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プラスチック残留応力の原因解析と低応力化材料選定ガイド

目次
はじめに:現場を悩ませるプラスチック残留応力の実態
プラスチック部品の品質トラブルに悩まされた経験は、製造現場に携わる多くの方が持っているのではないでしょうか。
特に「残留応力」は、クラックや歪み、寸法不良など、見えないリスクとして現場を悩ませ続けています。
昭和の時代から続くアナログなものづくり文化の中で、外国製自動化装置の導入やデジタル化が進む一方、見えないストレス“残留応力”への対策は後手に回りがちです。
調達・購買担当やサプライヤー側も「材料の選定基準がよくわからない」「成形条件との関わりが掴みづらい」といったジレンマを感じておられることでしょう。
本記事では、現場目線でプラスチック残留応力の原因解析と、低応力化材料の選定ポイントを掘り下げて解説します。
バイヤー視点やサプライヤー視点も交え、専門性だけでなく実践的な内容を盛り込んでいきます。
そもそも残留応力とは何か?基礎から復習
まず、プラスチックの「残留応力」とは何でしょうか。
簡単に言うと、成形後の樹脂材料に内部的に残った“見えない力”のことです。
成形時の温度変化や外力、圧力などにより、分子鎖が不自然な形で固まり、外観上は問題なくても、内部に歪んだエネルギーの蓄積(ストレス)が発生している状態を指します。
このエネルギーは、後から時間とともに徐々に部品の変形やクラック(割れ)、反り、不具合として顕在化してきます。
現場あるある:後工程で突然クラックが
例えば、基板を固定するプラスチックブラケット。
組立直後は寸法通りなのに、梱包・輸送後に「パキッ」とヒビ割れを起こしたという報告は、製造業の現場では珍しくありません。
実はこれ、「残留応力」に起因しているケースが非常に多いのです。
プラスチック残留応力の発生メカニズム
なぜ残留応力が発生するのでしょうか?
複数の要因が複雑に絡み合っていますが、主なものは次の通りです。
1. 成形時の急冷却
射出成形や押出成形において、樹脂が溶けた状態から急激に冷やされると、分子の配列が乱れたまま固定されます。
特に厚肉製品や一部の高分子材料は、表面と内部で冷却速度が異なり、内部応力が蓄積しやすくなります。
2. 成形品の形状やゲート設計
複雑な形状や厚さのバラツキ、ゲート位置が悪い場合、樹脂の流動ムラが生じやすく、その結果、応力集中が起こります。
設計段階での「応力の見える化」がされないまま量産入りする典型的な“現場泣かせ”です。
3. 材料特性の違い
アモルファス樹脂(PC、PSUなど)は残留応力がたまりやすい一方、結晶性樹脂(POM、PA系)は分子構造上ある程度「応力開放」しやすいという違いもあります。
外観が同じでも、材料選定で耐久性が大きく変わるポイントです。
4. 成形条件の管理不足
温度管理、保圧時間、冷却時間、離型タイミング――。
このどれか一つでもぶれると「応力対策」は水の泡です。
アナログな現場では「なんとなく昔からこの条件で…」といった属人化もしばしば見られます。
現場で起きる残留応力由来の不具合とBtoB取引の影響
残留応力は単なる“設計・成形上のミス”では済まない、BtoBビジネスの本質的リスクです。
1. クラック・破断による製品クレーム
販売後に市場でクラックが発生すれば、リコールや補償対応に直結するため、信頼失墜のリスク大です。
これはバイヤーにとっても、大きなストレス要因です。
2. 寸法安定性の低下(反り・歪み)
残留応力は、時間の経過や環境変化(温湿度、振動など)により、突然部品が反ったり歪んだりといった不具合を引き起こします。
3. 加工・組み立て時の応力開放現象
タッピングねじ挿入時や追加工時に「割れる」「はがれる」等の問題が起きやすくなります。
製造現場の“手戻り(再作業)”やラインの停止を招く要因の一つです。
バイヤー視点での材料選定:「残留応力対策」をどう盛り込むか
調達・購買担当、バイヤーの観点から見たとき、残留応力対策はどこに着眼すべきでしょうか。
1. 機能要求だけでなく「耐環境性」を重視
強度・外観・コストに目が行きがちですが、成形後の「寸法安定性」「環境変化耐性」もスペックに記載しましょう。
耐薬品性、耐熱サイクル性も重要です。
一部ユーザーでは、材料メーカーに「残留応力性データ(曲げ残留応力試験など)」を要求している事例も増えています。
2. 材料メーカーとの連携
アナログな業界文化が強い場面では、材料メーカーの技術担当者と二人三脚で材料評価を進めることが近道です。
文学的なスペック表や実験室データよりも、現場の成形条件をきっちり反映した「末端評価」がカギになります。
3. サプライヤーへの明確な仕様伝達
曖昧な要求だと「とりあえず汎用グレード」→「やっぱり割れた」→「コストアップ要請」という悪循環が起こります。
例えば、「残留応力値XXXMPa以下」「個別応力緩和処理を要求」「製品形状ごとのFEMシミュレーション」など、できるだけ明確な仕様を提示することが大切です。
低残留応力化材料の最新トレンドと選定ポイント
技術進化の著しい近年では、多様な低応力グレードが登場しています。
ここでは業界動向も織り交ぜて、今選ばれるポイントをご紹介します。
1. 応力緩和型グレードの活用
材料メーカー各社では、「応力緩和性」を高めた射出成形グレードがラインナップされています。
添加剤による分子排列制御や内部可塑剤を入れることで、残留応力をリリースしやすい設計が施されています。
特に自動車関連や精密通信機器での引き合いが急増しています。
2. 結晶化度コントロールが材料選択のカギ
アモルファスよりも結晶性樹脂の方が分子の配列が整いやすく、結果的に応力開放しやすいです。
例えば、PPS樹脂やPA66(66ナイロン)などは、耐熱性と低応力性を両立できるため、高負荷用途での選定が進んでいます。
3. FEM(有限要素法)解析による事前評価
設計初期段階で、FEMツールを使った応力シミュレーション(CAE)が主流になってきました。
材料選定時にシミュレーション技術を併用することで、失敗リスクを大幅に減らせます。
多くの先進サプライヤーでは、受託開発の初期で材料メーカーとCAE担当が密に情報交換するのがあたりまえになってきています。
低残留応力化のための現場実践術
材料選定と同様に、実際の成形・製造工程でも応力対策は欠かせません。
1. 成形条件の最適化
樹脂温度・金型温度・保圧・冷却――これらを最適値に調整することで、残留応力は確実に減少します。
あえて冷却時間を延ばす、または段階的な冷却を導入することで、歪みを大幅に低減できることがあります。
2. アニール(焼鈍)処理の活用
成形後、部品を加熱して応力を抜く「アニール処理」は、長年の実績がある有效手法です。
ただし、コストとサイクルタイムに影響するため、事前評価が大切です。
3. 金型設計の工夫
ゲートの位置や数の工夫、流動解析による最適化により、流動ムラや局所応力集中を防ぐことができます。
最近では金型メーカーもCAEによる支援が標準化しつつあります。
サプライヤーとバイヤーの協働が不可欠
材料の高度化・工程の最適化は、一社単独では完結しません。
経験上、設計者・バイヤー・成形現場・材料メーカーの“四者協働体制”が、最も効果的です。
現場課題を早期に共有し、試作段階で失敗事例や現象確認をストックしていくナレッジマネジメントの習慣こそ、残留応力トラブルの撲滅に直結します。
まとめ:アナログ文化からの脱却と新しい地平へ
プラスチック残留応力は、見えないからこそ対策が難しい永遠のテーマです。
一方、材料科学や解析ツールの進化、現場力の蓄積によって「未然防止」は十分可能な時代になりました。
昭和型アナログ現場には、現物現場主義のよさと同時に、変化への弱さという課題が根強くあります。
しかし今こそ、サプライヤー・バイヤーが現場知と最新技術、材料への深い理解を融合させ、新しい地平を切り開くときです。
残留応力の本質を見抜き、低応力化材料という新しい武器を使いこなすことで、ものづくり日本が再び世界トップクラスの信頼性を取り戻すことができるでしょう。
引き続き、現場を担う皆様が知恵と技術を共有し合い、製造業の未来をともに切り拓いていきましょう。
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