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OCR+RPA連携でFAX注文書処理を無人化し入力ミスをゼロにした実践例

目次
はじめに:昭和の「当たり前」が令和のコストになる
製造業の現場には、今もなお昭和から抜け出せないアナログな業務が数多く残っています。
特に発注業務では、いまだにFAX注文書が主流となっており、注文内容の手入力が日常業務の中心です。
このような背景には、大手企業や老舗メーカーの「取引先との関係維持」「業界標準ツールの踏襲」などが根深く影響しています。
しかし、時代は大きく変わりました。
デジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が叫ばれる中、FAXによる注文書処理の非効率性や入力ミス、ヒューマンエラーのリスクが、現場の負担やコスト増加の要因となっているのです。
そこで注目したいのが、OCR(光学的文字認識)とRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の連携によるFAX注文書処理の完全自動化です。
本記事では、私が実際に経験した現場での成功事例をもとに、その導入プロセス・得られた成果・運用のコツなどを、製造業ならではの視点で詳しくご紹介します。
また、バイヤーやサプライヤーの方にも役立つ情報として、相手方の真意やビジネス動向にも踏み込みます。
製造現場におけるFAX注文書処理の現状と課題
FAX注文書がいまだに残る背景
多くの製造業では、EDI(電子商取引)やWeb発注システムが普及しつつあります。
しかし、業界全体が完全にデジタル化へ移行できているわけではありません。
理由はさまざまですが、
– 取引先に高齢ユーザーやアナログ文化の強い企業が多い
– 取引初期のルール・フォーマットをそのまま踏襲しがち
– 「FAXを送る文化」自体が業界間の信頼関係維持の一つとなっている
このような背景から「改善したいが手が付けられない」という現状が続いています。
人的コストとヒューマンエラーの実状
FAXで送られてくる注文書は、多くの場合、手書きあるいはExcelやWordで作成されます。
それを受け取る側の担当者は、
– FAXの内容をプリントアウト or データとして抽出
– 必要情報(品番、数量、納期、単価など)をシステムへ手入力
– 入力ミスや読めない箇所を電話・メールで確認
という流れで処理しています。
この手作業が圧倒的な人的コストと、どうしてもゼロにできない入力ミスを生みます。
とりわけ、月末・期末の注文や繁忙期には入力作業が猛烈に増え、ミスが発生しやすくなります。
OCR+RPA連携とは?基礎知識と導入の狙い
OCR:紙の文字情報をデータ化する技術
OCR(Optical Character Recognition)は、紙やPDF上にある注文書の文字情報を画像解析し、テキストデータとして抽出する技術です。
最近のOCRはAIの進化により精度が向上し、手書き・活字問わず多様なフォーマットに対応できるようになっています。
RPA:定型業務を自動で処理する仮想ロボット
RPA(Robotic Process Automation)は、パソコン操作の記録・再現を行うソフトウェアロボットです。
注文内容の転記や、システムへの入力作業などルーチンの業務処理を、プログラムされたシナリオ通りに24時間ミスなく実施できます。
OCR+RPA連携の相乗効果
この二つを連携させることで、
1. 受信したFAXやPDFをOCRで自動解析しデータ化
2. RPAがそのデータを販売管理システムへ自動登録
という「完全無人・ノーミス」の注文書処理が実現します。
実践例:OCR+RPA導入プロジェクトの全貌
1. 現状分析:ボトルネックの可視化
当社では、月間約2,000件のFAX注文書が届き、2人の専任担当者がフルタイムで入力・確認作業に追われていました。
現場からは「ミスが怖くて確認に時間がかかる」「入力負担で他業務が手につかない」という声が止みませんでした。
そこで、まずは注文書処理の現状工程をすべて洗い出し、どこに時間とリスクが集中しているかを「見える化」しました。
2. OCRの選定と注文書フォーマットの整理
OCRは、日本語対応の高精度AI型ソフトを選定。
しかし、注文書には手書き、罫線の有無、全角半角などさまざまなバリエーションが混在しており、OCRの精度を担保するために、主要取引先の注文書フォーマットを収集・分析し、可能な範囲で標準化しました。
また、注文書フォーマット整理の段階で、主要项目(品名、数量、納期)がどこに記載されているかを事前にパターン化し、OCRの認識エンジン最適化にも取り組みました。
3. RPAシナリオ設計:例外対応と安全ガードの工夫
RPA部分は、市販ツールをカスタマイズ。
OCRで読み取ったデータを、販売管理システムへ入力するシナリオを設計しました。
ここで鍵になるのは「例外対応」です。
すべての注文書が完璧に認識できるわけではありません。
予想外の書式や、読解不能な手書き、必須項目の抜けなど、“ひっかかりポイント”を事前に洗い出しました。
具体的には、
– 品名や数量欄に数値以外が入っていたらアラート
– 納期が異常値(過去日・遠い将来日)なら、人手で止める
– 認識不能項目はエラーリスト化し、手直し後に再投入
という複線化したプロセスを設計しました。
4. スモールスタートとPDCAサイクル
いきなり全件自動化はリスクが高いため、まずは最大手取引先・注文書形式が標準化しやすい一部取引先に限定してスモールスタートしました。
実運用しながらOCR認識率やRPAの動作ロジックを逐次修正。
毎週、現場担当者・システム管理者・業務部門長による「運用会議」を持ち回しで実施し、現場の声を即時にシステム改善へフィードバックしました。
5. 全社展開と教育・定着化のポイント
半年後には、全取引先の約80%で自動受注処理が実現。
残る20%は、独自フォーマットを利用する特殊案件や、どうしても手入力が必要なイレギュラー注文でした。
そこで「OCR+RPA+人間の三位一体運用」と位置付け、自動化と並行して人間が介入すべきポイントを明確化することで、現場の安心感と正確性を両立させました。
また、現場担当者への「デジタル業務研修」とAI活用の必要性についての勉強会も実施し、単なるシステム導入で終わらせず、現場の意識改革と属人化防止にも注力しました。
導入効果:入力ミスゼロ・大幅な工数削減・新たな価値創出
入力ミスの撲滅
OCRとRPA連携による注文書処理自動化で、手入力時代に発生していた入力ミスを99.9%削減できました。
ごく一部のシステム接続・変換ミスも、アラート通知やエラーレポートで即時気づき、“重大な納期トラブル”や“誤出荷”はゼロになりました。
工数削減とコスト最適化
以前は2名体制で1日平均8時間かかっていた注文入力業務が、OCR+RPA導入後は“0.5名×2時間”まで削減。
データ検証や例外処理に注力できることで、現場のストレスが大幅に軽減しました。
また、コスト削減だけでなく、浮いた人員を営業、調達交渉、品質管理補助など“価値を生み出す業務”へシフトできた点も大きな効果です。
攻めのバイヤー業務・サプライヤー連携強化
自動化システムを導入したことで、現場から「発注内容の迅速なフィードバック」「納期確定・変更への柔軟対応」が徹底でき、バイヤー(購買担当)の信頼向上に直結しました。
また、サプライヤーの立場に立てば「発注先がどのようなプロセスで注文を捌いているか」が可視化されたことで、不明瞭な確認時間やミスによる手戻りがなくなり、お互いに余計なストレスが減りました。
成功のポイントと、昭和アナログから抜け出すヒント
業界文化への根気強い合意形成
実現のカギは、単なるシステム導入ではありません。
業界文化や、取引先ごとの慣習・期待値をふまえて「人間も含めた全体最適プロセス」を追求した点にあります。
デジタル化推進には現場の“反発”もつきものですが、「なぜ今これが必要なのか」を粘り強く対話し、業務のボトルネックがみんなの成長を阻害している、という共通理解を得ることが最も重要です。
ラテラルシンキングで新たな地平線をひらく
OCRやRPAも“ツール”に過ぎません。
本当に目指すべきは「現場がやりたいこと、あるべき姿」を追求し、既存の枠組みにとらわれずに発想を広げることです。
「発注・受注とは何か」「本当にお客様や取引先のためになっているのか」「人間がやるべき仕事と、機械がやるべき仕事の境界はどこか」。
常に問い直しを続け、業界や会社の新たな価値創造へとつなげていく力が求められます。
まとめ:製造業のDXは、「現場目線の改革」から始まる
FAX注文書処理をOCR+RPAで全自動化する取り組みは、単なる業務効率化に留まりません。
デジタル化とアナログ文化の良さを両立させつつ、現場のストレスフリー、経営のスピード、顧客満足度向上へ直結する“攻めのDX”の好例となります。
これからの製造業は、組織も個人も“昭和の慣習”の枠を一歩超え、ラテラルシンキングで「なぜこの業務をやるのか」「どうすればもっと価値を生み出せるのか」を問い直し、新たな世界を開拓していく必要があります。
経験に裏打ちされた現場目線の改革こそ、製造業に勤める方・バイヤーを目指す方・サプライヤーの皆さんにとっての、これからの“生き残り戦略”なのです。
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