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価格転嫁と関税評価の交錯を避ける移転価格と通関バリュエーションの整合

目次
はじめに―製造業のグローバル化と複雑化する価格設定問題
製造業は今や、日本国内だけでビジネスを完結させることはほとんどありません。
原材料や部品の調達は世界中から行われ、完成品もまた世界各地の顧客へと出荷される時代となりました。
このグローバル化がもたらすのは、生産効率や技術革新だけではありません。
企業経営にとって新たな頭痛の種、それが「価格転嫁」「関税評価」「移転価格」など、国際取引における価格の取り扱いに関する複雑な問題です。
特に最近は、サプライチェーンの再編や紛争リスクの高まり、またデジタル化の波の中で現場が抱える課題と法規制リスクの距離が急速に縮まっています。
本記事では、現場で苦労している調達、購買担当者やバイヤー、サプライヤー目線から、価格転嫁や関税評価(バリュエーション)、移転価格の整合をどのように実現すべきか、昭和的なアナログ習慣を変えるヒントや、業界特有の動向も交えて解説します。
移転価格と通関バリュエーション―なぜここまで混乱するのか?
移転価格とは何か
移転価格とは、グループ会社間、つまり関連当事者間で取引される財・サービスについて設定される価格のことを指します。
例えば、日本の親会社がタイにある子会社から部品を購入する場合、「いくらで輸入したことにするか」は企業グループの自由…ではありません。
タックスプランニング(節税)目的で自由な価格を設定すると、国税当局から移転価格税制違反としてヘビーな追徴課税を受けます。
そのため、「第三者間取引と同等(アームズレングス)」の価格であることが求められます。
通関バリュエーションとは何か
一方、通関バリュエーション(関税評価)は、海外から商品を輸入するときにその金額が「この商品は一体いくらなのか」を決めるものです。
関税や消費税を何円課すか、そのベース金額(課税標準)を入れるため、上述の移転価格と同様に「恣意的に低くつけて税金を少なく」する行為が警戒されています。
世界中で加盟されているWTO(世界貿易機関)の関税評価協定、いわゆる「バリュエーションコード」に基づき、原則は「取引価額主義」ですが、“独立当事者か否か” “ロイヤルティはどこまで加算するのか”など、事実認定に悩まされるのが現場の実情です。
移転価格と通関バリュエーションの衝突点
この二つ、似ているようで微妙に評価対象や規則・価値観が異なります。
そのため、一本の社内取引価格が、「税務署からは“高い”と否認され」「税関からは“低い”と否認される」リスクが存在します。
現場では本当に頭が痛く「税務と通関で帳尻が合わない、どうすればいいのか」と悩む声が絶えません。
価格転嫁戦略に潜むリスクとその回避法
なぜ価格転嫁がバレるのか―昭和的思考からの脱却
調達や購買部門の現場では、「値上げ分をそっくり海外子会社に転送できれば楽だ」「為替変動だし仕方ない」と安易に価格転嫁を決めてしまうケースがあります。
ですが、ここには複数の罠が潜んでいます。
従来の「紙ベースで現場の空気感優先」「上から指示されたからしょうがない」といった昭和的なアナログ経営では、すでに世界水準から大きく遅れを取っています。
過去に許された“なあなあ”の帳合(ちょうあい)が、今や情報システムの透明化や税関・税務当局のデジタル連携により、ほぼ見抜かれてしまいます。
国際規制の目線 − どこがチェックされているか
移転価格税制も通関バリュエーションも、ともに「関連当事者間の恣意的操作を防ぐ」ことが最大目的です。
チェックされるポイントは下記のようになります。
– 価格設定に合理的な説明ができるか
– KPIや原価計算、販売計画との整合が取れているか
– 継続的にブラックボックスで値上げや値下げしていないか
– ロイヤルティ、手数料など、パッと見て料率や算定根拠が極端でないか
現場目線では「本国と子会社でどんなコストや利益配分になっているのか?」を常に数字で見える化しておく必要があります。
リスク回避のための4つの戦略
1. 価格決定のプロセスを見える化する
2. 税務・通関部門との事前コミュニケーションを徹底する
3. 誤差が出る場合は、その“理由”を言語化できるようにしておく
4. 社内外の専門家の意見も織り交ぜて二重チェック体制とする
日本的な「異動したら前担当のやり方を踏襲して何も考えない」姿勢は、リスク察知と説明責任という観点からも今後は通用しません。
業界の最新トレンドと実務的な対応策
DX時代の製造業−現場と管理部門の壁を壊す
価格設定や情報管理の「現場担当」と「管理部門(財務・税務・通関)」は、伝統的に縦割りで別組織でした。
しかし、現代の製造業は、調達・生産・物流・販売・経理という全工程ラインがシステム的に一気通貫となり、リアルタイムで連携せざるを得ません。
データのサイロ化を防ぎ、現場担当が価格の“意味”と“波及効果”を意識できる教育が重要です。
また、ERP(基幹システム)やSCMツールの導入により「この部品はどこでどんな原価-利益構造を持つのか」「ざっくりでも第三者価格と比較して問題ないか」の検証に可視性が求められるようになっています。
原料高騰・サプライチェーン減速…価格転嫁をどう合理化する?
円安やロシア・ウクライナ紛争、中国景気減速度などにより、ここ数年多くの製造業で原材料価格や物流費が急激に上昇しました。
この「コスト上昇分」をグローバルグループ内でどう価格転嫁すればよいか―
その際必ず守りたいのは
・説明責任のある合理的な算定資料をつくる
・値上げ理由や見直し時期を明確に記録する
・必要ならサードパーティ価格や公的指標との比較表を添付する
例えば、「2022年度物流費が前年比12%高騰したが、ローカル運賃指標と物流会社見積りをもとに、当社分について〇円値上げ認めた」など、エビデンスがあれば移転価格も通関も一本で済みます。
サプライヤーは何を意識すべきか
自社(サプライヤー)がグローバルバイヤーに製品を納入するとき、バイヤー側にはこういった規制リスクがあることを理解しておくと、価格交渉で“押しに強くなる”ことがあります。
特に、「なぜ値上げは必要なのか」「どこまでならバイヤーも社内説明しやすいのか」というロジックやエビデンスを準備すれば、独善的に見られるのを防げます。
逆に、バイヤー側も「今はこういう通関・税務リスクがあります」ときちんと伝えることで、Win-Winのコミュニケーションが可能となります。
よくあるQ&Aと現場からのヒント
Q:価格改定を年何回も行いたいが問題ないか?
A:一般論として、頻繁な価格改定は「理由が必要」です。
調達インフレ指標や原料スポット価格の突発的変動、またはコスト要因が急変した場合を除き、3か月や6か月おきに説明なく価格見直しを繰り返すのは当局の疑念を招きやすいです。
理由や根拠、基準となる外部価格データや算定プロセスを必ず記録しましょう。
Q:親会社(本社)が決めた価格モデルをそのまま使っても安全か?
A:理想的には“現地条件や市場水準に応じて”カスタマイズするのが望ましいです。
ただし、自社グループでワンパターンの統一価格でも
– 同業他社価格との差分
– 原価構成や利益配分の合理性
– ローカル法律を逸脱していないか
この3点をケアすれば比較的リスクは下がります。
Q:追加費用(ロイヤルティ、特別技術料)はどう評価?
A:移転価格税制では「通常の取引価格に準じる」こととなっていますが、通関評価ではロイヤルティ等は原則課税価格に加算されます。
ローカルの各種契約書や国際会計基準と照らして、どの費用をどこまで加えるか、必ず専門家含め二重チェックすることを推奨します。
まとめ―“目に見えない壁”こそDX&説明責任で突破する
昭和・平成時代の「帳合」や「現場の空気感」だけで価格設定がまかり通っていた時代は、データ連携が進んだ今では成り立ちません。
価格転嫁と関税評価の整合においては、
– “なぜその価格なのか”の説明責任
– 部門横断的なDX活用による情報透明性
– バイヤー・サプライヤー双方のリスク意識とコミュニケーション
この3点がこれからの時代を生き抜く最大の武器です。
そして、業界を問わずプロとしての矜持(きょうじ)を持ち、現場と本社、サプライヤーとバイヤー、すべての立場が「おかしいことはおかしい」と言い合える風土を育むこと。
それこそが、これからの製造業が世界で戦う礎となるのではないでしょうか。
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