画のムダを削減し、より効率的な工場運営へと導いてくれます。
本記事では、【超入門】という視点から、AIを使った生産計画の最適化、その手法やポイントについて、実践的な現場目線で解説していきます。

現場から見る アナログな生産計画の限界

1. 昭和流・ベテランの勘頼りの計画

未だに多くの工場では、「◯◯さんがいれば大丈夫」といったベテラン依存の生産計画が行われています。
これ自体は現場力の証でもありますが、属人的なノウハウや判断は、記憶や経験の継承が難しく、退職や配置転換とともに失われがちです。
さらに「予測が外れた」「急な仕様変更に追いつけない」といった計画ミスも繰り返されています。

2. 手作業の表・紙管理によるラグ

Excelや紙の帳票で工程を管理し、計画変更が電話や口頭、メールで伝わるケースもまだまだ珍しくありません。
この場合、伝達ミスや更新漏れによって情報が現場に届かない、工程の重複や待ち時間が発生する、といった非効率が蔓延します。

3. 業界特有の「変動」と「属人性」への対応の難しさ

突然の大型注文や、サプライチェーンの混乱、部品の遅延や歩留まりの悪化といった、製造業ならではの変動要因も数多くあります。
計画担当者の経験や勘ではカバーしきれない複雑な状況が、今後ますます増えてきます。

AIでムダを削減するメリット

1. 膨大なデータから「最適解」を導く

AIを活用すると、過去の受注データ、在庫状況、生産進捗、設備稼働率、外部環境情報など、膨大なデータをもとに、
人間では気付かない「パターン」や「最適な手順」を即座に計算して提示できます。

これにより、ベテランの勘に頼らない再現性ある計画作成が可能となります。
例えば、生産数量と納期、設備の稼働制約、人員のシフトなど複雑な条件下でも、“どこを、いつ、どれだけ動かせば最も効率的か”を最短で導き出します。

2. 知見やノウハウの「継承」と「共有」

計画ノウハウがAIモデルとして全社共通の資産化されることで、急な担当者交代や人材流動にも耐えられる柔軟な組織運営が実現できます。
「この工程は経験が浅いので無理」といった属人的な壁を、AIとナレッジ共有で解消できる点が大きな強みです。

3. 急激な事態変動にも即時対応が可能

AIは常に最新データを分析し、リアルタイムで最適化を続けます。
突然の設備停止や部品欠品、需要変動にも即座に再計画を立案できるため、“現場の混乱”を最小化し、ラインストップのリスクを大幅に軽減できます。

AI導入 超入門!生産計画改善の3ステップ

ここからは、「AIって難しそう」「デジタル化の敷居が高い」と感じている現場・中小工場の方にもおすすめできる、超入門のロードマップを紹介します。

ステップ1:まずは「見える化」から始める

AIをいきなり入れる前に重要なのは、「現場の課題を可視化」することです。

まずは、現在の生産計画業務を棚卸しします。
A3用紙やホワイトボードでも構いません。
日々の計画作成~承認~現場指示~進捗把握までを紙やシステムの流れで俯瞰してみましょう。

次に、どこに手間・待ち・ムダが発生しているか現場スタッフと一緒に確認します。
「紙の記入時間」「メール確認の遅れ」「現場の待ち行列」「承認フロー」など、具体的な例を挙げて書き出します。

現場を知り抜くみなさんだからこそ、机上論に走らない“納得感ある見える化”ができます。

ステップ2:シンプルなAIツールで「予測」を体感

いきなり難度の高いAIシステムを導入するのではなく、まずはExcel上で使える「需要予測」や「在庫最適化」などの簡易AIツールを使ってみるのもおすすめです。

最近では、クラウド上で簡単に使えるAI予測ツールも増えています。
例えば出荷数・在庫・工程進捗などの数字をAIに入力し、「来週どれだけ生産すべきか」「どの部品が不足しそうか」などの予測を体感することで、現場の肌感覚との違いや、使いどころが明確になります。

この「試してみる」プロセスが、現場がAIと共存していく第一歩です。

ステップ3:徐々に「自動化」と「最適化」を拡大

見える化と簡易AIの試用で手応えを感じたら、本格的に生産スケジューラなど専門AIソフトの導入を検討しましょう。
この際、大切なのは「部分的な自動化」から始めることです。

全工程を一気に自動化しようとするのではなく、最も課題感の強い(たとえばラインの段取り替え、出荷数調整、要員の割付など)ピンポイント領域でAI最適化を行い、現場との対話を重ねて活用範囲を広げていく。
この「段階的導入」が、アナログ業界でAI浸透を実現するコツです。

バイヤー、サプライヤーの視点で考える 生産計画AI活用の意義

バイヤーにとっての価値とは

バイヤーとしては、自社の発注リードタイムや納期遵守率にAI活用でブレイクスルーが起きる点が最大のメリットです。
工場側の「見える化」や「瞬時の再計画」によって、急な注文変更でも柔軟に生産調整できるため、顧客満足度を高めつつ、余計な在庫・コストを大幅に削減できます。

また、AIによる根拠ある納期回答は、社外・社内問わず信頼性向上につながります。

サプライヤーの立場から見たAI活用の波

サプライヤーにとっても、バイヤー側がAIによる需要予測や納期調整を進めることで、繁閑の波をなだらかに平準化できるチャンスとなります。
不意の注文集中や、急な減産指示に振り回されるリスクが減る反面、「AIで正確に読まれる分、今までより納期厳守が求められる」という新たな競争環境も生まれてきます。

すなわち、これまで通りの「経験と勘」に頼った対応から脱却し、サプライヤー自身も工程の見える化や生産計画の高度化が必須となるでしょう。

アナログ文化×AI時代の「人の役割」とは

AI化が進めば「人の出番がなくなるのでは」と心配される方も少なくありません。
しかし、私の現場経験上、AIの強みはあくまで「最適な答え」を素早く提案し続けてくれること。
現場の真の課題は、AIの結果をいかに使いこなし、現場の納得感を持って実行できるかにあります。

最終的に、現場で「本当に無理のない負荷か」「イレギュラー対応が可能か」の判断や、細やかな作業指示、人員の動かし方など、“人しかできない臨機応変な調整”の重要性はむしろ増していくのです。
AI×人が補完し合うことで、“正しい”と“納得できる”を両立できる現場をつくることが可能です。

まとめ:AI導入は「まず始めてみる」が鍵

製造業の生産計画は、ますます複雑化する社会環境や突発的な変動と向き合う時代に突入しています。
これまでのやり方を守るだけではジリ貧になりかねません。

現場の強みである勘や経験と、AIの持つ膨大なデータ処理能力・意思決定力を掛け合わせ、「まず試してみる」ことが何よりも大切です。
属人的な計画やアナログな“ムダ”から一歩踏み出し、AIを味方につけた現場革新に、ぜひ挑戦してみてください。

バイヤー、サプライヤー、そして現場で働く全ての製造業従事者にとって、AIは単なる“ツール”ではなく、飛躍のチャンスそのものです。
これからの時代、皆さんと一緒に「人とAIが共存する現場」を築き上げていきましょう。

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