与信とコンプライアンスを自動スクリーニングして取引停止リスクを抑制

与信とコンプライアンスを自動スクリーニングして取引停止リスクを抑制

はじめに：変革が迫られる製造業バイヤーの現場

製造業のバイヤーやサプライヤーにとって、「取引停止リスク」は常に大きな悩みです。

倒産やコンプライアンス違反による急な取引停止が起きると、サプライチェーンが崩れ、納期遅延や品質低下が現場を直撃します。

これまで多くの工場では、与信管理もコンプライアンスチェックも人手に頼った「昭和式のやり方」、つまり定期訪問や手作業の調査書類チェックが主流でした。

しかし、サプライチェーンがグローバル化する現在、このままではリスクの早期発見もスピード対応も困難です。

働き手不足・DXの推進、ESG（環境・社会・ガバナンス）経営への社会的要請など、製造業を取り巻く環境は劇的に変化しています。

そこで今、与信とコンプライアンスを「自動スクリーニング」する新しい仕組みが業界内で注目を集めています。

今回は、長年現場に身を置いてきた筆者ならではの視点から、最新動向と実践的な導入ポイントを詳しく解説します。

なぜ今「自動スクリーニング」が求められるのか

従来型の手作業チェックには、次のような限界があります。

・調査に時間がかかり、状況変化への感度が鈍い
・人による判断のバラツキ、見落とし、属人化
・必要な情報の網羅性・鮮度が担保しづらい
・大量取引先のハンドリング負担が重い

この結果、「取引開始時には問題なかったが、気付かぬうちに与信悪化や法令違反が進行」という事態も稀ではありません。

一旦トラブルが表面化してからでは、現場への影響は甚大です。

さらに、近年は下記のような新たなプレッシャーが現場を覆っています。

・グローバル調達比率増加、海外サプライヤー対応の難しさ
・反社会的勢力排除法制や各種輸出規制への対応義務
・SDGsや人権デュー・ディリジェンスに対する社会的責任

こうした中、AIやRPA（業務自動化）、クラウド型サービスを活用し、取引先の与信やコンプライアンス状態を「リアルタイムかつ網羅的」にチェックできる仕組みが急速に普及しています。

与信・コンプライアンス 自動スクリーニングの全体像

自動スクリーニングサービスは、主に以下の２つの分野に強みを発揮します。

1. 与信管理の自動化
2. コンプライアンス情報の自動収集・分析

まず与信管理では、財務データや信用調査会社のスコアなどをAPIで取得し、継続的なリスク評価や異変アラート発報を可能にします。

一方コンプライアンス面では、反社会的勢力リストや国際的制裁リスト、重大な法令違反情報（行政処分・摘発事例など）をチェックします。

これらのデータが自動で融合され、バイヤーや調達部門は「属人性を排除した客観的な判断材料」をリアルタイムで持てる時代になったのです。

現場目線で考える自動スクリーニング活用のポイント

バイヤーや調達担当が自動スクリーニングを実務で活かすには、以下のような視点が重要です。

1. リスク検知の「敷居設定」設計

単にデータを機械的に弾くのではなく、「どのレベルなら要アラートか」を調整します。

たとえば、1年以内に経常赤字転落したサプライヤーは必ず再調査対象とする、あるいは特定のキーワード（脱税・違反・行政処分等）をトリガーに一次停止フローに入れる、など。

現場の肌感に基づき「現実的な運用基準」を策定しましょう。

2. 人とシステムの最適な役割分担

目視や訪問でしか掴めない「現場の空気感」や、「数字には現れない兆候」は、やはりベテランバイヤーの経験がモノを言います。

人間が最適なのは「最終判断」と「対話による真偽確認」。

一方で、定期的なモニタリングや大量チェックはシステムに委ねて、リソースをコア業務に振り分けましょう。

3. 社内ガバナンス手順との連動

自動スクリーニングによる「リスク検出」「アラート発報」があったとき、社内のどの部門がどうアクションするのか。

つまり、営業や契約部門との調整、取締役会へのエスカレーションなど、平時から明確なルールを設けておくことが重要です。

曖昧な運用は、危機時の対応遅れを招きます。

取引停止リスク抑制の最新トレンドと事例

大手製造業では今、以下のような実践事例が拡大しています。

・クラウド型与信管理サービス（例：J-SCORE、SMBC与信自動化ツール等）の導入
・自社基準に応じた「独自スコアリングモデル」の開発（AI活用）
・外部データベース連携でのリアルタイムスクリーニング（LSEG、LexisNexis等）
・人為的判断が必要な場合にのみ「タスク発行」、システムと人間のハイブリッド運用
・取引先の海外子会社や関連企業まで含めたグループ全体のリスク検知

日本の大手自動車メーカーでは、Tier1・Tier2サプライヤーを含むグループ約3000社を対象に、四半期ごと与信、自動コンプライアンス審査を実施。

AI解析と人によるダブルチェック体制で、「リスクの芽を早期に摘み、現場へのインパクト最小化」に成功しています。

サプライヤーの立場から見る「透明性重視」の重要性

バイヤーのみならず、サプライヤーの皆様にとっても「自社の情報が常にクリアに管理されていること」は案件獲得や安定的な取引の武器となります。

以下の点を意識しましょう。

・自社の財務・ガバナンス情報を定期的にアップデート
・「誠実なコンプライアンス遵守」体制のPR
・反社会的勢力排除や法令対応の誓約書提出の迅速化
・問題発生時は迅速・誠実な情報開示

これにより、バイヤー判断時の「リスク判定誤り」や機械的な取引停止を未然に防げます。

現場でよくある「盲点」とその対策

ベテラン現場担当者として、失敗パターンと対応策もお伝えします。

・大手取引先でも突然のコンプライアンス違反のリスク
　→与信・法令違反だけでなく「グループ企業」や「関連会社」まで継続モニタリング

・海外サプライヤーの情報入手困難
　→多言語データベースや現地パートナー企業との連携活用

・限定的なデータソース活用による「リスクの取りこぼし」
　→複数信頼筋（民間信用調査＋官報＋行政データ等）のクロスチェック

・「システム任せ」にせず、現場からの生情報を吸い上げる風土作り
　→現場担当者が気付いた違和感を即座にフィードバックできる仕組み作り

製造業は「Old＆New」の共存型変革期

製造業は「アナログなヒューマンスキル」と「デジタルなデータ活用」が高次元で融合し始めています。

単なる自動化や効率化ではなく、「現場目線のリスク感覚」と「システムによる網羅的監視」のバランスが今後の成否を握ります。

そして、リスクを抑制するだけでなく、与信やコンプライアンス管理をベースとした「取引の見える化」が、調達現場の信頼度・ブランド価値の向上にも直結します。

まとめ：「信頼」と「スピード」が価値を生む時代へ

与信とコンプライアンスの自動スクリーニングは、単なるリスクマネジメントを超えた、「他社との差別化」「市場での選ばれる力」の源泉となりつつあります。

製造業の原点＝「信頼」を守り抜くため、そして不確実性の時代を生き抜くために、新しいツール・新しい手法を積極的に取り入れていきましょう。

サプライヤーとバイヤー双方が「透明性・公正性」を武器に、より強靭かつ健全な取引環境を構築する。

そんな未来こそ、我々製造業の現場が目指すべき新しい地平線です。

この記事が、皆様の実務に少しでもヒントと勇気をお届けできれば幸いです。