アパレルOEMの基礎：サイズスペック・グレーディング・洗濯表示

はじめに

アパレルOEM（Original Equipment Manufacturer）は、ブランドや小売企業が自社のブランド名で商品を販売するために、外部の工場に製品の生産を委託する方式です。

このビジネスモデルは長い歴史を持ち、日本の製造業にも大きな影響を与えてきました。

しかし、昭和から続くアナログな商慣習が根強く残る一方、グローバル化やデジタル化によって新たな変革も求められています。

この記事では、アパレルOEMの現場で重要となる「サイズスペック」「グレーディング」「洗濯表示」について、現場目線の実践的なポイントや、業界動向を踏まえて解説します。

これからアパレル業界に携わる方や、バイヤーを目指す方、サプライヤーとして現場のニーズを理解したい方に向けて、役立つ知識を提供します。

アパレルOEMとは何か

OEMビジネスの基本構造

アパレルのOEMは、依頼主（ブランド、商社、小売企業など）が製品の仕様やコンセプトを決定し、それに基づいてサプライヤー（縫製工場や生地メーカー）が実際に生産を行う構造です。

依頼主は自社ブランドとして商品を販売しますが、生産工程は多くの場合社外の工場に委託されます。

これは、コスト削減や生産の効率化、技術力の活用などを目的としています。

昭和から続く慣習と現代の課題

アパレルOEMの世界では、未だにファックスや電話での発注、手書きによる指示書、ベテランの勘と経験に頼る部分が多いのが実情です。

しかし、グローバル競争が激化し、納期や品質に対する要求が厳しくなる中、デジタル技術の導入や標準化、チーム間の連携強化が重要なテーマとなっています。

サイズスペックの基礎と現場での実践

サイズスペックとは何か

「サイズスペック」とは、衣服の各部位の寸法を明確に示した設計図のようなものです。

肩幅、着丈、身幅、袖丈、ウエスト、ヒップなどの基礎寸法が表形式でまとめられており、サンプル作成や量産時の品質保持の基準となります。

アパレルOEMでは、このスペック表が現場の指示書とも言える重要なドキュメントです。

なぜサイズスペックが重要なのか

品質トラブルの多くは「サイズ違い」「個体差」「仕様誤認」といったスペック管理の不徹底に起因しています。

例えば、身幅が1cm違うだけで着心地やシルエットが大きく変わり、ブランドイメージを損なうこともあります。

量産現場では「どこまで許容できるか」「想定したサイズと現物が合っているか」を明確にするため、ミリ単位の精度でサイズスペックを管理する必要があります。

現場でよくある課題とその対策

昭和の現場では、ベテラン職人の感覚で「少しくらいなら大丈夫」と許容範囲を拡大しがちな傾向がありました。

しかし、現代ではブランド価値の維持のため、サンプル段階でしっかりと「許容公差（容認できる誤差範囲）」を設定することが不可欠です。

具体的には、測定方法や治具（定規・メジャー）にも標準を設け、関係者間で「どこから・どこまで測るか」を厳密に統一することが品質安定のカギです。

また、デジタル化が進む現在では、クラウド上でスペック管理や変更履歴を一元管理することも有効です。

グレーディングとは何か

グレーディングの役割

「グレーディング」とは、基準となるサンプル（たとえばMサイズ）から他のサイズ（S・L・XLなど）へ、バランスよく寸法展開（サイズレンジの拡大・縮小）を行う作業です。

単純に全体を均等に大きくしたり小さくしたりするだけでは、着用時のバランスや快適さが損なわれます。

各部位ごとに「どのくらい寸法を変化させるべきか」というノウハウが必要です。

グレーディングの現場的ポイント

グレーディングの肝は、単なる「足し算・引き算」ではなく、体型や用途、市場の嗜好を反映させる点にあります。

例えば、「日本人向けのSサイズ」と「欧米人向けのSサイズ」では、肩幅・着丈などのバランスが異なります。

現場では、以下のような点に細心の注意を払います。

• 部位ごとの変化量の設定（袖丈、裾幅など）
• ターゲット顧客の体型データ分析
• ブランド・市場による寸法傾向の違い
• アイテムの用途（スポーツ用、リラックス用など）

最新では、3DシミュレーションやAIによるサイズ展開の自動化も進んでいますが、依然としてベテランパタンナーの経験やフィッティングによる微調整が重要視されています。

洗濯表示の考え方と業界動向

洗濯表示の重要性

「洗濯表示」は、その製品がどのようなお手入れ方法に適しているかを消費者に伝えるための法定表記です。

誤った表示や分かりづらい表示は、消費者クレームや事故の元になります。

特にアパレルOEMの現場では、海外生産品に対する洗濯表示規制（JIS・ISO・GHS等）への対応や、多言語表記、法令遵守が求められます。

現場の実践とトラブル事例

OEM依頼主は、製品企画段階で「どの素材をどのように洗うのか」「乾燥・アイロンは可能か」という検証を行う必要があります。

サンプル段階で物理的な洗濯テストを実施し、問題がないか確認します。

よくあるトラブルとしては、現場での経験則だけで表示を決めてしまい、「家庭で洗えないのに、洗濯可マークをつけてしまった」など、不適切な表示が事故につながることがあります。

また、グローバル化に伴い、海外向けの表示内容や現地法規への適合も重要なテーマです。

進化する洗濯表示への対応

近年はピクトグラム化（記号表示）が標準となり、言語を問わず伝わるデザインへ進化しています。

デジタル化により、ウェブ上で洗濯方法やケアガイドを提供するブランドも増えています。

現場スタッフやバイヤーは、常に最新の法規制や表示ルールをキャッチアップし、正確な情報提供を心がけることが必須です。

アパレルOEMとバイヤー・サプライヤーの関係性

バイヤーの目線：何を重視するか

バイヤーは、品質・コスト・納期の「QCD」を最重視するのが基本です。

その上で以下の点も重要となります。

• スペック通りの製品が安定して納品されるか
• 不良率やクレームの少なさ
• リードタイムや対応力（トラブル時の柔軟な対応）
• 社会的責任（コンプライアンス、環境配慮等）

バイヤーとして優秀な人は、サプライヤーの現場事情を理解し、無理な要求やコミュニケーションロスを避けながら、Win-Winの関係づくりを心がけています。

サプライヤーの役割と成功のポイント

サプライヤー側がバイヤーの信頼を得るポイントは、次の通りです。

• 明確なスペック管理と品質保証体制の構築
• 現場の「気づき」や改善提案（新素材の提案、工程の効率化など）
• 納期遵守と柔軟な生産調整
• 業界法規・規制の最新知識を持つ

アパレルOEMは、単なる下請けから価値共創パートナーへと進化しています。

時代遅れの「言われた通りやればよい」から「一歩先を読んで提案・改善する」姿勢が求められます。

アナログからの脱却とデジタル化の波

なぜアパレル業界はアナログが根強いのか

アパレル業界は長らく「職人技」や「目利き」に支えられてきました。

紙のパターンや手書きの指示書、電話一本によるやりとりに慣れた世代が多いことも、デジタル化の遅れの一因です。

しかし、多品種小ロット化や海外サプライチェーンの複雑化、法規の国際化により、もはやアナログのままでは限界が見えてきています。

デジタル化による現場変革の実践例

現場では、以下のようなデジタルツールが導入されています。

• オンラインスペック管理ツール（クラウドでの一元管理）
• 3Dパターンシミュレーション
• 自動グレーディングソフト
• 画像解析による品質検査

昭和型のやり方にこだわる企業は、いずれ競争力を失います。

変化を恐れず、現場と情報部門が連携して「まず一部の製品から」「小さな改善でOK」から始めてみてはいかがでしょうか。

まとめ：アパレルOEMでこれから活躍するために

アパレルOEMで安定した品質やビジネス成功を実現するためには、「サイズスペック」「グレーディング」「洗濯表示」の徹底管理が欠かせません。

かつての職人芸や経験頼みから、標準化・デジタル化へと現場を進化させることが、今後ますます重要となります。

現場力とテクノロジー、そして川上・川下の連携強化が、次世代アパレルOEMの勝利の方程式です。

今を生きるバイヤー、サプライヤーの皆さまには「現場発」の気付きと改善、最新情報のキャッチアップを心よりおすすめします。