投稿日:2025年6月18日

アナログ&ミックスド・シグナル・プリント基板の設計技術とトラブル未然防止策

アナログ&ミックスド・シグナル・プリント基板の全体像

昨今の製造業では、制御機器やセンサー、通信機器など幅広い分野でアナログおよびミックスド・シグナル回路が搭載されたプリント基板(PCB)が活用されています。

アナログ信号とデジタル信号が同居する基板設計は、昭和世代が現在でも重要視してきたアナログ技術の伝承と、デジタル化の波が急激に押し寄せる現代のはざまで、独自の進化を遂げています。

このミックスド・シグナル基板の設計や実装では、ほんの些細な設計ミスや管理不足が思わぬ製品不良やクレームに発展することもあります。

そのため、設計技術と同時に、トラブルを未然に防ぐ管理術も必須です。

ここでは、現場視点からアナログ&ミックスド・シグナル基板設計のポイントと、実践的なトラブル予防策について解説します。

アナログ&ミックスド・シグナル基板設計の基本

アナログ回路設計における要諦

アナログ信号は微細な電圧や電流の変化によって伝えられます。

このため、ノイズやリーク、寄生容量による信号劣化の影響が非常に大きくなります。

長年、現場のベテラン技術者たちは「レイアウトがアナログ性能を決める」とさえ語ってきました。

部品配置は信号経路をできるだけ短く、グランド面も広く十分に設計することが基本中の基本です。

また、デカップリングコンデンサの配置、シールドの有無、配線幅と間隔など、微細な工夫の積み重ねが重要です。

ミックスド・シグナル設計における注意点

ミックスド・シグナル基板では、アナログ部とデジタル部が混在します。

デジタル回路のスイッチングノイズは、アナログ回路の微小信号を簡単にマスクしてしまうリスクがあります。

ノイズの分離には「アナログとデジタルのグランド分離」「信号クロストークの抑制」「パワー供給経路の分離」などの設計が欠かせません。

また、パターン設計上はアナログのリファレンスラインとデジタルGNDの接続場所を一点接地とすることでグランドループを避ける工夫が必要です。

昭和時代から今なお語り継がれる知恵として、アナログとデジタルの交差配線は最小限に、どうしても交差する場合は90度で交差させる、などのルールがあります。

設計ソフトと現場のアナログ感覚

近年は高機能なCADやシミュレーションツールで基板設計が可能になりました。

しかし現場では「設計ツール任せにしすぎると大きな落とし穴にはまる」と警鐘を鳴らす声が根強いです。

特に寸法管理や手付けの配線変更など、デジタル化されていない“アナログ”な管理手法の妙が不良流出を防いできました。

基板サイズ、部品背面のストレス、実装後検査の測定プローブがアクセス可能かといった物理的な管理も怠れません。

ラテラルシンキングを働かせて「デジタルとアナログの融合」を追求し続けることが、現場の信頼性向上に直結します。

現場で頻発するトラブル事例と未然防止策

ノイズ・クロストークによる誤動作

デジタル信号の立ち上がり/立ち下がり時に発生するノイズは、アナログ回路の微小信号に大きな影響を及ぼします。

量産現場では、エミッション試験で規格を満たさない、現地設置後のEMC試験で不具合が発覚することがしばしばです。

防止策としては前述のグランド分離や一点接地、アナログ部をなるべく基板中央に集約する、あるいは多層基板設計で配線レイヤを分離するなどが効果的です。

また、性能評価段階でオシロスコープやネットアナライザーを使ってノイズレベルを徹底的に”見える化”する現場力が重要となります。

部品選定ミスや調達トラブルによる品質劣化

品質管理や調達バイヤー視点では、部品選定の初期段階から「部品の継続供給性」が大きなテーマです。

海外サプライヤーからの情報不足や、仕様変更・生産中止による“基板再設計リスク”も少なくありません。

このため、メーカー指定部品に依存しすぎず、複数サプライヤーからの選択肢を確保する設計や、現場で置き換え品やセカンドソースを試作段階から織り込む工夫が必要です。

バイヤーや生産管理担当と設計担当が密に連携し、不測の事態であっても焼損しない“しぶとさこそ、昭和から引き継ぐ現場力”といえます。

基板実装時のハンダ不良・オープン/ショート事故

多くの基板トラブルは、はんだ付け不良やパターンショートなど、現場での“アナログ作業ミス”から起因しています。

AE(アフターエンジニアリング)部門のトラブル解析では、パターンのピッチ不足によるブリッジ、基板反りが原因のクラック・オープン、フラックス残渣が原因の絶縁不良などがよく見られます。

これらを未然に防ぐためには、設計段階で実装現場にヒアリングし”どこで人の手が入り、どのようなリスクがあるか”を徹底的に洗い出します。

昭和流“大事なのは作業者と直接会って設計図を一緒に眺める”といったフェイストゥフェイスの現場力も依然有効です。

サプライヤー・バイヤー・現場、三位一体の連携強化術

バイヤー視点で考える設計フェーズの最適解

バイヤーとしてアナログ&ミックスド・シグナル基板を考える場合、単価や納期だけでなく設計、製造、実装、検査までのトータルコストを見極める力が重要です。

部品単価が高くても検査工程やフィールド不良リスクが減少すれば、結果的に全体コストを下げるケースも実際多く見られます。

また早期段階からサプライヤーを設計レビューに巻き込み、“調達不能リスク”“設計変更時の柔軟対応力”“納入品質保証体制”など、現場運用実態まで踏み込んだ目線で議論することが有効です。

サプライヤーは現場課題の解決パートナー

サプライヤー側では、単なる部品供給者で終わるのではなく「顧客現場のトラブル・改善課題に自ら提案する姿勢」が信頼獲得につながります。

新しい実装技術や低誘電率基板、EMC対策部品、検査治具など現場課題の“提案型販促”が好まれます。

デジタル時代の今こそ「現場のアナログ課題」を吸い上げひとつでも多く解決できるサプライヤーは、選ばれ続ける存在となります。

今後求められるアナログ×デジタルの融合スキル

長年、製造業は“アナログの職人技”を核としていましたが、今ではデジタル設計や自動生成ツールとの融合が日常的です。

たとえば、AIによるパターン自動生成・高精度なシミュレーション技術、高速実装ロボットや画像検査による品質保証などです。

しかし、どれだけデジタル化を推進しても、ラインの一瞬の異常や現場断面での摩耗トラブルを見抜く感覚=「生きた現場力」は失われません。

この両方を駆使できる人材こそが、今後のアナログ&ミックスド・シグナル基板設計・調達・製造の現場で求められるスーパーバイヤー、ハイブリッドエンジニアと言えるでしょう。

まとめ:アナログ&ミックスド・シグナル基板を担う人材へ

アナログ&ミックスド・シグナル基板の設計現場は、技術革新の最前線でありつつ、昭和時代から連綿と受け継がれた“現場目線の知恵”が今なお重要です。

トラブル未然防止策としては、徹底したノイズ対策、最適な部品選定、設計・現場の密な連携、不良流出を生まない管理技術が欠かせません。

これから製造業の調達購買、バイヤー、設計者を目指す方は、「アナログ」と「デジタル」双方の視点で現場を俯瞰し、柔軟かつ大胆に問題解決できる力を磨いてください。

そして、工場現場でしか学べない“真の現場力”を次世代に受け継ぐことが、製造業の発展に貢献する大きな一歩になります。

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