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品質クレームの責任境界が曖昧で調達が板挟みになる問題

目次
はじめに
製造業において、「品質クレーム」の発生は避けられない課題の一つです。
特に、購買部門・調達担当者にとって、品質クレーム対応で最も難儀するのが「責任境界の曖昧さ」と、それに伴う板挟み状態です。
サプライヤーと自社、さらには生産・品質部門やお客様、それぞれの主張がぶつかる現場で実務をこなすとき、単なるマニュアルや座学に頼るだけでは通用しません。
本記事では、20年以上にわたる製造現場の実体験をもとに、品質クレームの責任境界が曖昧になる本質的な原因、昭和から連綿と続く業界慣習、そして現場目線の実践的な対応策まで、網羅的に解説します。
調達や購買担当者はもちろん、バイヤー志望の方やサプライヤーの皆様にも、現代の複雑な品質問題の本質を理解してもらえれば幸いです。
品質クレームにおける責任境界とは
なぜ責任が曖昧になるのか
品質クレームの責任境界とは、製品の不具合や問題が発生した際に、「どこからがサプライヤーの責任で、どこからが自社の責任か」を明確に区切る線のことです。
しかし、実態として「材料の入荷検査はOKだったが、実際に生産設備へ投入したら不良品が混入していた」「納入仕様は守られていたが最終製品で問題となった」など、分かりやすい線引きが困難なケースが多発します。
背景には以下のような要因があります。
– 部品・原材料と完成品の間に複数工程があり、どの工程で不良が発生したか特定しづらい
– 合意した仕様書や品質基準が曖昧で、現場の理解に温度差がある
– 設計変更やイレギュラー対応が発生し、責任の所在が複雑化
– サプライヤー任せ、顧客任せなど「なぁなぁ文化」が根強い
– サプライヤー側の品質管理体制や情報開示への不信感
特に日本の製造業では「現場のなぁなぁ感」「持ちつ持たれつの関係による曖昧さ」が昔から根強く残るため、文書でガチガチに責任を定めても「本当にそれで現場は回るのか?」という現実と直面するのです。
「購買=板挟み」になる構造
責任の所在が曖昧な状態で品質クレームが発生すると、必ず調達部門が板挟みになります。
現場目線で具体的な構造を整理します。
– サプライヤーは「自社で納入検査済」「顧客や現場での保管・加工が悪いのでは」と主張し責任を回避しがち
– 社内の品質保証部門は「サプライヤーの品質管理が不十分」と責任転嫁しやすい
– 製造現場やエンドユーザーは「調達が変な部品を仕入れてきた」と不信感を持つ
– サプライチェーン全体の最適化よりも目の前のトラブル対応が優先される
この結果、調達担当者は「どちらにも顔を立てなければならない」難しいポジションになりやすく、真の原因がうやむや(=再発防止できない)になる悪循環も生まれます。
昭和から抜け出せないアナログな業界動向
責任の曖昧さを生む日本型サプライチェーンの特徴
日本の製造業の多くは「系列意識」「長年の取引関係」をベースにしたアナログなサプライチェーンを形成しています。
この文化の特徴は以下の通りです。
– サプライヤー選定よりも「長年取引」「縁故」「現場なじみ」を重視
– 明文化よりも「口約束」や「現場同士の信頼感」が優先
– 問題発生時は「関係者総出で責任を分散」「原因追及をやりすぎない」
– 不具合の根本原因を問い詰めると「面子を潰す」「関係が悪化する」と敬遠
– クレーム対応に経営トップやベテラン社員が「顔を出して大事にしない」
結果、トレーサビリティの明確化や「契約に基づく責任明示」といった欧米型の合理的な進め方が根付きにくく、購買担当者が板挟みになりやすい構造が温存されています。
デジタル化・グローバル化が進んでも根本は変わらない理由
近年、IoT・AI・ビッグデータを活用した品質トレーサビリティや、生産工程の自動化が進んでいます。
また、グローバルサプライチェーンの中で、海外のサプライヤーとのやりとりも日常的になっています。
しかし、昭和時代からの「人脈重視」「現場の空気感」を優先する傾向は根強く残り、責任の明確化・デジタル情報管理などは「形式的」になりがちです。
本当に現場レベルでDX(デジタルトランスフォーメーション)が浸透するには、「人」と「システム」と「意識」の三位一体の改革が不可欠です。
実際の現場で起こる品質クレームと調達板挟みのリアル
典型的なトラブル事例
実際に私が体験した、あるいは同僚から聞いた代表的なクレーム事例を示します。
– 樹脂成形部品の外観不良(微細なキズ、色ムラ、寸法ばらつき)
– 電子部品のハンダ不良やリード曲がり(生産現場で検出)
– 表面処理部品でのメッキムラや剥がれ(最終出荷前に発覚)
– 加工部品の寸法許容差未満(社内工程と外注工程で指摘合戦)
その都度、サプライヤーは「出荷検査ではOKだった」「輸送中や社内保管時に損傷したのでは」と主張。
一方、社内の生産部門や品質保証部門も「こんな部品は現場で使えない」と突っぱねることが多いです。
調達担当者がとりがちな対応と限界
多くの調達担当者は、次のようなパターンで対応します。
– 原因究明の前にサプライヤーへ即報告し、現地調査を依頼
– 両者の主張をとりまとめて「妥協点(分担案)」を探る
– 重要顧客や上位部署からのプレッシャーで一方的にサプライヤー責任にされがち
– 品質保証部門の意見をうのみにして交渉すると、サプライヤーの信頼を失う
この「その場しのぎ」的対応では、再発防止につながりにくく、調達担当者の負荷だけが増えていくことになります。
責任境界の曖昧さを超えるために:現場主義×新しい発想がカギ
「現物・現場・現実」×「仕組み」の両立を目指す
トラブルの本質を見定め、かつ持続的に生産性を高めていくためには、「現物・現場・現実(いわゆる三現主義)」の重視と「客観的な仕組み/データ」の両輪が必要不可欠です。
まずは現場へ出向き、実際の部品や問題の現物を目で見て触れ、関係者を交えて状況を整理すること。
同時に、納入仕様書や図面、検査成績書など、データと文書に基づいて事実を積み上げていくこと。
このサイクルを愚直に回すことで、サプライヤー・社内双方の「感情的対立」を避け、「原因究明」と「再発防止策」に集中できます。
ラテラルシンキングで“解決不能の壁”を破る
「品質クレームの原因は多層的かつ複雑化しており、単純な原因帰属は困難」と割り切る姿勢も時には大切です。
そこで、水平思考(ラテラルシンキング)を活用し、「責任を線引きする」発想だけではなく、例えば下記のような斬新な解決策に挑戦しましょう。
– サプライヤーと共創・共育するクレーム未然防止ワークショップの開催
– 仕様書・工程フロー・トレーサビリティシステムを「現場目線」で再構築
– 文書・契約だけでなく「現物サンプルのやりとり」や「現場同席会議」を定例化
– サプライヤー同士で知見の共有、調達担当者の横断的スキルアップ
– 「失敗からの学び」を正直に公開し、失う信頼より得られる成長を目指す
このような新たな視点を積極的に持ち込むことで、業界の伝統的な“責任の壁”を乗り越えるヒントになるはずです。
サプライヤーとバイヤーの双方が知っておくべき視点
サプライヤーとしてバイヤーの本音を知るには
サプライヤーの立場からすると、「バイヤー・調達の対応が冷たい」「責任を押し付けてくる」と感じることも多いでしょう。
しかし、実際の現場ではバイヤー自身も「サプライチェーン全体の安定調達」「関係者全員の最適」に悩みながら動いています。
サプライヤー側も、
– “仕様の意図”や“現場での使われ方”を積極的にヒアリングすること
– 設備・工程変更や突発事象が発生した際は、速やかに情報共有すること
– クレーム対応だけでなく「未然防止」のアイデアをバイヤーと共に考えること
を心掛けることで、「責任をなすり合う」関係から「信頼を高め合う」関係へステップアップできるはずです。
これから調達・購買を目指す方へ
バイヤー・調達は、単なる「材料を買う仕事」にとどまりません。
サプライヤー・自社・社内外の関連部門…全プレーヤーの間で、最適なバランスと納得を引き出す「ファシリテーター」としての役割が求められます。
“責任分担”ではなく“信頼連携”を意識し、現場の隅々まで目を配りながら、数字と人心両面に強くなれる人が、これからの調達部門で活躍できるでしょう。
まとめ:板挟みの現実を越えて前進するために
品質クレームの責任境界が曖昧になる現実は、サプライチェーン全体が複雑化・多様化する現代ほど深刻になっています。
しかし、昭和から続く慣習・人間関係を活かしつつ、現場主義とデータドリブンの両立、さらに新しい水平思考による解決アプローチがカギとなります。
「板挟み」は避けがたいですが、それを「しなやかさ」と前向きに捉え、サプライヤーと真のパートナーシップを深めていければ、製造業の未来はより明るくなるはずです。
読者の皆様が、それぞれの現場でより良いバランスを追求し、成長の糧としていただければ幸いです。
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