投稿日:2025年9月7日

商習慣の違いで責任分担が曖昧になる国際取引問題

はじめに:グローバル化がもたらす現場の課題

製造業界において、グローバル化は避けては通れない大きな潮流です。

サプライチェーンは国境を越えて複雑化し、部品や原材料の調達先は東南アジアや東欧など世界中に広がっています。

一方で、現場の最前線では「国によって商習慣や責任分担の基準が大きく違い、トラブルになりやすい」という課題が根強く存在します。

特に責任分担が曖昧なままで国際取引に臨むと、お互いの認識違いや証明責任、クレーム対応の範囲などで大きな混乱を招いてしまう危険性があります。

この記事では、現場経験20年以上の工場長・調達バイヤーの視点から、商習慣の違いがどのような問題を引き起こすのか、またその課題にどう立ち向かうべきか、実践的かつSEOにも強い解説を行います。

商習慣の違いがもたらすリスクと混乱

両者の常識が噛み合わない「目に見えない壁」

日本国内の商取引で当たり前と思っていたルールや常識が、海外パートナーに全く通用しないという事態は日常茶飯事です。

例えば日本では、品質不良が発生した場合、「なぜこのような不具合が出たか」「再発防止策はどうするか」「製品の回収はどこまでやるか」を細かく詰めて責任分担を明確にする傾向があります。

しかし、海外サプライヤーの中には「出荷時検査で合格ならそれで責任は果たした」「納品後に発生した不良はユーザー側の管理責任だ」と捉える文化も根強くあります。

こうした常識の違いが、曖昧な契約・口約束のまま進んでしまうと、いざ問題発生時に「どちらの責任か?」の押し付け合いとなり、調達部門や品質保証部門が板挟みになってしまうケースがよく見られます。

“昭和のやり方”が通じないグローバル調達の現実

特に日本の製造業には、いまだに「長年の付き合い」「現場感覚」「暗黙知」に頼る商習慣が色濃く残っています。

昭和の時代の商売は、相手と膝詰めで話し込み、場合によっては酒を酌み交わして信頼関係を育む「義理と人情」による責任分担が基本でした。

こうしたやり方は国内では通用しても、現代のグローバル取引では通用しません。

特に欧米企業やアジアの新興企業では、「契約書や仕様書・SLA(サービスレベルアグリーメント)に書かれていないことは一切やらない」という態度が明確です。

口頭合意や昔ながらの義理人情型のやり取りは発展途上国では現存しますが、その危うさは年々トラブルの増加という形で浮き彫りとなっています。

責任分担が曖昧になる現場で発生しがちなトラブル事例

品質不良発生時の責任追及と対策工数の押し付け合い

輸入部品の受け入れ検査で不良品が発見された場合、日本のメーカー側は「納入業者の責任範囲内」と捉え、再検査・選別費用の負担や再発防止プログラムの策定を求めます。

しかし海外サプライヤーの中には「現地工場での一次検査でOKなら、あとはバイヤー側の管理範囲内」という立場を取るケースも多いです。

この場合、出荷証明や品質保証書を盾に「我々に責任はない」と突っぱねられ、数百万円単位の対策費用がバイヤー側にのしかかることも珍しくありません。

納期遅延時の「どこからが遅れなのか」で揉める

「納期」と一口に言っても、実は国や業界・企業によって定義が異なります。

例えば、日本では「指定日着」が納期遵守の常識となっていますが、欧米やアジアのサプライヤーでは「船積み日基準」や「出荷準備日基準」で納期が定義されている場合もあります。

「納期に遅れた」と主張しても、「うちはきちんと予定日に出荷した。港での遅延や通関トラブルはそちらの問題だ」と押し返され、バイヤーが顧客や生産現場への説明に苦しむパターンです。

損害賠償・補償の基準があいまい

製品不良や納期遅延によって「二次被害」「逸失利益」が発生した場合、日本国内であれば“良識的な範囲”で話し合いと補償が行われるケースが多いです。

ところが海外サプライヤーの多くは、契約書に細かく補償範囲を明記していない限り「我々は一切補償しない」という態度を見せてきます。

逆に近年では「サプライヤー側にも予期せぬ追加コストが発生した」「ドル円やユーロの為替変動で大きく損失が出た」などの理由で、逆にバイヤー側に追加請求が来る事例も散見されます。

曖昧な責任分担を回避する実践的な解決策

契約書・仕様書の徹底的な明文化

曖昧な商習慣に頼らず、「全ては契約・仕様書に書く」ことが現場の第一防衛線となります。

発注仕様書・品質保証協定・納期定義・検査基準・不良率の許容範囲・納期遅延時の対応など、細かく定義して明文化することがトラブル防止の最大の武器となります。

特に海外サプライヤーとの契約においては、現地事情も調査しつつ、リーガル部門や外部の弁護士の助言も取り入れましょう。

調達担当者・バイヤーの現場力として「何をどこまで書きこむべきか」「失念しがちな抜け穴はどこか」を知識として身につけることが評価につながります。

インコタームズや国際商慣習(INCOTERMS)の正しい理解と運用

国際取引では「FOB(本船渡し)」「CIF(運賃保険料込み)」などインコタームズによるリスク移転や費用負担範囲が重要です。

納期の定義、トラブル発生時の対応範囲を明確にする上で、インコタームズの正しい理解と細かい合意形成は必須となります。

「なぜそれぞれのインコタームズを採用しているのか」「現場サイドのどこまでが我々の責任範囲か」といった観点で、現場教育も積極的に実施しましょう。

現地パートナーとの“壁打ち”による認識合わせ

もう一つ大事なのは、契約直前・納品直前にサプライヤー側の担当者と「想定外のケース」まで含めて、シナリオベースで“壁打ち”ディスカッションを行うことです。

「もし納期に遅れそうな場合は誰がどう連絡する?」「不良が見つかった時、再検査や返送費用はどちらが負担する?」など、現場ならではの“IF”を具体的に想定し、齟齬をなくす努力が求められます。

現地法人や第三者品質管理機関の活用も積極的に取り入れ、不明点や懸念は初期段階で潰しておきましょう。

サプライヤーの立場から見たバイヤーとの責任分担

日本的“丸抱え”要求への戸惑い

サプライヤーの立場から見ると、日本国内バイヤーは過度に高品質を求めたり、瑕疵があった際に「一律で100%の補償」を当然のように求めたりと、「丸抱え型」の商習慣に驚くことが少なくありません。

一方で、海外バイヤーは「契約ベースでしか判断しない」「品質の条件や責任分担を細かく事前に詰める」といったアプローチを徹底しています。

そのため、サプライヤー側としても「契約で決まっていないことは絶対やらない」「事前に何でも明確化しておくべき」という自衛意識が強まっています。

信頼構築×ルール明記のバランスが重要

ビジネスの基本は信頼構築ですが、昨今は“契約不履行リスク”への過敏さもあり、両者の距離感が生まれやすいです。

「本当に困ったとき、バイヤーは自分たちサプライヤーの事情を理解し、誠実に対処してくれるか」
「日本流の“お客様は神様”発想で一方的な請求をしてこないか」

こうした不安を軽減するためにも、「信頼と契約は両輪」「現場の状況変化は柔軟に共有し合う」という姿勢が必要です。

これからの製造業バイヤー・サプライヤーに求められる力

ラテラルシンキングで“想定外”に備える

国際調達・購買業務では、従来型の「マニュアル対応」「パワープレイ」だけでは不十分です。

「一見無関係そうなリスク」「枠にとらわれない新しい責任分担のあり方(たとえば“共創型クレーム対処”)」など、ラテラルシンキングを活かした柔軟な解決アプローチが求められます。

「なぜこの商習慣があるのか」「なぜそれぞれの立場で責任を切り分けるのか」と根本から問い直す姿勢が、役立つ現場力となります。

専門知識+多様な文化理解・コミュニケーション力を磨く

国際取引問題の多くは、「異文化理解の不足」「言語の壁」「コミュニケーションエラー」から生じています。

調達購買の現場で活躍するバイヤーは、契約法務・ロジスティクス・品質管理の知識と合わせて、「多様な文化背景・交渉スタイル」を理解した対応力が求められています。

グローバルに活躍したい方や、バイヤーを目指す方は、語学力だけでなく異文化マネジメントの知見も積極的に磨くことをおすすめします。

まとめ:変革の時代にこそ“責任分担”の見える化が不可欠

商習慣の違いによって責任分担が曖昧になる国際取引問題は、今後さらに複雑化・多様化していきます。

昭和時代の“現場力”も大切ですが、それだけに頼らず、グローバル時代のルール作りや認識合わせ、そして契約内容の可視化が、今まで以上に現場の価値となります。

バイヤー、サプライヤーを問わず、ぜひ現場と経営層・法務、海外パートナーの間に立ち、「お互いの商習慣の違い」を乗り越える実践力を身につけていただければと思います。

工場の現場から現代のグローバル調達現場にまで通じる“本質”を捉えた解決策を、一歩一歩積み重ねていきましょう。

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