投稿日:2025年11月24日

OEM製造でトラブルを回避する“試作段階の合意形成”

はじめに:OEM製造の現実と失敗の本質

製造業におけるOEMは、もはや業界全体の根本的な仕組みの一つになっています。

自社ブランドの開発力と、委託先の製造力を組み合わせることで、より多くの競争力を持ち市場に挑むことができるからです。

しかし、OEM製造の現場では「こんなはずじゃなかった」というトラブルが尽きません。

長年、工場現場と調達購買、生産管理に携わった私の経験から言うと、その多くは“試作段階の合意形成の不備”に根本原因があります。

仕様書の食い違い、期待と認識のズレ、そして意思決定の曖昧さ。

昭和の時代から引きずる「空気を読む」文化や、現場任せの曖昧なコミュニケーションも、トラブルの火種として根強く残っています。

この記事では、OEM製造における“試作段階の合意形成”の重要性と、現場目線で失敗を回避するための実践ノウハウについて、ラテラルシンキングも交えて徹底的に深掘りします。

OEM製造の失敗パターン:なぜトラブルは生まれるのか

仕様のディテールが不十分

OEMの現場でもっとも多いトラブルは、注文主(バイヤー)と委託先(サプライヤー)の間で「仕様書は合っているはず」「こういう意味だと思っていた」という認識のズレです。

たとえば「強度を高く」とだけ指示して図面を渡しても、“どの程度高く”が抜けています。

この場合、受託会社は過去の類似品の経験や独自解釈で作るため、試作が完成しても「思っていたのと違う」となりやすいのです。

テスト条件・評価基準の曖昧さ

強度・耐久性・外観など、どんな基準でテストするか、合格ラインがどこにあるのか。

試作段階で両者が合意していない場合、社内基準や“阿吽の呼吸”で判断を進めることになり、量産フェーズで想定外のNGが発生します。

工場長時代の経験から言うと、「検証方法すら曖昧」な依頼には現場も頭を抱えるケースが多発します。

合意ドキュメントがフォームだけ

昭和から続く“紙文化”の悪弊も根深く残っています。

仕様合意書はExcelのテンプレ一枚、内容はチェックリスト形式。

ところが、なぜその項目なのか、変更時の影響はどうなるかなどのディスカッションが記録されていません。

その結果、誰が何を合意したのか曖昧になり、「当時の担当者じゃないと分からない」隠れマニュアル化してしまいます。

試作段階の合意形成がOEMの命運をわける理由

“最終的な品質”は試作合意で決まる

試作段階は、製品仕様を具体的に確かめる唯一の機会です。

ここで合意内容が緻密であれば、量産移行後のトラブル発生率は激減します。

逆に、「現場でなんとかする」「細かいことは後で」の意識が強いと、試作品NGや再試作が相次ぎ、コスト・納期ともに響きます。

試作合意=“チェックポイントの共有”

量産移行前、多くの会社では「承認会議」という審議フェーズがあります。

しかし、会議は形式的に流れるだけで、現場でどこまで何をチェックして良しとするかが不明確なケースも多いです。

試作段階でしっかり合意・記録しておくことは、後々の責任境界を明確化すると同時に、現場スタッフが自律的にトラブル検知・対応できる体制構築にもつながります。

現場目線で実践する「強い試作合意形成」5つのポイント

1.合意書=“サマリー”+“ディスカッション記録”の二層構造

仕様書や合意ドキュメントは、どうしてもチェックリストや記号的な合意事項に流れやすいものです。

本当にトラブルを減らしたいなら、サマリー部分(正式仕様値、合格基準など)に加えて、“なぜこの基準なのか”“変更時にどう対応するか”“迷ったときの判断軸”といったディスカッション内容も記録しておきましょう。

現場では担当交代も頻繁なため、背景事情を全員が参照できるこの二層構造が有効です。

2.“期待要件の掘り下げ”を徹底する

バイヤーとサプライヤーが仕様協議する際、最も重要なのは「本当に意図していること」「最終的に達成したいこと」「達成できなくても妥協可能なポイント」を深掘りして合意しておくことです。

「なぜこの部品の寸法精度が重要なのか」「納期を削れない理由は?」「外観不良はどのレベルまで許容できるのか」など、現場経験に基づく問いを繰り返すことが、無用な再試作や予期せぬNGを減らします。

3.現場立会いと“多層レビュー”の導入

昭和の時代からの“現場任せ”な文化では、一部のベテランだけが判断し、その根拠がブラックボックス化する傾向があります。

これを回避する有効な施策が「複数人の立会い・多層レビュー」です。

たとえば、試作品確認の場には調達、設計、品質、製造、現場作業者が同席し、それぞれの視点で認識を明確にまとめ記録しましょう。

多様な視点が入ることで、抜け漏れが激減します。

4.テスト方法・合否基準を映像・写真で記録

仕様合意で抜けやすいのが、外観検査や作業手順など「言葉だけでは伝わりにくいポイント」です。

実際の検査シーンや合否ジャッジの瞬間を、動画や写真で記録・共有しておくことで、「聞いていた話と違う」「やり方が変わっていた」などの食い違いが激減します。

現場では「百聞は一見に如かず」です。

5.継続的なフィードバックループの仕組み化

試作合意をしたら終わりではありません。

量産以降の実績・トラブル事例をこまめに記録蓄積し、次の試作プロジェクトへフィードバックしましょう。

“合意形成”が生きた知識として社内に積み上がれば、似た案件での見積精度やトラブル回避力が飛躍的に向上します。

バイヤーとサプライヤーの“信頼関係”とデジタル変革への課題

超アナログな現場でも「信頼がすべて」

あえて率直に言うなら、OEMビジネスの現場では、技術力や価格競争力だけでなく、「どれだけコミュニケーションを密に取れるか」「信頼して問題解決できるか」が、最終的な成否を左右します。

特に昭和的な職人文化や中小企業では、「約束を守った」「大変な状況で互いに助けた」実績が、その後の合意形成の土台となります。

デジタル化とナレッジ共有の障壁

近年はペーパーレス、クラウド型PLM(製品ライフサイクルマネジメント)など、ツールの進化が急加速しています。

しかし、現場サイドでは「紙がないと落ち着かない」「デジタルだと若手だけで話が進み、ベテランが疎外される」などのギャップがいまだにあります。

真の意味でデジタル化を浸透させるには、過去の“日本流合意文化”の良さも理解し、両者の折衷案を現場目線で構築する必要があります。

OEM製造現場の未来:合意形成の高度化が差を生む

製造業のOEMプロジェクトは、以前にも増して多様化・複雑化が進んでいます。

自動車・電機・食品から医療分野まで、グローバル競争が激化するなか、「仕様が違う」「言った・言わない」のトラブルは命取りです。

試作段階での“強い合意形成”と、属人的ではないナレッジの積み上げにこそ、今後の勝敗がかかっています。

バイヤーを目指す方も、サプライヤーとして委託元とのコミュニケーションを強化したい方も、この“試作段階の合意形成ノウハウ”を意識して実務に活用してみてください。

“曖昧さ”の排除が、あなたとあなたの会社のブランド価値を確実に上げてくれるはずです。

まとめ:試作合意形成の高度化がOEMの成功を導く

OEM製造では“試作段階の合意形成”が、現場レベルでの失敗防止や競争力強化に直結することをご紹介しました。

細部まで行き届いた仕様協議・ディスカッション記録・多層レビュー・ビジュアル化・フィードバックの徹底。

これらは高度なテクノロジー導入以上に重要な、「人と人」「現場と現場」の信頼と共通認識を生み出す力を持ちます。

大手メーカーで培ったリアルな現場経験から生まれたノウハウが、製造業に携わる皆様の日々の業務改善やキャリアアップの一助となれば幸いです。

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