投稿日:2025年8月25日

輸出入港のストライキ発生時に貨物滞留を回避する代替輸送ルート設計

はじめに:物流網の混乱にどう備えるか

輸出入港におけるストライキが発生した際、製造業のサプライチェーンは直撃を受けます。
港の閉鎖や減便により貨物が滞留し、生産が止まり、納期遅延による信用失墜、ビジネスチャンス喪失など、被害は実に甚大です。
グローバルな競争が激しさを増す中で、こうしたリスクは年々高まっています。
本記事では、現場感覚とラテラルシンキングの視点から、ストライキ発生時に貨物滞留を回避するための実践的な代替輸送ルート設計について掘り下げていきます。

なぜ今、ストライキ対策が求められるのか

近年、北米・欧州・アジア各地の大型港湾でストライキが相次いでいます。
人手不足、労働条件悪化、賃上げ要求、DX推進による雇用への影響など、背景は複雑化しています。
かつて「一時的な混乱」で済んでいた港湾ストも、サプライヤーやバイヤーが増え、ジャストインタイム化が普及した現代では、在庫切れや生産停止リスクがより深刻です。

また、海上輸送一辺倒だった時代から、航空・鉄道・トラックなど多様な物流手段の組み合わせが普及しつつあります。
一極集中のサプライチェーンは、アナログ体質な製造現場ほど脆弱です。
ストライキによる「貨物滞留」は、一歩間違えば数億円単位の損失にもつながります。

港湾ストの現場で何が起きるのか

ステージ1:事前予兆と情報収集の重要性

多くのストライキは、数週間から数カ月前に予兆が現れます。
労働組合からのアナウンス、港湾当局の記者発表、現地ニュースはもちろん、サプライヤーからの連絡、同業他社ネットワーク、ローカル業者の噂話に至るまで、一次情報の収集が決め手になります。
現場に近しい情報ソースを確保することが、代替ルート設計の起点となります。

ステージ2:貨物滞留・通関ストップなどの直接的な影響

ストライキ発生後は、以下のような混乱が即座に発生します。
– 港内・周辺道路での貨物大量滞留
– 通関、船積・陸揚げ作業の大幅な遅延
– 物流ラインの遮断・バイパスルートの大渋滞
– 港湾ごとの荷受け停止、フリータイム超過によるペナルティ

現場担当者を悩ませるのは「荷物は港にあるが動かせない」という状態です。
国内外の法規や港湾ごとのルールに精通していないと、抜け道は見出せません。

代替輸送ルート設計の考え方

1. マルチポート戦略の導入

ある港に異常が起きた時、同じ国や周辺国の別の港を活用することはリスク分散の基本です。
例えば関西港(神戸・大阪)→東京港ルートや、釜山港→仁川港、ドバイ→アブダビなどが挙げられます。
単なる地理的な距離以上に、代替港ごとの通関検査基準や、混雑状況、現地フォワーダーのネットワーク評価を事前にリサーチしておくことが有効です。
実運用段階で慌てずに切り替えられる柔軟性を、平時から養っておく必要があります。

2. 内陸デポ・クロスドック拠点の活用

倉庫拡張や自前物流センター新設はコスト高ですが、群馬・名古屋・福岡など各地方の内陸デポ、クロスドック施設のネットワークを持つ3PLに委託することで負担を抑えられます。
特に「港から動かせない」混雑時は、一部コンテナを内陸へ仮置きし、小口・多頻度で工場や顧客に再輸送することで納期遅延を最小化できます。

3. 海上×鉄道×トラック一体運用の推進

海上輸送が難航した場合、貨物輸送のバックアップとして鉄道コンテナやトレーラー便との連携がカギになります。
たとえば中国→日本向け貨物であれば、一度韓国orロシアへシフト→シベリア鉄道経由で再び日本到着させるルートが有効なケースも。
アナログな業界習慣にとらわれず、各国・各拠点のロジ業者・通関経験者のノウハウを吸い上げることが現場の突破力につながります。

アナログ体質な現場での実践的テクニック

仕入れ先多様化と出荷地最適化

昭和的な「長年の取引先一本主義」はリスク集中を招きます。
サプライヤーの所在地(=港湾依存度)を可視化し、複数拠点化や、半完成品の複数国生産、近隣A港・B港への分散納品システム構築を進めるべきです。

通関業務・輸送書類のデジタル化推進

アナログ文書文化が強い現場では、紙ベースのB/Lやインボイスに頼るため、緊急時に手配が追い付かず事務処理が滞ります。
電子通関やEDI化、インボイス電送など、デジタルインフラの拡充も今後避けて通れません。

危機時のバイヤー・サプライヤー相互理解

バイヤー目線では「納期遅延→自社工場ストップ→取引先への説明責任」というプレッシャー、
サプライヤー目線では「追加費用負担」「イレギュラー対応への現場疲弊」というやっかいなジレンマが生じます。
日頃からチームで代替ルートやBCP(事業継続計画)情報を共有し、緊急時の責任とリスクを分かち合う仕組みづくりが不可欠です。

具体的な事例: ストライキ時の代替ルート設計成功例

アジア主要港スト時の「ハブ港リレー方式」

日本大手メーカーA社では、釜山港でストライキが発生した際、横浜港経由→名古屋港、さらにバンコク港リレールートへ切り替えました。
混雑を見越して一時は航空便と高コスト鉄道便を併用、最終需要地でラストマイルをトラック化。
サプライヤーとバイヤーが即時意思決定し、リードタイムを最小限にすることに成功しました。

欧州港問題時のトルコ経由・地中海ルート活用

ユーロ圏の港湾ストに際し、荷主B社は、従来のロッテルダム経由を一時休止し、イスタンブール港経由+鉄道で中東欧に再配送した実績があります。
現地の物流会社・通関士との強力なリレーション構築が功を奏しました。
強靭なサプライチェーンは、現場スタッフのアナログ的な人脈力に支えられていることも多いです。

まとめ:次の混乱に備えるために今できること

港湾ストライキによる貨物滞留対策は、単なる代替ルートの確保だけでなく、自社の情報網、調達構造、人材教育、そして現場力全体の底上げが求められます。

1. 日頃から多ルート・多手段・多拠点化を進める
2. バイヤー・サプライヤー間の情報透明性を高める
3. デジタルとアナログ双方の武器を持ち、臨機応変に対応する

昭和的な慣習に安住せず、ラテラルシンキングで柔軟な発想を持つことが、次世代の製造業には不可欠です。
ピンチの時こそ「現場力」が問われます。
読者の皆さんが自社のサプライチェーンを一歩前に進めるヒントとなれば幸いです。

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