投稿日:2025年9月13日

原材料価格高騰に対応するための代替材活用と購買戦略

はじめに:製造業を揺るがす原材料価格高騰の波

現在、製造業を取り巻く環境は、かつてないほどに厳しくなっています。
特に原材料価格の高騰は、利益確保と安定生産に大きな影を落としています。
昭和の時代から続くアナログな発想や手法では、この未曽有のコスト高時代を乗り切るのは困難です。
今回は、現場目線で「原材料価格高騰」に立ち向かうための代替材活用や購買戦略について、現実的かつ次代を見据えた観点で掘り下げていきます。

原材料価格高騰の背景と現場への影響

なぜ今、これほどまでに高騰しているのか?

原因は複雑です。
コロナ禍による物流停滞、地政学的リスクによる資源国の供給制限、為替変動、世界的な脱炭素化の動き、さらには中国など新興国の爆発的需要…。
現場ではこれらが混然一体となって、扱う資材のあらゆる価格が着実に上昇し続けていることを実感していると思います。

収益への直撃、調達コスト・購買実績の見直しを迫る現実

原材料価格の高騰は、ダイレクトに製品原価、ひいては営業利益にインパクトを与えます。
電気・ガス、金属原材料、プラスチック、紙、段ボール、あらゆるベーシックマテリアルにおいて、値上げ要請や追加コストの通知が相次いでいます。
ただし、全てのコスト増を製品価格に転嫁できるわけではないため、購買や調達現場には、いま抜本的な対策が求められているのです。

代替材を活用する意義と難しさ

現場で本当に使える代替材とは?

「代替材の活用」は、原材料コスト高時代のバイヤーや生産現場が真っ先に挙げるキーワードです。
しかし、現実には
・元の材料に近い物性が求められる
・仕様書や図面、顧客指定をクリアできるか?
・サプライヤー切り替え時の納期、立ち上げコスト
・品質保証、検査体制の整備
など、決して簡単なものではありません。

私は現場で何度も「安い材料はあるが使えない」「サンプルは良いが量産では歩留まりが出ない」「過去トラブルを理由に現場が拒否」…といった課題を痛感してきました。

代替材活用のための現場アプローチ

・まずは既存材料の内訳を徹底洗い出す
・機能分解を行い、絶対に変えられない特性、多少変化しても問題ない特性を明確化
・複数のサプライヤーおよび材料メーカーと密な技術交流
・自社製品の最終使用やお客様ニーズを踏まえた妥協点の設定

ここで大切なのは、「現場部門―バイヤー―技術部門」の三位一体運用です。
購買単独の判断ではなく、技術や品質担当が代替材プロジェクトへ積極参加すること。
品質保証や検査基準の再確認も不可欠です。

最近注目されている代替材トレンド事例

・プラスチック部品の一部金属化
・国内材からアジア新興国材へのシフト
・バイオマスプラスチックや再生材の導入
・標準品(規格品、JIS品)の積極採用
・複数サプライヤーとの共同開発

これらは単なるコストダウンにとどまらず、環境配慮・SDGs対応、リスク分散にも直結します。
予算達成のためだけでなく、将来的な事業継続の点でも重要な観点です。

変化に柔軟な購買戦略の構築

相見積りはもはや常識では勝てない時代に

従来型の「安いところを見つけて切り替える」だけのバイヤー像は、昭和の成功体験であり、今は通用しません。
極端な価格交渉はサプライヤーに嫌われ、むしろ将来の供給リスクを招きます。

むしろ今は、「バランス感覚のある中長期戦略型バイヤー」が重宝されます。
・原材料マーケットの情報取集力
・同業他社や異業種企業との連携
・外部情報ベンチマーク
これらのスキルが問われる時代です。

購買部門で実践したい中長期の取り組み

1. サプライヤーとの定期的コミュニケーション強化
2. 複数調達軸の確保(シングルソースからの脱却)
3. BCP(事業継続計画)観点でのサプライチェーン全体再構築
4. IT技術(AI、RPA、IoT)を活かした調達プロセス標準化・見える化
5. SDGs、グリーン調達基準の明確化

この時、トップダウンの号令で一律コストカットを強いるだけでは、サプライヤーからの信頼は失われます。
むしろ「長期取引前提」と「品質・納期も維持する姿勢」を明確にすることで、サプライヤーの協力意欲も高まります。

現場力と情報力を活かした独自戦略の追求

既成概念を超えたラテラルシンキングの実践

例えば、同じ材料でも「板厚変更」「規格寸法の見直し」「複数部品での共通化」…案外見逃されている改善ポイントが潜んでいます。
「現場発」の細やかな工夫、「製造部」と「バイヤー」と「設計技術」の壁を取払う会議体設置など、ラテラルシンキングで新たな地平線を開拓していくことが大切です。

私が現場で感じたことは、トップダウンや現場力のどちらか一方だけでは変革は実現できない、ということです。
部署間の“壁”を越えたアイデア交流、時には社外のサプライヤー・ユーザーも巻き込んだ討議が突破口となります。

サプライヤー視点を知ることでバイヤー戦略は深化する

サプライヤー側に立つと、(取引を継続したい、安定受注したい)という強い思いがある一方、材料価格高騰による利益圧迫や、コストアップ分の転嫁が難しい現状も非常によく分かります。
つまり、バイヤーとサプライヤーの利害がぶつかるのではなく、現実を共有し協力関係を深化させないと、この難局は乗り切れません。

バイヤーもサプライヤーも「どこで妥協し、どこで新たな創意工夫ができるか」、それこそが今求められる現場力なのです。
一方通行の値下げ要請でなく、共創型の提案や代替案へのチャレンジが新たな武器となるでしょう。

まとめ:アナログ的強み+デジタル活用+現場主義融合で新たな道を

時代はアナログからデジタルへ変わりましたが、現場の泥臭いノウハウや人間関係の力は依然として大切です。
「安い調達先を探すだけ」にとどまらず、材料起点での代替、工法や設計の見直し、サプライヤーとの共創、ITによる見える化…。
これら全部を掛け合わせて初めて、原材料高時代を生き抜く戦略が見えてきます。

今や、現場主義も、将来志向のデータドリブン経営も、どちらも必須です。
バイヤーを志す方、現場改善に取り組みたい方、サプライヤーとして顧客と共創したい方…
皆さんが、新しい時代の「現場発イノベーション」の一歩を踏み出すきっかけになれば、これに勝る喜びはありません。

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