投稿日:2025年6月23日

AUTOSARによる車載ソフトウェア開発とその事例および導入のポイント

AUTOSARとは?車載ソフトウェアの標準化プラットフォーム

自動車業界は、かつてないスピードでデジタル化と複雑化が進んでいます。

その中心にあるのが「AUTOSAR(オートザー)」です。

AUTOSARは、「AUTomotive Open System ARchitecture」の略で、自動車の電子制御ユニット(ECU)に搭載されるソフトウェアの共通基盤を自動車メーカーとサプライヤーが協力して開発・維持している国際的な標準規格です。

従来のアナログ的な車づくりから次世代のデジタル自動車生産への移行を支える、まさにゲームチェンジャーといえます。

なぜAUTOSARが必要なのか?

自動車には多種多様な電子システムが搭載されています。

エンジン制御、エアバッグ、ブレーキ制御、運転支援システムなど、数多くのECUが車両内で連携しています。

これらは以前、個別に各メーカー・サプライヤーごと独自開発されてきました。

その結果——
– ECUごとにプログラム構造や通信仕様がバラバラ
– システムの安全性や品質担保が難しい
– 新機能の追加やOEM間での流用のたびにコスト増
という課題が顕著になりました。

AUTOSARはこうした「縦割り」「非効率的」構造から脱却し、
– ECUソフトウェアのアーキテクチャ標準化
– 再利用性・相互運用性向上
– 開発期間・コスト削減
– 品質・安全性の向上
を実現できる土台として誕生しました。

AUTOSARの基礎:Classic PlatformとAdaptive Platform

AUTOSARには2つの主要なプラットフォームがあります。

それぞれ、異なる開発要件に対応しています。

Classic Platform(クラシック・プラットフォーム)

組み込み制御ECUや制約の大きいハードウェア向けです。

短い制御周期、リアルタイム性、コンパクトなメモリ仕様など、従来車載ECUの多くはClassic Platformの枠組みを利用して開発されています。

メータクラスタやパワートレイン、ボディ制御など、従来型ECUに適用されています。

Adaptive Platform(アダプティブ・プラットフォーム)

CASE時代の新たなニーズに応えるのがAdaptive Platformです。

– 自動運転システム
– OTA(Over The Air) アップデート
– V2X通信
– AI利用
など、高い計算能力や大規模通信、動的リソース管理が必要な次世代ECU向けに設計されています。

Adaptive Platformは、LinuxベースのOSやPOSIX準拠OS上で動作し、C++などの言語も利用可能。

これにより従来不可能だった進化型・柔軟な制御が実現します。

製造業の現場から見たAUTOSAR導入のインパクト

現場で20年以上実務に携わってきた立場から見ると、AUTOSAR導入は単なるソフトウェア標準化の枠を超え、
– サプライヤー選定・調達構造の変化
– 工場IoT・自動化との連携強化
– マルチベンダー化とアライアンス促進
など、製造業の根本を覆すインパクトを持っています。

調達・購買活動への影響

AUTOSAR準拠の部品・モジュールは、異なるサプライヤー間での互換性が担保されやすくなります。

これは調達先の多様化・コスト競争力向上につながる半面、従来の「ベンダーロックイン」型ビジネスモデルが崩れる危険性もはらんでいます。

また、ソフトとハードの分離設計が進むことで、単体コンポーネントの調達ではなく、「プラットフォーム導入」「モジュール統合受託」など調達スキームそのものの転換を求められます。

品質管理からみたメリット・変化

ソフトウェアの共通基盤化は、バグや再発の温床となる「属人化」を排除しやすくなります。

開発・検証・テストプロセスの標準化により、不具合の初期発見やリスク管理が大幅に向上。

ただし、各社のツールチェーンやプロセスの違いが顕在化するため、プラットフォーム技術者やSQA(Software Quality Assurance)人材の社内育成が必須になってきました。

サプライヤー目線:AUTOSAR導入で変わるバイヤーの考え

電話やFAX、手作業の調整が当たり前だった昭和的な調達現場も、一気にデジタル対応へ。

バイヤーは従来以上に「ベンダーのソフト技術力」「AUTOSAR適合実績」「機能安全(ISO26262)への取り組み」など非価格要素を重視する傾向が強まっています。

それにより、サプライヤー側も
– AUTOSAR開発体制の確立
– プロジェクト管理・ドキュメント整備
– 社内エンジニア・検証要員のアップスキル
が必須です。

アナログ時代の”長年の付き合い”・”現場力の高さ”だけでは通用しなくなりつつある現実に、多くの現場が直面しているのです。

AUTOSAR導入事例:日本の大手自動車メーカー・サプライヤーのケース

実際にAUTOSARがどう現場で使われているか、いくつか代表的な事例を紹介します。

事例1:トヨタ自動車 車載ECUのモジュール化

トヨタは次世代車向けECU開発において、AUTOSAR準拠の共通ソフトウェアプラットフォームを積極導入。

– サプライヤーからの部品調達
– ECUソフトウェアアップデート
– 品質トレーサビリティ

これらを一元管理することで、車両の進化スピード向上とコスト削減を両立。

グローバル調達との連携も強化され、「どの工場でも」「どのサプライヤーでも」、「同じ品質水準」での生産が現実に近づいています。

事例2:デンソーのソフトウェア開発転換

デンソーはAUTOSAR発足初期からコアメンバーとして参加。

従来の「ものづくり中心」の開発から、「ソフトプラットフォーム中心」への組織転換を図りました。

そのインパクトは社内だけでなく
– サプライチェーン全体の品質保証体制の刷新
– ソフト自動テストツール連携
– 世界10拠点以上の同時リリース体制
など、徹底的なグローバル標準化へつながっています。

事例3:部品サプライヤーB社の新規参入戦略

従来は車載ECU下請けのみだったB社は、AUTOSAR対応のソフト&ハード統合開発チームを立ち上げ、バイヤーと共同で「プラットフォーム要件定義」に参画する体制を構築。

これにより
– 新規プロジェクトの受注機会拡大
– 既存顧客以外への提案力向上
– 上流工程からの関与による利益率向上
という新たな成長軸を獲得しました。

導入時に考慮すべき5つのポイント

AUTOSAR導入は単なるエンジニアリング問題ではなく、現場・組織・サプライチェーン全体を巻き込むプロジェクトです。

導入成功のために考慮すべき主要ポイントは以下の5つです。

1. 体制整備と人材育成

AUTOSARは高度な知識を要します。

開発エンジニアのみならず、調達担当、品質保証部門もプラットフォームの思想・特徴を理解することが重要です。

外部研修・資格取得制度や、サプライヤーとの勉強会を実施しましょう。

2. 開発プロセスの標準化・ツール連携

AUTOSAR適合には、要求管理、設計、実装、テスト、検証まで一貫したプロセス連携が不可欠です。

従来のウォーターフォール型から、よりアジャイルで柔軟な開発方式・ツール導入が求められます。

モデル駆動開発(MBD)との併用も進めるべきです。

3. サプライヤー/パートナー選定基準の再構築

「ソフト実装力」「適合作業の実績」「セキュリティ対応」など、従来よりも多角的な観点での評価基準整備が重要です。

共同開発・連携強化のために契約や知財のルールも見直しましょう。

4. 品質保証と機能安全対応

AUTOSARの導入は品質と安全の担保なくして推進できません。

ISO26262(機能安全)の考え方と整合を取りつつ、ソフト・ハード一体型での検証体制の構築がカギとなります。

5. 柔軟な現場展開~昭和的ノウハウとの融合

昭和から続く現場の知恵やノウハウ——「五感による異常感知」「先輩からのOJT」の価値も、いきなり捨てるべきではありません。

IT・自動化技術と現場力を融合させる“ハイブリッド型展開”が自社らしさを守るポイントです。

まとめ:製造業バイヤーとサプライヤーがともに開拓する新たな地平線

AUTOSARは工業製品としての自動車も、デジタルサービスとしての自動車も支える土台です。

昭和流の「現場力」「モノ中心」の考えを大切にしつつ、クラウド・AI・IoTといった最先端技術を呼吸するためには、徹底した標準化・グローバル志向の両輪が不可欠です。

調達・購買担当者も、現場技術者も、サプライヤー経営層も、今この瞬間から「AUTOSARが拓く未来」に向けて自らの意思で歩み始めましょう。

アナログに強い現場こそ、デジタルの根幹を握るチャンスが広がっています。

バイヤーなら
– サプライヤーとの本当のパートナーシップ
– 技術課題の共有と協業
– 独自価値創出

サプライヤーなら
– 上流からの提案型開発力
– 標準化・差別化の両立
– グローバル視点での成長戦略

それぞれが新しい地平線を切り開く主役になれます。

現場目線の実践力とグローバル標準の知見。

二つの力を合わせて、これからの製造業・自動車産業をともに発展させていきましょう。

You cannot copy content of this page