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仕様変更が頻発する案件で追加費用を確実に回収するための稟議プロセス

目次
はじめに:製造業の「仕様変更」と稟議プロセスの重要性
製造業の現場では、顧客からの要求や市場の変化、技術進化などを背景に、設計や仕様の変更が頻発することは日常茶飯事です。
特にBtoBの受託生産やOEM案件では、開発の初期段階や生産中にも、顧客サイドから様々な追加要望が飛び込んできます。
こうした仕様変更は一見顧客のニーズに応える前向きな取り組みですが、一方で調達コストや生産ラインの段取り替え、在庫負担の増加など多くの追加コストが発生するのも事実です。
しかし、現場感覚としてこの「追加費用」を適切に申請・回収できていない実態も少なくありません。
なぜなら、「現場が自社負担で吸収してしまう」「正しい稟議を作る時間や知見がない」「営業や顧客との関係性から追加請求がしにくい」「そもそも稟議が通りづらい文化・空気がある」といった、昭和から続くアナログ体質や人間関係による要素が根強く残っているからです。
本記事では、現場目線で「仕様変更が頻発する案件で、確実に追加費用を回収するための稟議プロセス」を実践的に解説します。
「なぜ現場では追加費用を申請できないのか?」という課題から出発し、バイヤー(調達担当者)やサプライヤーの心理、業界の慣習、説得力ある稟議の作り方、さらに経営層や顧客との調整・交渉術まで、“実際によくある失敗”や“現場の裏事情”を交えながら、再現性あるノウハウをまとめます。
追加費用をスルーする現場の“あるある”
なぜ仕様変更時の追加費用は現場で押し切られてしまうのか
製造業で長く現場にいると「また仕様変更だ」「しかたないな、現場でなんとかしてよ」という暗黙の空気に既視感を覚えることがあると思います。
なぜ稟議で追加費用を要求するべきと分かっていても、“そのままサービス残業的”に吸収してしまうのでしょうか。
– 顧客や営業の顔色をうかがいがち
– 「うるさい」と思われたくない、担当者が責任回避を優先
– 仕様変更が多い業界(FA、自動車部品、電機OEMなど)は元から「仕様変更多発」が織込み済みになり、差額回収が常態化していない
– 「小さな手間は都度請求できない」という積み重ねが大きなコストロスに繋がっている
このような構造は、特に国内大手や日本的な系列取引に強く根付いています。
現場が泣き寝入りしてしまう“損失”の正体
実は、こうした「小さな仕様変更の費用を黙って現場で吸収する」ことが、社内原価の膨張や現場の疲弊、プロジェクト収支の大幅な悪化、ひいては会社全体の利益率低下につながっています。
実際に私が手掛けてきた案件では、仕様変更の都度“数万円単位の工数や手間”が数十回積み上がり、最終的に何百万円もの損失になった事例も後を絶ちません。
だからこそ、「追加費用は必ず稟議で可視化し、正しく申請・回収する」ことが、企業財務の健全化だけでなく、現場の健全な労務・モチベーション維持にも直結する大きな経営課題なのです。
追加費用回収の“強い稟議”作成のポイント
「先輩や上司が“とりあえず書いておけば”というスタンスのまま案件稟議を上げる。結果、あいまいな内容・金額で通してしまい最終的に現場持ちになる。」
このあるあるパターンを断ち切るため、「回収できる稟議書」の要件・書き方を具体的に解説します。
1. 仕様変更内容を数値・証拠で全て記録する
常に「現場証拠主義(エビデンスファースト)」を意識しましょう。
– 変更前と変更後の“図面・仕様書”
– 顧客や営業からの“メール、FAX、打合せ議事録”
– 追加手配の部品・材料・金型、外注費の見積書
– 追加作業に必要な生産日報、工数記録
これらを時系列・ファイル管理し、「なぜこの変更が発生し」「どれだけの費用ロスが生じたのか」を、数字・証拠ベースで説明することが求められます。
「言った・言わない」「自社都合か顧客都合か」で揉めないよう、必ずファクトを積み重ねましょう。
2. 追加費用の内訳を明確にし、項目ごとに積算根拠を示す
経理部門や経営層が「なぜこの金額なのか」「この手間だけで本当にその費用が必要なのか」と指摘できないよう、可能な限り詳細に積算します。
例)
– 追加で1回あたり◯人工、◯時間作業が必要→作業単価×時間数
– 外注先の型修正費用→先方見積書の添付
– 受入検査の追加工数→検査員の稼働記録
詳細につけることで、「本当に必要な費用」と経営レイヤーが納得しやすくなります。
また、バイヤーや調達担当者の視点でも、納得できるサプライヤーが「信頼に値するパートナー」であることが伝わります。
3. 変更の発生起点(社内/客先)を明らかにする
案件稟議で最も揉めやすいのが、要求が“誰の都合で出た変更か”です。
– 顧客都合(仕様追加/設計変更)
– メーカー側都合(設計の不備、社内手配ミス等)
追加費用が社外請求できる案件(主因が顧客要求)かどうかを明確にしておきましょう。
場合によっては
– 案件ごとに「顧客要求による追加分」と「自社都合吸収分」を分けて申請
– 社内で負担とするか、外部請求とするかを稟議内で明記
これにより、「自社都合までまとめて回収しようとしている」「逆に回収できる分までサービスしてしまっている」といったトラブルを防げます。
4. 変更リスクの顕在化を追記し、今後の再発予防策も提示する
単に「追加費用を回収したい」ではなく、
– 「なぜ今回こんなコストが生じたのか」
– 「今後同様の事態を防ぐために、変更管理手順のルール化」
– 「事前見積時の調整余地や、契約書での仕様凍結タイミング明記」など
リスク管理・体制強化の取り組みも稟議内で示すことで、経営層にも納得してもらいやすい稟議となります。
昭和的な組織文化が稟議を妨げる“壁”と、突破のコツ
“やったもん勝ち”文化・暗黙の了解による損失の根絶策
「現場の阿吽の呼吸で、ちょっとくらいの手間ならサービスして当然」という価値観。
– 実際は全体利益・生産性を下げている
– 「仕方ない」で済ますと、いつまで経ってもコスト構造は古いまま
稟議で追加費用を回収する文化を組織全体に根付かせるには、トップや部門長クラスの“明文化されたルール化”が必須です。
例)
– 「仕様変更は、必ず追加コストを計上し社内稟議する」
– 「現場が吸収しない、吸収した場合は上司に事後報告義務」
現場に丸投げするのではなく、“見える化・申請プロセス”としてルール設計を行いましょう。
サプライヤー側がバイヤー視点を理解することの意味
サプライヤー側から見ると、どうしても「バイヤー側(客先)は追加費用に厳しい」「値上げ交渉は揉める」というネガティブイメージがあります。
しかし、優れたバイヤーは
– なぜその費用が必要なのか
– どこまでが自社負担/客先負担か
– 根拠や証拠ベースで説明できるパートナーを選び、長く取引したいと思っています。
過去に交渉の際
– 口頭だけで「これくらいかかるので上げてください」と伝える
– 「書類はありませんが、急いでやった分なのでサービスできません」
といった曖昧な主張では、理解も了承も得られません。
バイヤーの審査基準を意識しながら、
– 書類や見積、裏付けに基づきロジカルに説明
– 発生プロセスを客観的に示す
– 「次回以降こうした変更はこの段階でお見積りします」という再発防止提案も添える
という一連の流れを実践できれば、双方の信頼関係がより強くなります。
昭和的“どんぶり勘定”からの脱却、デジタル化の活用
アナログな現場文化、紙の稟議書・電話・口頭による指示だけに頼っていると、証拠が曖昧になりやすく、ミスや漏れ、後追い負担も増えます。
現在は
– 稟議申請~承認フローをデジタル化(ワークフローシステム導入)
– 仕様変更・指示記録の電子化(ERP、PLM、メール・チャット記録)
– コスト管理の見える化(BIツール、電子台帳等)
により、「案件ごとの仕様変更多発」でも“都度正確な費用回収”が容易にできるようになっています。
特にサプライチェーン全体の最適化や、グローバル拠点展開のある企業ほど、このデジタル化による透明性・スピード化の恩恵は大きいといえるでしょう。
バイヤー・調達担当が重視する“納得できる”稟議・提案のコツ
– 仕様変更の根拠/証拠+積算の流れを明記
– 「この変更はここで凍結」「この納期以降の変更は追加費用必須」と事前合意(STATEMENT OF WORK等の契約明記)
– 早いタイミングで情報共有し、「後出しジャンケン」にならない
– 「このタイミングであれば無料対応可能」「以降は費用発生」と条件線引き
事前の打ち合わせ/合意形成が将来的なトラブル未然防止になるため、稟議以前の営業・設計段階から意識的な取り組みが重要です。
まとめ:仕様変更=新たなビジネスチャンスの発掘へ
仕様変更や追加要求が多い案件は、短期的に面倒・コスト増と感じられがちです。
しかし逆に、これこそ“現場にしか分からない価値”を事業化・見える化できるチャンスです。
– 仕様凍結後の「有償変更メニュー」をサービス化
– 「柔軟な変更対応力」「速いサイクルでのカスタマイズ」が自社の差別化ポイント
– 追加費用を正しく回収し、現場の生産性や働き方改革も推進
このように、“都度ちゃんと稟議で回収できる”体制を仕組み化することは、ただの利益確保にとどまらず、組織文化の変革、新ビジネス創出、現場の人材育成や働く人の誇りにつながるものです。
本記事が、現場で苦労するバイヤー、サプライヤーの皆さまの一助となり、製造業の発展に繋がることを願っています。
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