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EU向け化学物質規制REACH対応品の輸入で通関拒否を回避する事前確認

目次
はじめに:REACH規制とは何か?
REACH規制とは、欧州連合(EU)が定める化学物質に関する総合的な規制であり、「Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals」の略です。
この規制は、EU域内で流通するあらゆる化学物質を対象に、それらの安全性と環境への影響を厳格に管理することを目的としています。
製造業の現場で実務にあたる方や、これからバイヤーを目指す方にとって、REACH対応品の輸入は年々重要性を増しています。
一方で、昭和時代から続くアナログ中心の商慣行が根強く残る企業や現場も多く、REACH対応の事前確認が不十分なまま輸出・輸入がなされ、通関でトラブルが生じるケースが後を絶ちません。
この記事では、現場目線の実践的な知見と業界の最新動向を交えつつ、REACH規制対応品を輸入する際に通関拒否を回避する事前確認ポイントを詳しく解説します。
REACH規制の要点:製品と物質の違いを理解する
REACH規制の核心は、「物質」と「製品」の区別にあります。
EU市場に投入されるものが「化学物質」単体(原材料や添加剤など)なのか、「調剤物質」(混合物)なのか、「成形品(製品)」なのか、この分類によって適用される義務が異なります。
特に関税当局では、この分類が非常に重要な判断ポイントとなります。
従来、日本の多くの調達や輸出担当は「自社は完成品メーカーだからREACHは関係ない」と誤認しがちでした。
しかし、リモートワークやグローバルサプライチェーンの複雑化とともに「成形品」としてもREACH該当物質(SVHC:高懸念物質)を0.1wt%超含有していれば、例え製品であっても情報伝達や登録義務が発生します。
現状、昭和由来の「帳票主義」で盲点を見落としているケースも散見されますので、バイヤーは自社製品の区分と内容物を再点検することが必要です。
混同しやすい用語の整理
– 物質(Substance):元素やその化合物の単体。例:鉄、プラスチック樹脂の原料など。
– 調剤物質(Mixture):複数の物質が物理的に混合されたもの。例:塗料、接着剤。
– 成形品(Article):特定の形・機能を有し、化学組成よりも構造が重視されるもの。例:ボルト、ギア、電子デバイス。
この区別ができていないと、思わぬ通関トラブルの引き金となるため要注意です。
サプライチェーン全体で「REACH対応」の本質を押さえる
現場目線では、仕入先だけでなく、サブサプライヤー(下請け)の情報開示レベルにもばらつきがあることが課題となります。
バイヤーや購買担当は、「REACH非該当」と書かれた書面ひとつで安心してはいけません。
なぜなら、グローバルでは該非判断ミスや情報保有範囲が厳しく問われ、経済的な損失だけでなく企業ブランドの失墜につながるリスクがあるからです。
昭和的“信頼”よりも、根拠資料で確認
製造業のアナログ慣習では、「長年の付き合い」や「担当者の口約束」で対応してしまう場面が見受けられます。
しかしREACH規制下では、欧州の検査機関や通関当局が根拠資料(SDS:安全データシート、成分表、SVHC含有証明書等)を強く求めます。
バイヤーとしては、サプライヤーに対して下記ポイントを必ず事前確認してください。
- SVHC含有証明書(最新版)提出への対応力
- SDSの欧州様式・多言語対応の有無
- 生産工程での化学物質の追加・除去・変更履歴の開示状況
もし、資料提出ができない場合や、回答が曖昧であれば、別の調達先の検討も視野に入れるべきです。
輸出前のセルフチェックリスト:事前確認の勘所
EU向けの輸出通関でトラブルを防ぐためには、下記のセルフチェックが有効です。
1. 輸出製品の構成物質・明細の把握
製品図面や部品明細(BoM)だけでなく、その原材料や加工過程で使用された化学物質一覧を整理しておきます。
部品サプライヤーから入手するデータが「最新」かつ「正確」であることを確認し、不明点があれば必ず照会・記録しておきましょう。
2. SVHCリストの定期的な確認
REACHのSVHCリストは年2回(1月・7月)を目安に更新されます。
そのため、見積取得・輸出準備のタイミングでSVHC対象物質が追加されていないか、都度確認します。
古い情報のまま輸入すれば、最新規制に抵触し、通関拒否に直結します。
3. 「成形品」か「調剤物質」かの確認
製品が成形品なら、0.1wt%超でSVHC情報開示義務が発生します。
調剤物質なら、1トン/年以上の輸出で登録義務も加わります。このあたりの区分整理をしておきましょう。
4. 包装・梱包材の情報も要チェック
化学品本体だけでなく、包装・梱包資材(パレット、緩衝材、インクなど)もSVHC含有の対象となる場合があります。
物流担当・現場担当との連携もおろそかにしないよう注意してください。
通関現場の最新トラブル事例と傾向
通関時にトラブルとなる主要原因は、以下の通りです。
- 輸出書類にREACH対応の記載がない、または不十分(例:SDS欠落、製品仕様書の明細不足)
- SVHC追加情報の把握漏れ(「前回通ったから今回も大丈夫」と油断して通関拒否)
- 下請けサプライヤーがREACH理解不足のまま出荷、輸入先で引っ掛かる
- EU通関当局から追加資料を英語で求められ、国内側で準備ができず数週間ストップ
こういったトラブルの多くは、「事前チェック」と「根拠資料収集」の徹底で防げます。
特に、現場担当者とバイヤーが一丸となって情報をクロスチェックする仕組みづくりが有効です。
アナログ業界で“デジタル化”が急務な理由
昭和時代には、電話・ファックスが主流で「足で稼ぐ」調査が当たり前でした。
しかし、サプライチェーン全体の「見える化」が求められる現代では、デジタルデータベースを活用して全仕入品目の化学物質情報を管理することが推進されています。
Excelから一歩先へ:情報一元化のススメ
多くの製造現場では、いまだにExcel台帳に化学物質情報を入力しています。
しかし、情報更新の遅れや属人化のリスクが高く、EU側からの問い合わせに即応できません。
そこで、クラウド型のBOM管理や、成分情報DBの導入が推奨されます。
また、サプライヤーとのデジタルポータルサイトを活用すれば、最新SDSやSVHC証明の自動取得・確認も可能です。
デジタル化はコストアップと誤解されがちですが、実際は「通関トラブル回避」「調達効率アップ」「ブランド価値維持」に直結する投資といえます。
バイヤー・サプライヤー双方の信頼醸成に向けて
バイヤーは「余計な書類ばかり増やして…」と敬遠されがちですが、EU市場で商売を続けるうえでは、ごく基本的なリスク管理活動です。
サプライヤーにとっても、REACH情報への対応力が新規受注の決定打になる時代です。
現場レベルでは「面倒だ」「工数がかかる」と感じるかもしれませんが、サプライヤー自身もデジタル化による業務効率アップや、欧州顧客との信頼構築につながるため、積極的に取り組みを加速することをおすすめします。
まとめ:REACH対応は“攻め”の競争力に変わる
REACH規制は、単なる通関の壁にとどまりません。
グローバル調達・製造を手掛ける企業にとっては、製品安全・品質・環境対応の三位一体となった競争力源泉です。
バイヤーやサプライヤーは、今こそ「根拠資料ベースの事前確認」「サプライチェーン全体の見える化」「デジタル化の推進」など、昭和型のアナログ処理から一歩踏み出しましょう。
自社独自のREACHセルフチェックリストを整備し、サプライヤーと真摯なパートナー関係を築くことこそ、将来のビジネス安定と成長のカギとなります。
最先端への対応を“守り”で終わらせず、“攻め”の競争力へと変えていきましょう。
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