投稿日:2025年8月9日

グローバル拠点間在庫融通を自動計算し緊急発注を30%抑制した最適化事例

はじめに:グローバル時代の在庫問題と製造業の挑戦

近年、製造業界は激しい変化とともに、グローバルサプライチェーンの複雑化に直面しています。

「工場の在庫が余っているのに、別の拠点では部品不足でラインが止まりかけている」「必要なものは多めに持つしかない」「本社と現場の温度感の違いが大きい」――これらは、決して他人事ではない、私自身も幾度となく耳にしてきた現場のリアルな声です。

そして、昭和の時代から脈々と受け継がれる「手作業・根性・勘頼み」の調整業務は、今なお多くの現場で根強く残っています。

その一方で、デジタル化、自動化、さらにはAIによる最適化など、先進的な現場では新たなソリューションが着実に成果を上げています。

今回ご紹介するのは、私が実際にプロジェクトメンバーとして関わった、「グローバル拠点間在庫融通を自動計算し、緊急発注を30%抑制した最適化の事例」です。

この記事を通じて、現場目線で課題解決に至った軌跡と、業界としてあるべき未来像を深掘りしていきます。

グローバル供給網下での在庫最適化の背景

調達・生産現場で起きていること

製造業の現場では、1つの工場だけでは完結せず、世界各地の拠点が連携して生産を進めるのが当たり前になっています。

サプライヤーも外部委託だけでなく、系列、連結子会社など様々です。

この状況下で「現場の要求」と「管理部門の方針」がよくぶつかります。
例えば、本社では安全在庫のミニマム化、キャッシュフロー重視を掲げますが、現場から見れば「もしもの時」のために余剰在庫を持っておきたくなるものです。

結果として、拠点ごとにバッファー在庫を積み上げ、同じ部品が大量に余る工場と、枯渇してラインが止まりかねない工場が生まれます。

挙句、足りなくなった現場では「緊急発注」や、拠点間の「人力調整」が繰り返される状況が日常化していました。

アナログ作業が生む非効率とリスク

従来の調整業務は多くの場合、Excelやメール、電話に頼っています。
数値の転記、手入力、担当者の勘と経験、根回しと『雰囲気』で乗り切る。
こうしたアナログ運用には、膨大な作業コストとヒューマンエラー、対応漏れがつきものです。

緊急発注はコストだけでなく、課題の根治を先送りにし、慢性的な「場当たり的対応」を加速させます。
この負の連鎖が、「現場」の疲弊と全社の利益損失を招いていたのです。

在庫融通自動計算を導入するに至った経緯

事前調査と現場ヒアリング

最適化プロジェクトは、単なるIT導入では解決しません。

まず必要なのは、現場の実態把握です。
各拠点の在庫状況・運用ルール・調達先の制約・リードタイム・生産計画と変動要因…。
「何が問題で、どんなニーズがあるのか」を粘り強くヒアリングしました。

各地の現場に赴き、リーダーや担当者の話を聞くと、「誰もが困っているのに、どうして変わらないのか」という想いが伝わってきます。

現場起点で設計した要件定義

調査結果をもとに、自動融通アルゴリズムの基本要件を整理しました。

– 拠点ごとの在庫数、最低必要量、納期制約をリアルタイムで見える化する
– 余剰在庫の移動を最小のコスト・リードタイムで自動提案する
– 緊急発注や在庫切れリスクを減らすシミュレーションを行う
– 拠点間移動や調整依頼のフローも自動化する

IT部門と経営、現場が何度もすり合わせし、現実的な運用につながる仕様を固めていきました。

昭和的「抵抗勢力」との向き合い方

デジタル化が進む一方で、「うちは今までこうやってきた」「自分の裁量が減るのが不安」といった声も多く挙がりました。

こうした「昭和的」なマインドにどう向き合うか――
私自身も、現場上がりゆえに彼らの気持ちが痛いほど分かります。
そこで、IT導入を「業務削減」や「管理の強化」に感じさせるのではなく、「もっと大事な仕事に時間を使えるようにするため」「緊急対応で家に帰れない…を減らすため」と、現場の価値を高める提案で一つ一つ壁を溶かしていきました。

在庫融通自動計算の仕組み

自動最適化のロジック

今回構築したシステムは、以下の技術を組み合わせて稼働しています。

– 各拠点の在庫情報をリアルタイムで収集
– 需要予測(AIによる生産計画変動の学習)
– 拠点間の輸送コスト・納期の自動計算
– 予備在庫や安全在庫の自動調整
– 移動案のシミュレーションおよび自動確定機能
– 緊急発注リスクの見える化

基幹システム(ERP)、生産管理、物流管理、調達管理とAPI連携させることで、データの一元化&高速な最適計算を実現しています。

導入・運用フローの定着

新システムの最大のポイントは、現場担当者が「今までとほぼ同じ操作感」で使えることです。

日々の入力は最小限に留め、システム側が自動で融通案・発注案を出します。
現場はその承認のみを行えば、拠点間の在庫移動が自動的に手配される仕組みです。

付き合いの長いサプライヤー各社にもメリットを説明し、協力体制を整えました。
「社内だけでなく社外パートナーとの連携」も、最適化プロジェクト成功のカギだと断言できます。

導入効果:緊急発注を30%抑制した成果とは

緊急発注抑制の具体的インパクト

導入前までは、年間数千件規模の緊急発注が発生していました。
部品不足でラインが止まりかけた現場対応のため、多大な運送コスト、人件費、在庫不足による生産ロスが発生していたのです。

今回の自動化導入後、初年度から緊急発注を30%以上抑制できました。

– 拠点間で余剰在庫を即時融通でき、緊急発注自体が発生しない
– 管理工数が大幅に削減され、担当者の稼働時間が約40%短縮
– 現場と経営トップ、サプライヤー間の情報共有がスムーズ化

現場の「精神的負荷」も極めて大幅に減少したのは、私個人として特に嬉しい点でした。
「もう深夜に電話がかかってこない」「気兼ねなく有給が取れるようになった」と、現場からのポジティブな声が多数寄せられたのです。

間接的効果:現場力の向上と全体最適

一見、単なるコスト削減や効率化のように思われがちですが、実はこうした自動化・最適化プロジェクトは「現場力」の底上げに直結します。

– 緊急対応から脱却し、改善活動に注力できる
– 全社視点での生産計画・在庫配置戦略が立てやすくなる
– 若手人材でも「データにもとづく根拠ある意思決定」が可能に

全体最適・現場力強化につながるこの効果は、現代のグローバルものづくりにおいて極めて重要と考えます。

これからの製造業バイヤー・現場担当者への提言

サプライヤー側から見た「購買の本音」

このプロジェクトで痛感したのは、「発注側とサプライヤー側の情報格差」です。

バイヤーは全社最適を目指し、在庫圧縮、納期遵守、安全在庫の見直しを常に意識しています。
しかし、サプライヤーからすれば「なぜこのタイミングで急に?」と戸惑うことも少なくありません。

だからこそ、
– 需要変動の背景や計画変更の意図を丁寧に伝える
– 供給制約・納期調整の根拠を迅速に共有する
– データに基づく協働の枠組みをつくる

こうした信頼関係の積み重ねが、持続的なパートナーシップの第一歩となります。

新時代の“現場発”バイヤー像

AIやIoT、データ連携が当たり前になる今、「現場のリアルとテクノロジーをつなぐ人材」がますます求められます。

– 根拠にもとづく判断力(データ分析と現場勘の両輪)
– なぜ今この指示が必要か・なぜこの制約が生まれるのかを説明できるコミュニケーション力
– 「古き良き現場流儀」も理解し、現場と管理層、サプライヤーを橋渡しするファシリテート力

この3つを持つバイヤーこそ、グローバル製造業の勝ち残りに不可欠だと確信します。

アナログからデジタルへのシフトを進めるコツ

最後に、昭和的価値観が根強い現場こそ、「仕組み」ではなく「人と人、誠実な対話」から始めるべきです。

– ITの利点を現場・サプライヤー目線で伝える(面倒・怖いシステムではない、と体験してもらう)
– 小さな「成功」と「楽になった」という実感を現場に還元する
– 批判や失敗をチャンスと捉え、少しずつ合意形成を進める

こうした泥くさいコミュニケーションが、デジタル変革の現実的スタートラインになります。

まとめ:未来のために、「現場+全社視点」の最適化を

在庫最適化の本質は、単なるコスト圧縮でも、IT化でもありません。

「現場の負担を減らし、全社最適のバランスを保ちつつ、安定したものづくりを実現する」――それが、私たち製造業人の真のミッションだと考えています。

激しい環境変化の中でも、現場目線の知恵とテクノロジーの融合こそが業界発展のカギです。

この記事が、新たな一歩を踏み出す志あるバイヤーや現場担当者、サプライヤーの皆様の一助となれば幸いです。

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