投稿日:2025年6月24日

AUTOSARによる車載ソフトウェア開発とその事例および導入のポイント

AUTOSARとは何か?車載ソフトウェア開発の新たな潮流

自動車業界の電動化・自動運転化が進む中で、車載ソフトウェアの規模や複雑性は年々増大しています。

かつてはパーツごとに独自開発されていたソフトも、近年ではクルマ全体のシステム連携やOTA(Over The Air)対応など、プラットフォーム化・共通化の流れが進行中です。

こうした背景から生まれた国際的な標準規格が「AUTOSAR(Automotive Open System Architecture)」です。

AUTOSARは、世界中の自動車メーカーと主要サプライヤーが参画し、車載ソフトウェアのアーキテクチャを標準化することで開発の効率化・品質向上・コスト削減を目指しています。

これまで「閉鎖的」「アナログ的」に運用されがちだった日本の製造業の現場でも、AUTOSAR導入の動きが加速しています。

本記事では、AUTOSARの概要や導入メリット、リアルな事例、現場目線でのポイントを掘り下げて紹介します。

AUTOSAR導入の背景と、製造業が直面する挑戦

ソフトウェア量増大が生んだ現場の混乱

自動車の高機能化に伴い、1台あたり数千万行ものコードが実装される時代となりました。

各ECUごとにベンダー独自仕様が乱立し、サプライヤー・OEM双方で次のような課題が深刻化しています。

– 再利用困難:ソフトウェア資産の転用・展開が難しい
– 検証・保守性低下:異なるインターフェースや通信規格による事故リスク
– 品質トラブル:部品間連携ミスによるリコールや不具合

現場では、「担当者が変わるたび作り直し」「試験が終わらない」「サプライヤー管理が煩雑」など、昭和型の”紙・口頭”による管理体制の限界が顕在化しています。

この膠着状態を打破する一手として、世界標準のフレームワークであるAUTOSARへの期待が高まっています。

日本製造業に根付く「部分最適」「属人性」からの脱却

欧州系自動車メーカーは早くからAUTOSAR普及を加速し、”どの工場・どのサプライヤーでも同じ基盤で開発できる”体制作りを進めています。

対して日本では、伝統的な「現場力」「失敗しない慎重な進め方」ゆえに脱アナログ化が遅れがちでした。

強い現場力も裏返せば部分最適の温床となり、属人化・サプライチェーンのブラックボックス化に繋がりやすい傾向があります。

この日本的なものづくりの良さは維持しつつ、グローバル競争に勝つためにAUTOSAR導入による”基盤シフト”が必要です。

AUTOSARの基本構造と、現場でのメリット

AUTOSAR Classic PlatformとAdaptive Platform

AUTOSARには主に2つのプラットフォームがあります。

1.Classic Platform(レガシー向け)
リアルタイム性とコスト重視のECU向け。
従来型の制御(パワステ、ブレーキ、エンジン等)で多用。

2.Adaptive Platform(新領域向け)
高度な演算・通信が必要な自動運転・コネクテッドカー向け。
次世代情報系ECU(ADAS/IVI等)で中心的に活用。

どちらも「レイヤ化されたソフト構造」と「標準インタフェース」「各モジュールの再利用可能性」が特徴です。

AUTOSAR導入による現場のメリット

– ソフトウェア再利用性向上
一度開発したモジュールを他車種・他プロジェクトに転用しやすい

– 他社部品との統合性アップ
部品間インターフェースが標準化され、異なる企業でもスムーズにシステム統合

– 開発・保守コスト削減
テストやデバッグを効率化、不具合発生時の原因切り分けが容易に

– サプライヤー選択肢の拡大
プラットフォーム対応サプライヤーなら世界中から調達可能=競争力Up

など、多くの恩恵があります。

国内外のAUTOSAR導入事例と進展状況

欧州自動車OEMの積極導入

フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラーなど、主要欧州OEMはAUTOSARの初期メンバー。

特に電動化・自動運転分野では、「Adaptive Platform」を全面的に導入しています。

独立系大手サプライヤー(ボッシュ、コンチネンタル等)では、早くからAUTOSAR対応モジュールの提供体制を整え、グローバル市場で優位性を築いています。

日本車メーカーにおける動き

トヨタ、ホンダ、日産も近年AUTOSAR導入比率を高めています。

特に外資メーカーとのグローバルアライアンスが進む車種では、AUTOSARベース構成が事実上の前提となりつつあります。

一方で、日本市場特有の「古い車種や商用車」では、今なおアナログ管理が根強く、個別カスタム開発も散見されます。

工場現場を支える中堅サプライヤーの取り組み

新興Tier1/Tier2サプライヤーでは、グローバル案件獲得のためにAUTOSAR対応組織・体制を新設する例が増えています。

また、受託開発会社やアジア拠点と協力し「コストは抑えつつも高品質を担保する」独自バリューチェーンを構築している事例が目立ちます。

大手メーカー・サプライヤー主導の枠組みのなかで、中堅企業が強みを発揮する領域も確実に広がっています。

AUTOSAR導入を成功させる現場視点のポイント

1. 自社の開発プロセス分析と整理

メーカーバイヤー、サプライヤーの双方で現場プロセスの可視化が欠かせません。

自社流の「アナログ手順」や「属人化した資産」にどれだけ依存しているか、現状を棚卸しましょう。

”改革の第一歩は現状把握”です。

2. トップダウン×現場力のハイブリッド推進

標準化導入は現場抵抗が必ず起きます。

トップマネジメントによる大義設定と、「現場の知恵(ボトムアップでの改善)」との両輪が欠かせません。

最初から完璧を目指さず「段階的な導入」が現実的です。

現場リーダーには「標準化推進の旗振り役」と「現場課題の吸い上げ役」の両面が求められます。

3. ベンダー・サプライヤーとのコミュニケーション強化

バイヤー側はサプライヤーの開発体制や技術レベルをよく理解し、相互に目線を合わせることが重要です。

AUTOSAR導入では「ソフトアーキテクチャ」「ツール環境」「教育体制」まで踏み込んだ情報共有が肝です。

場合によっては共同ワークショップや標準仕様読み合わせ会等の地道な交流が、現場レベルの信頼と品質向上につながります。

4. 教育・人材育成の重要性

経験則だけでは対応しきれないほど技術が多様化・難解化しています。

AUTOSAR基礎知識だけでなく、モデルベース開発、組込Linux、セキュリティー規格(ISO26262等)との連携スキルなど、次世代人材の育成が急務です。

社内プログラムや外部セミナーの活用を積極的に推奨したいところです。

現場で起こりやすい課題と、その乗り越え方

属人化から脱却するには?

昭和的な「エース社員依存型開発」から、「誰でも作業できる環境」への転換が必要です。

コードや仕様書の可視化、ナレッジ継承手順の明確化を進め、チーム全体のレベル引き上げに注力しましょう。

サプライヤー管理はどう変わる?

従来は”部品スペック・部品コスト”しか見なかった調達も、今後は”サプライヤーのソフト開発力・ツール適合度”を積極的に評価する時代です。

見積もり依頼時には、AUTOSAR対応可否だけでなく、開発工程や品質管理プロセスまで掘り下げたヒアリングが大切です。

既存システム資産との連携課題

全てを一挙に置き換えることは現実的ではありません。

新旧システムの橋渡し層(アダプタ設計、通信ゲートウェイなど)に技術投資し、遺産を活かしつつ段階的に移行する戦略が有効です。

これからの製造業が目指すべき方向性

システム全体の効率化や品質向上は、現場の多くのプレーヤーにとって大きな成長機会です。

自主開発力を維持しながらも、「標準プラットフォーム上で価値を出せる人・組織」こそ、今後の競争で優位に立てます。

競争が激化するなか、AUTOSARを単なるツールや規格ととらえるのではなく、「組織変革」と「現場力の新たな形」を実現するための”成長試練”と前向きに位置付けるべきです。

まとめ:今こそ日本の現場型ものづくりをアップデートする時

AUTOSARは、グローバル化・電動化時代における車載ソフト開発の共通基盤です。

昭和的な現場力や日本固有の”匠の技”も大切ですが、「デジタル・標準化・人材育成」といった、より高次な現場力へ進化する絶好の機会と捉えてください。

バイヤーもサプライヤーも、現場の価値観・習慣を見直しながら、次世代車づくりの礎を築くために、AUTOSAR導入へ積極的にチャレンジしましょう。

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