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寒冷地陸送の凍結・破裂を避ける不凍液・断熱梱包の実務

目次
はじめに:寒冷地物流の現場課題と求められる対策
日本国内でも北海道や長野、東北地方をはじめ、世界にはロシアや北欧、北米地域など極めて厳しい寒冷地が存在します。
これらの地域に物資を陸送する過程では、積載貨物が凍結や膨張・破裂といった重大なリスクに常に晒されています。
とくに化学薬品、冷媒、バッテリー液、塗料、機械内部の作動油や水系部材など、低温で凍結・膨張する性質を持つ製品・材料を扱う場合、慎重かつ専門的な出荷・梱包対応が不可欠です。
2024年の時点でも、製造業現場の多くでは「昔ながらのやり方」で不凍液や断熱梱包を行っており、新しい技術の導入や現場フローの見直しが進んでいない事例も少なくありません。
本記事では、現場目線で寒冷地陸送における凍結・破裂リスクをどう最小限に抑え、顧客満足&品質保証を確保するかを実務具体例とともに徹底解説します。
なぜ寒冷地出荷で凍結・破裂事故が多発するのか?
輸送ルート特有の「温度差」と油断が事故を招く
寒冷地出荷のトラブルは、「想定外の温度低下」によるものが大半です。
たとえば、都市部から出発した貨物が高速道路やJR貨物列車で山間地や北国を通過する経路において、日中は氷点下に至らない場合でも夜間〜未明に突発的な冷え込みに見舞われることが多発します。
加えて、運搬業者や倉庫側の「そこまで冷え込まない」「一晩程度なら大丈夫だろう」という油断から、簡易梱包に留めてしまうアナログ文化がいまだ根強く残っています。
この油断が、実際に輸送中の製品内部で液体が凍結→体積膨張→容器の破裂やパウチの損傷、液漏れという重大クレーム(顧客からの信用失墜)を招くのです。
対策遅れの理由—「費用対効果」と「現場の古い常識」
高度な断熱材や最新の不凍液投入、ヒーターユニットなどの導入にはどうしてもコストがかかります。
長年、「簡易保温シート」「新聞紙を何重にも巻く」といった簡素な手法が通例となっている現場では、上記のようなコストの掛け捨て感覚や、「昔からこれで問題なかったはず」という古い常識が強力に働き、新しい検討が進みません。
ですが、実はその数百円・千円のコストカットが、後に数十万〜数百万円単位の重大事故や損害賠償、取引停止などの「取り返しのつかない損失」につながることがあるのが現実です。
陸送現場で実践される不凍液・断熱梱包の具体策
「不凍液」の選定と投入ポイント
不凍液と一口に言っても、用途に応じて大きく性状が異なります。
工業用の場合はプロピレングリコール系、エチレングリコール系、天然系(塩水やアルコール混合)などさまざまです。
重要なのは、「想定最低気温」に応じて濃度を調整し、実際の輸送ルート・保管条件・荷卸し時点まで凍らない配合にすることです。
例えば、北海道の帯広〜稚内間の冬季深夜(-20℃~‐25℃)の場合、現場では「出荷時に計量カップでの希釈調整+濃度チェッカーでの実測」を必ず二重に確認します。
また、短距離輸送の場合や、一日も経たない便なら規定量以上の高濃度配合はむしろ危険(腐食や材料劣化リスク)となるため、最適点を現場レベルで詰めることが評価されます。
断熱梱包の最新手法:アナログ+新素材の融合
昭和的な現場では、新聞紙、発泡スチロール、毛布、段ボール重ねといった素材が依然として使われています。
一方で、近年は
・真空パネル
・エアキャップ(プチプチ)の高密度タイプ
・アルミラミネート断熱
・グラム単位で最適化可能な高機能断熱材
など、低温流通向けの高性能梱包資材が容易に入手可能となりました。
たとえば、医薬品・精密機器・農産品向けでは「3層断熱」「高性能断熱+省スペース設計」でコストと保温性を両立させています。
現場で大事なのは、製品特性・輸送時間・温度変化のシミュレーション結果などを踏まえて、それぞれの梱包仕様を「ストップウォッチ方式」で温度経過を見ながらパターン検証することです。
付加的なリスク低減方法
・温度ロガータグを実際に貨物へ添付し、出荷~到着までの全経路温度を見える化
・積載車両の荷室断熱や部分的なヒーター設置
・大型貨物輸送では「混載を避けて単独保温梱包」に切り替え
・港湾・駅での一時保管時には「保温ボックス移し替え」や「暖房スペースで仮置き」
こうした複数のプロセスを「物件(ロット)ごとに最適化」し、5M(人、機械、材料、方法、環境)観点でロスがないかを検証し続ける現場視点が不可欠です。
事件・事故のリアル事例から学ぶ現場教訓
トラブル事例1:化学薬品のタンク破裂事故
ある化学メーカーでは、出荷段階で従来比50%のコスト削減を狙い、断熱資材を1層減らす判断を下しました。
結果、早朝の冷え込みでタンク内の化学液が完全凍結し、体積膨張でフタが飛び、内容物の大量流出事故が発生。
運送会社・顧客・自社の「三者協議」で長期クレーム・巨額損害発生となりました。
この経験から「断熱資材の安易な省略」「経費優先の現場圧力」がいかに危険であるかが全社で再認識され、現在は「少額の追加費用で事故ゼロ」を徹底しています。
トラブル事例2:塗料缶の膨張破裂事故
冬季の北関東へ自社製塗料をパレット出荷した際、それまで使っていた「簡易ラップ梱包」を信頼しすぎ、運送区間内での冷え込み予報を軽視。
1割以上の缶が膨張・変形し、内容物漏洩、顧客の生産ライン全停止・清掃手配…という二次災害を引き起こしました。
以降、「予報リスク→現場即時判断の徹底」「天気予報データ×断熱設計の見直し」が標準運用化されています。
バイヤー・サプライヤー目線で考えるべきポイント
バイヤーがサプライヤーに求めるもの
1. 現場での温度管理基準(具体的な温度リスクシナリオに基づく運用)
2. 実梱包見本や過去トラブル時の「再発防止策」提示
3. 温度ロガーデータ管理や第三者検証結果
4. 梱包材トレーサビリティと隔週程度の運用監査
5. トラブル時のリコール・賠償体制
単なる「問題ありません」ではなく、「ここまでやっているので問題ありません」と現場の物証を伴う提案が不可欠です。
サプライヤー側での現場実務アップデート
現場でのルール化、標準作業手順書(SOP)の改訂、季節ごとの「断熱梱包・不凍液濃度設定値」自動計算シートの社内共有など、細部まで可視化・標準化することが求められています。
また、サプライヤー独自の「お客様ごとに最適化した個別対応体制」が今後ますますバイヤー評価のポイントとなります。
現場力を活かす、最適な仕組みづくりの秘訣
「人」×「データ」×「仮説検証」でレベルアップ
いち工場長・現場管理職の視点からポイントを挙げると、
・熟練工の経験値・直感を数値データで裏付けし、再現性のある仕組みに落とし込む
・トラブル発生時の「どこに起因したか?」を精緻に棚卸し、すぐSOP反映
・日常的に新しい断熱資材の性能テストや不凍液配合レシピを現場で仮説検証
これらをトップダウンや外注丸投げではなく「現場主導」で進化させていくことが、事故ゼロ・品質保証の最大の近道です。
DX化・自動化が生み出す新たな可能性
昨今、人手不足時代に対応するために
・AI予測×温度センサー連携で最適梱包パターン自動提案
・BtoB物流クラウドを活用した「運送条件一元管理」「温度証跡付与」
・IoTデバイスによるリアルタイム監視
など、デジタルと現場経験を融合する動きも広がっています。
古き良き経験値と、最新デジタルの力をバランスよく組み合わせることで、どんな寒冷地にも「安全・安心」を供給し続ける製造業の底力を発揮できます。
まとめ:寒冷地陸送の凍結・破裂対策は「現場で進化し続ける実務力」こそ鍵
寒冷地における凍結・破裂対策としての不凍液・断熱梱包は、「万全を期した対応」「仕組みで守る」意識が何より重要です。
昭和からの慣習のまま、コストや手間優先で済ませる時代ではありません。
・想定外を常に想定する緊張感
・現場検証、データ管理による再現性と進化
・バイヤー・サプライヤー双方の現場目線での最適解追求
これらの実務の積み重ねが、寒冷地での品質事故ゼロ、ひいては企業ブランド価値の向上につながります。
今一度、「当たり前のこと・古いやり方」に疑問を持ち、現場目線で深く掘り下げ、新たな仕組みや工夫を日々アップデートしていきましょう。
寒冷地物流の品質保証は、未来の信頼と市場拡大への第一歩です。
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