輸送途中のフォースマジュール宣言に対応する代替輸送と契約条項設計

はじめに：フォースマジュール宣言がもたらす製造業の厳しい現実

フォースマジュール（不可抗力）は、製造業に従事する人にとって避けては通れないリスクの一つです。
特にグローバルサプライチェーンの中枢を担う現代の製造業では、原材料や部品のほとんどが国内外問わず輸送を伴い、毎日のように“もしも”が発生する可能性があります。
大雨や洪水、大規模な地震、パンデミック、港湾のストライキ、戦争や内乱、そして最近ではコンテナ不足やロックダウンによる輸送の停滞など、その要因は多岐にわたります。

フォースマジュール宣言が実際に発生した時、「仕方ない」で済ませてはいけません。
なぜなら納期遅延や生産停止は、顧客・エンドユーザーに直接影響し、サプライヤーやバイヤーの信頼関係の崩壊、甚大なビジネスロスにつながるからです。
そのため、調達購買や生産管理、品質管理といった現場が中心となり、事前の契約設計や有事対応力を強化しておくことが求められます。

本記事では、フォースマジュール宣言下における“代替輸送”の活用と、契約条項設計の考え方を、企業実務のリアルに即して解説します。
特に昭和からのアナログ慣習が根強く残る業界特性にも触れながら、“現場目線”で行動可能なポイントをお伝えします。

フォースマジュール宣言とは何か

契約の中での意味

フォースマジュールとは、契約当事者のいずれにも責任のない、不可抗力的な事由（災害・戦争・労働争議など）によって、一方または双方が契約上の義務を履行できなくなるケースを指します。

通常、販売・購買契約書の中には“不可抗力条項”が含まれ、発生時の通知義務や履行免除の条件、リカバリー策などが定められています。
ただし、この条項の“中身”次第で有事の対応力、つまり現場の明暗が大きく分かれます。

具体的な発生事例

例えば2021年、スエズ運河座礁事故により、数週間にわたり貨物の到着が遅延しました。
また、2020～21年の新型コロナウイルスの流行時、現地工場の一時閉鎖や港のロックダウンが数多くのサプライチェーンを分断しました。
近年もウクライナ戦争や台湾地震、米中間の地政学リスクなど、不可抗力リスクはむしろ増しています。

昭和のアナログ慣習と現代のギャップ

「現物を見る」「電話で確認」「足を運んで調整」

古き良き製造現場では、“現物を手元で確認して意思決定する”という文化が根強くあります。
この“現物信仰”は品質管理や現場の緊密な連携では大きな強みでもありますが、即時・広域対応が不可欠なフォースマジュール宣言時には、しばしばリスクにもなります。
電話中心の連絡、FAXや押印文化、都度現地打合せという“足で稼ぐ”方法だけでは、グローバル物流の急変に瞬時に対応しづらいのが実情です。

デジタル化は道半ば、だが本当に必要なものは？

最近はDX（デジタルトランスフォーメーション）の波もありますが、現場では「肝心な時に“紙”を見なければ済まない」「メールでOKが出るまで動けない」など、ITツールだけで解決しきれない問題も残ります。
何より、“有事の意思決定をどのタイミングで誰がするか”のルールが不明瞭な状態が多いのです。

代替輸送手段の現実的な選択肢

緊急時にむしろ現場がリードすべき理由

フォースマジュール時に“納期だけ死守してくれ”という声が本部や顧客から必ず飛んできます。
ここで、現場目線を持つ調達担当者や生産管理者こそ、実現可能な“代替輸送案”をすばやく提案・判断することが重要になります。

代替輸送の5つの現実解

1. 輸送モードの切り替え（船→航空・鉄道・トラック）
例えば、コンテナ船の遅延なら、一部高額部品だけでもエア便・鉄道便に分割出荷する。
納期とコストを天秤にかけて“ここだけは死守”“これは遅れても妥協”の判断が肝です。

2. 物流ルートの複線化
港（例：横浜港→神戸港・名古屋港）、空港、通関事業者（フォワーダー）ごとのバックアップ手配をリストアップしておくことで、有事に“選択肢”を増やします。

3. 共同物流・緊急便
同業や取引先と一部貨物の共同輸送や、緊急チャーター便の手配も現実的な選択肢です。
昭和慣習の“横のつながり”が意外な形で役立つ場面もあります。

4. 国内サプライヤーの緊急リリーフ
海外部品が止まった場合も、国内在庫やストック保有会社から短期リリーフを調達することで、製造ライン全停止を回避する工夫も必要です。

5. 情報の即時共有と“現場による判断”
“代替案Aはコスト3倍、Bは納期1日短縮だが品質検査が追いつかない”など、メリデメを現場同士でリアルタイムに共有し、意思決定できる体制が強みとなります。

契約条項設計のポイントと実践

フォースマジュール条項の見直しポイント

昭和時代の見積契約テンプレートのままでは、危機時に身動きが取れなくなる場合があります。
現場主導でぜひ着目してほしいのが、次の3つです。

1. フォースマジュールの定義を広く、かつ明確に書く
「自然災害」「労働争議」「戦争」「政府規制」に加え、「パンダミック」「重大な物流障害」「港湾・空港の閉鎖」など実務で想定すべき事象を具体的に盛り込むべきです。

2. 宣言時の通知義務・対応期限を明確に
「発生後◯日以内に書面通知する」「宣言後、両当事者は速やかに代替策協議に入る」など、通知義務とプロセス、期限をセットで明記してください。

3. 一方的な免責ではなく“合理的な努力義務”を明記
単に「不可抗力なら責任免除」ではなく、「合理的な努力をしたうえでの履行不能」という文言を入れることで、安易にリスクヘッジのみを狙う悪用を防ぎます。

代替輸送手段を契約で担保する

契約時点で、「不可抗力時は代替輸送手段の適用を最優先検討し、追加費用は協議して負担配分を決める」旨の条項を検討しましょう。
たとえば“追加航空便費用は買主・売主で50％ずつ負担”や、“港湾トラブル時は近隣港への振替手数料を協議する”など、現実的な対応のフレームワークをつくっておくことで、当事者同士の信頼関係も強固になります。