投稿日:2025年8月17日

ESG要求とコストの両立:省エネ投資を単価低減へつなぐ

はじめに:製造業で問われる“ESG要求”と“コスト”の両立

ここ数年、製造業におけるESG(環境・社会・ガバナンス)要求の高まりは目覚ましいものがあります。
お客様からのサステナビリティ調達ガイドラインへの対応、工場の温室効果ガス排出量の見える化、さらにはグローバルサプライチェーン全体へのプレッシャーなど、調達・生産現場にもその波は容赦なく押し寄せています。

一方、価格競争は依然として激しく、調達コストの低減や生産効率の最大化も常に問われ続けています。
「ESG投資は必要だけど、コスト増は避けたい」
「省エネ設備を導入しても、単価を下げる理由にはならない」
そんな現場の声が聞こえてきます。

しかし本当に、ESG要求への対応とコストの低減はトレードオフなのでしょうか。
実は、現場目線の工夫や仕組みの再設計次第で、ESG投資を“単価低減の武器”に変えることができます。

本記事では、省エネ投資を単なる環境対応ではなく、調達・生産コスト低減策へ転換するためのヒントを、昭和から続くアナログ業界の泥臭い実態も交えながら、徹底的に掘り下げていきます。

なぜ今ESG要求とコスト低減が同時に問われるのか

ESG要求の高まりとバイヤーの変化

かつて製造業のバイヤーといえば、主に「価格」「納期」「品質」の“三本柱”でサプライヤーを評価していました。
しかし、現在はESGへの対応力が、見積査定や取引継続の大きな変動要素となっています。

例えば、大手完成品メーカーの調達ガイドラインでは「CO2排出量の削減目標」や「非化石エネルギー比率」「外部監査結果」など、定量的なESG指標が提示されるようになりました。
調達評価項目に環境貢献スコアを加点する企業も増え、バイヤーの考え方自体が確実に変化しています。

コスト圧力の厳しさは続く

一方で、世界的な原材料価格の高騰や、円安による輸入コスト増、新規設備投資に対する経営の消極姿勢など、現場のコスト圧力はますます強まっています。
「ESG要求に応える=コスト増加」と捉え、“本気の対応”に二の足を踏むサプライヤーも少なくありません。

しかし、我々はこの思い込みから脱却し、以下のロジックを現場に根付かせる必要があります。

「省エネ投資=単価低減」という新しい発想

省エネ投資を“儲かる投資”にする3つの原則

私が工場長として多くの改善活動を指導した経験から断言できるのは、「省エネ投資」はちゃんと設計すれば“儲ける手段”になる、ということです。

例えば次の3つの原則が重要です。

1. 電力・エネルギーロスの『見える化』から始める
工場内のどこでムダが生じているのかを把握し、現場作業者までが一目で理解できる仕組みに落とし込みます。
具体的にはエネルギーメーターの細分化や、稼働状況と電力消費の連動表示、デジタルサイネージ活用などを挙げられます。

2.「単なる最新設備入替」ではなく「プロセス改善」を併せて行う
省エネ型の機械に入れ替えるだけでなく、生産工程自体を見直し、不要な加熱・冷却・空圧や運搬プロセスをシンプルかつ自動化します。
ここで作業分析やIoTを活用することがカギです。

3. 成果指標を“部門目標”と“単価”で見える化する
月々の電力量・ガス・水道代を部門単位で可視化し、それを調達単価計算の1要素として組み込みます。
成果が「単価に直結した」と経営層・バイヤーに説明できるよう文書化し、営業部隊と共有することが要です。

アナログな現場でも着実に実行できる工夫

「うちの工場は古いから…」
「現場の作業者はデジタルに不慣れで…」
そんな声も多いですよね。

私が現場を回って気づいたのは、「新しいこと」の前に、“ムダをやらない勇気”を全員で持つことが最大のポイントだということです。
例えば、旋盤やプレスなど古い設備も、こまめなアイドリングストップや、逐次検針の手元チェックで月数万円の削減が積み上がります。

残業時の空調・照明のON/OFFルール化や、使っていないコンプレッサの停止周知など、“運用面の徹底”は無料で始められる省エネ投資です。
時には、昭和から続く“慣行”を問い直す現場カイゼン活動が、案外と大きなコストインパクトを生みます。

バイヤー目線で省エネ投資を単価低減へ紐づける方法

調達バイヤーは何を評価するのか

多くのバイヤーは、ESG投資の成果が「本当に間接経費ではなく、実際の製品単価低減につながっているのか」を厳しくチェックします。
彼らは次の点を重視します。

– 生産コストの定量的な根拠(エネルギーコスト減少分の明示)
– 初期投資の回収シミュレーション(何年で原価償却可能か)
– 設備更新による歩留まり・ダウンタイム減効果の有無
– メンテナンスコストや稼働率変動の書面管理

現場から上がってきた“努力”をきちんと数値化して、調達単価に反映した根拠をバイヤーに示すこと。
これが「省エネ枠」として単価交渉に応じてもらう唯一の近道です。

今すぐできる“現場起点”のアピール法

サプライヤーの皆さんには、以下を強く推奨します。

– 省エネ導入前後のエネルギー消費グラフを3か月単位で提出
– 生産1個あたりのエネルギーコスト削減額を、製品別に計算表で提示
– 設備台帳や投資回収計画書を必ず共有し、“有形資産の見える化”に努める

バイヤーの多くは「努力そのもの」よりも「数字で裏付けられた実績」を重視します。
このような提案資料は、「うちはESG対応に前向き」「しっかり原価低減を実現できている」証拠になり、他社よりも選ばれる強いセールスポイントとなります。

生産・品質部門連携で“副次効果”も最大化する

省エネ投資が生むサイドメリット

省エネ投資の真の効果は、目に見える光熱費削減だけに留まりません。
現場目線で続けると、多くの副次的メリットが付随します。

– 高効率設備への更新で、製品のばらつきや不良率が減る
– 生産計画や段取りの見直しで、仕掛在庫・リードタイムも短縮される
– 作業の見える化・自動化により、属人的な運用リスクが激減する
– “省エネ活動”が従業員の一体感や意識変革を生み、カイゼン活動の裾野が広がる

私自身、現場の省エネ活動を契機に、“空気”が変わった現場を何度も見てきました。
投資をきっかけに、品質・納期・チーム力も劇的に向上するケースが珍しくありません。

ESG時代のアナログ業界を強くするカイゼン思考

昭和型現場の変革には“納得感”と“ストーリー”が重要

日本の製造業現場は「なぜ変えるのか?」の納得感を全員で共有しないと、施策が続きません。
そのため、経営層やバイヤーだけでなく、現場作業者まで巻き込み、「なぜこの活動が必要なのか?」という“現場ストーリー”を語り続けることが成果に直結します。

特に、現場のベテラン作業者への丁寧なヒアリング、「省エネ=安全性向上」「ムダ排除=自分たちの仕事が楽になる」といった直接的なメリット訴求が有効です。

今こそ、調達・生産が手を組むべき理由

令和の今、サプライチェーンの再構築は避けて通れません。
「省エネ投資」は単なるコスト対策ではなく、経営資源の再分配を可能にし、新しい商機を生み出す起点にもなります。

調達部門と生産部門が「協働体制」を築き、投資計画・現場改善・品質保証まで綿密に連携することが、“昭和から抜け出せない”アナログ業界のブレイクスルーにつながるのです。

まとめ:ESG要求をチャンスに——現場発・持続可能な成長への道

製造業において、ESG要求とコスト低減は二律背反ではありません。
「省エネ投資」を現場起点のカイゼン活動と組み合わせ、実利を数字で示し、調達・生産・経営の三位一体で推進することが、これからの成長企業の条件です。

古い慣行や価値観にとらわれず、一歩踏み出せる現場体質こそが、ESG時代の競争力の源泉となります。
バイヤーにとっても、サプライヤーにとっても、「投資→単価低減」の好循環を一緒に創り出しましょう。

今後、環境要件の遵守だけでなく、それを“収益拡大”にまで昇華できる工場・現場マネジメントが求められます。
私たち一人ひとりの“目線”と“工夫”が、ものづくりの未来を切り拓きます。

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