投稿日:2025年7月2日

トライボロジー技術で潤滑油劣化を見抜く分析試験ガイド

はじめに:トライボロジー技術の進化が“見えない課題”を可視化する

製造業の現場では、長年にわたって機械の稼働率向上とコスト削減が至上命題となってきました。
ところが、日々回転するモーターやギヤの内部では、金属同士の摩擦・摩耗による“見えない劣化”が静かに進行しています。

潤滑油は、そんな摩擦を抑制し機械を守る要の存在です。
しかし、定期交換ばかりに注力し、実態の見極めを怠ることが、無駄なダウンタイムや部品交換につながることもしばしばです。

近年、トライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑の科学)技術が著しく発展し、潤滑油の劣化状態を“解析”で判断できるようになってきました。
本記事では、20年以上の現場経験と管理職視点を活かし、「潤滑油劣化を見抜くための分析試験」の実践ガイドをお届けします。

バイヤー、現場担当、サプライヤー、いずれの立ち位置にとっても役立つ“真のメンテナンス知識”を深く掘り下げます。

なぜトライボロジー技術が今、製造現場で重視されるのか?

昭和型マニュアル管理の限界

日本の多くの工場では、「○カ月ごとに潤滑油を全交換」という昭和期から続くアナログな運用が根強く残っています。
機械トラブルが起こらなければOKという“事後保全型”思考や、使い捨て文化が業界に蔓延しています。

現場の購買・生産管理担当者も、劣化原因を分析する習慣が根付いていないため、油の使用実態に即したメンテナンスや調達ができず、コスト高や不良リスク増大につながっています。

潤滑油分析の本質とは――「最小リスクで最大効率」の追求

トライボロジー技術によって「どう劣化し、なぜトラブルを引き起こすのか?」を、科学的データで予見できる時代になりました。
この考え方は、まさに“ラテラルシンキング”に合致します。
単なる定期交換では発見できない初期異常や、運転条件による劣化メカニズムの個別性を見抜き、「最小のコストとリスクで、最大の効率」を引き出すことが重要です。

バイヤーとしては、購入先選定や保守契約でも“見せかけの安全”から一歩踏み込み、科学的根拠に基づいたサプライヤー評価や現場提案力が求められています。

潤滑油劣化を見抜く主要な分析試験とそのポイント

潤滑油の劣化診断には、次の3つの試験が柱となります。
それぞれの意味と注意点を、現場目線で解説します。

1. 外観・ベースオイル状態の評価

目視や簡易試験紙を使った“外観チェック”は、最も手軽で即応性が高い方法です。
濁りや沈殿物の有無、金属光沢(摩耗粉)などは初歩的な判定指標です。

とはいえ、この手法だけでは、初期の劣化や不可視な化学反応は読み取れません。
たとえば、ナフテン系やパラフィン系といった油種による傾向も異なるため、熟練者ほど「におい」「色調変化」「粘度」の微妙な差を見逃さない習慣がつきます。

2. 粘度・酸価・水分のラボ分析

粘度変化は潤滑油劣化の“走り”を示す重要な数値です。
高温化や酸化、スラッジ生成によって上昇または低下します。
また「酸価」の上昇は油が酸化して本来の保護能力を失った兆候。
「水分」は機械の冷却不足、結露トラブル、外部混入など異常兆候の要因を突き止める重要データです。

現場でサンプル採取を適切に行い、定量的なラボ分析を継続的に活用することが、高精度な劣化予知の第一歩となります。

3. 異物(金属摩耗粉・スラッジ)分析

異物分析は“機械部品からの異常信号”を受信する手段です。
フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)や誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)を用い、鉄・銅・クロムなど摩耗粉の種類や量を識別できます。

異物の粒径や形状まで踏み込むことで、どの部位(ギヤ、軸受、シール等)に異変が起きているのか、リアルタイムでマッピングが可能になります。
これは現代の“コンディションベースメンテナンス”の基礎です。

分析データを「意味あるアクション」に昇華させるラテラルシンキング

単なる「結果通知」から「根本原因追及」へ

潤滑油分析が普及しても、「数値をもらって終わり」では現場改善には直結しません。
ここでカギとなるのが、得られたデータを横断的に結び付け、“ラテラルシンキング”で奥深く原因を考察することです。

たとえば酸価上昇から「油の酸化」と短絡的に説明するだけでなく、
・なぜ、そのタイミングなのか
・関連する生産負荷や設定変更はなかったか
・類似機械や他ラインとの対比で何が異なるか
――こんな多面的考察こそが、分析を“生きた情報”へと昇華させます。

分析をバイヤー・サプライヤー関係の“対話”に活かす

バイヤーや購買担当にとって、油分析は単なる品質管理の一部ではなく、
サプライヤーと“共に作り上げる保全シナリオ”の交渉材料
でもあります。

分析データに基づいて
「このラインの負荷にはどの程度の仕様、交換サイクル設計が最適か」
「万一異常発生時のサポート体制・補償策はどうなっているか」
など、一歩踏み込んだPDCAを積み上げていくことで、サプライヤーの技術力も業界標準も底上げされていきます。

昭和的アナログ現場もしっかりカバー:現場ノウハウとDX活用の両立例

現場の勘所とトライボロジー分析の融合

最先端の分析装置やAI診断システムが普及しつつありますが、工場現場では今なお“現場の勘と経験”が通常運転を支えています。
古参技術者の「油のニオイがいつもと違う」「フィルター掃除の回数が増えた」といった暗黙知が、異常感知のトリガーになることも珍しくありません。

この“勘所”こそ、あえて分析結果と組み合わせて活用すべき武器です。
たとえば、ベテラン現場と分析担当が定期的にデータを持ち寄り、「目視変化と測定数値の相関」をラテラルに分析します。
こうして感覚と数値両輪での現象分析が可能になり、バイヤーも現場の実態に寄り添ったジャッジがしやすくなります。

デジタル診断プラットフォーム導入のポイント

潤滑油管理のデジタル化も加速しています。
オンライン監視システムを活用して、油質異常を自動アラートで可視化し、突発トラブルを未然に発見する取り組みがトレンドです。
一方、デジタル導入時には「既存現場のノウハウを無視しない」ことが、現場定着の決め手となります。
例えば、現場担当自らがサンプル採取したデータとDXシステムのアラート情報を統合し、納得性を高める“ハイブリッド管理”が有効です。

トライボロジー技術進化で見えてきた未来:工場全体の最適化へ

潤滑油分析は単なる機械保全の枠を超え、製造現場全体の運用最適化へとつながる新地平を拓きつつあります。
例えば、
・分析結果をライン設計・設備選定・新油開発へフィードバック
・「異常兆候」の発見を工場全体の予防保全基準づくりに生かす
・サプライヤー/バイヤー/現場の三者がデータを共有し合い、サプライチェーン全体のリスク低減と効率化を推進
など、ラテラルな発想による組織横断型のイノベーションが生まれています。

製造業では、「現場で得た知見を現場で留めない」ことが製品品質、コスト競争力、サステナビリティすべてに直結します。
解析力と現場力、さらに業界全体が持つ知恵を掛け合わせ、次世代の日本製造業を刷新していきましょう。

まとめ:トライボロジー技術を自社と業界成長のドライバーに

潤滑油の劣化見極めにトライボロジー技術とラテラルシンキングを掛け合わせることは、「無駄やリスクを可視化し、価値に転換する」ための最良の武器です。

バイヤー、サプライヤー、現場担当の立場を問わず、
・現場分析・ラボ検査の双方向活用
・アナログ&デジタルの知見融合
・根本原因の仮説・検証を重視
この3つを柱に、主体的なメンテナンス提案と設備管理の高度化を目指していきましょう。

これからの製造業に求められるのは、マニュアル思考からの脱却です。
見えない課題を“科学の目”と“現場力”で捉え、サプライチェーンの誰もが納得できる形で共有と対話を促進することが重要です。

トライボロジーを通して、現場力を次なる時代へ――。
皆さまの現場がより強く、持続可能に発展することを心から願っています。

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