投稿日:2025年12月1日

軽量化と強度の両立を求められ矛盾と戦い続ける設計の本音

はじめに:設計者を悩ませる「軽量化」と「強度」のジレンマ

自動車、航空機、産業用機械──。
どの業界の設計現場でも、常に突きつけられるのが「もっと軽く、でも今まで以上に強く」という命題です。
昭和から現代に至るまで、設計者たちは時代ごとに異なる要求に向き合ってきました。
「軽くすれば壊れやすい、強くすれば重くなる」。
この相反する要求に、私自身、長年頭を悩ませてきた経験があります。

本記事では、実践の現場で求められる本当の「軽量化と強度のバランス」の最前線と、その課題解決のために設計や調達の現場がどのような工夫をしてきたのか。
さらに、バイヤーやサプライヤーの立場で知っておくべき発注側の本音や、業界構造の変遷にも触れながら、深く掘り下げていきます。

軽量化と強度両立の要請、その背景とは

なぜ「軽く、強く」が求められるのか

製造業、とりわけ自動車や航空機の分野においては「燃費向上」「CO2排出削減」といった環境意識の高まりが、軽量化を強く求める大きな要因となっています。
軽ければ移動にかかるエネルギーも少なく済み、コスト、環境どちらの観点からも企業に大きなメリットをもたらします。

一方、製品の「安全」や「耐久性」への要求も厳しく、高度化しています。
人命にかかわる部品はもちろん、一般的な機械装置でも、長期使用での故障やトラブル、リコールは絶対に避けたいものです。
「壊れない、変形しない、事故を起こさない」。
この強度や剛性もまた、設計要求の中心にあります。

設計現場における本当の悩み

「同じ材料で薄く、軽くすれば当然もろくなる」。
「大きな負荷に耐えさせれば重厚な設計になる」。
これは単なる素材の問題ではなく、構造設計や生産技術、さらにはコストや作業効率までも密接に関わる“設計全体”の悩みです。

例えば、ビス1本外せば数グラムは軽減できる。
しかし、その分、変形や破断のリスクが高まり、最悪のケースでは製品の安全性そのものが損なわれることがあります。
この“ちょっとだけ”の積み重ねが、時に大事故や多額の損失につながることがあるため、設計者は「本当に、ここを軽くして大丈夫なのか?」という葛藤と日々戦い続けています。

ラテラルシンキングで切る課題の本質

「材料」「形状」「構造」三位一体で考えよ

大抵の現場では「新素材を使おう」という発想が先行しますが、本質は材料・形状・構造の三つ巴で課題解決にあたることにあります。

例えばアルミ材や樹脂材に置き換えただけでは、往々にして期待ほどの強度が出ません。
「リブ構造」や「ハニカムコア」など、内部に空間を設けて重量と剛性の両方を追求する設計は、古くから航空機や家電で使われてきました。
また、微妙な肉厚の変更や「力のかかり方に基づく骨組み配置」など、構造力学を活用した工夫も必須です。

アナログからデジタルへ。シミュレーションの威力

昭和時代には「設計者の勘と経験」で最適解を探していた軽量化ですが、今ではCAE(Computer Aided Engineering)を使った構造解析が常識となっています。
負荷のかかる部分をデジタルで見える化し、ギリギリまで薄くする部位と厚くすべき部位を選択。
「ここはもう0.1mm削れる」「この部分だけは厚肉に戻す」といった“攻めと守り”のバランスが、データドリブンで可能になっています。

しかし、解析技術が進歩したとはいえ、設計現場では「解析通りに作ってみたが、加工性が悪く製品化できない」といったギャップも絶えません。
デジタルだけに頼らず、“現物主義”との合わせ技が、軽量化と強度両立への最短ルートであることは、今でも不変の真実です。

調達・バイヤーの立場でみる設計要求の妙

最適化要求の背景にある「営業目標」

設計現場から調達・バイヤーへ持ち込まれる要求は、しばしば「もっと薄く安くできませんか?」「強度を1.2倍に上げてほしい」といった端的なものにまとまります。
しかし、その裏には営業部門からのコストダウン要求、市場からの納期短縮、そして安全基準やリコール対策など多層的な理由が隠れています。
サプライヤーの立場であれば、この背景事情を理解したうえで応えることで、より良いパートナー関係を築けるのです。

昭和的コミュニケーションの現実と変化

製造業では未だに「現場のカン」「ベテランの阿吽の呼吸」が重視される業界風土が根強く残っています。
調達部門と設計部門のやりとりも、時に口約束や“なあなあ”で済まされる場面がいまだ散見されます。
ですが近年は、グローバル市場への対応やコンプライアンス強化の流れで、設計変更や調達条件のやりとりもエビデンスを伴ったドキュメント化が求められるようになっています。

「言った・言わない」ではなく、「設計意図を明文化し、サプライヤーにも具体的に伝える」。
真に強くて軽い“よいもの”を作るには、この透明性と記録性の担保が必要不可欠と言えます。

サプライヤーと設計者のパートナーシップが勝敗を分ける

「作れるか?」を聞くより「どう作っているか?」を問う時代

かつては「この仕様、作れますか?」と聞くだけだった設計者も、今では「どこで、どうやって、どんな工程・管理体制で作っているか」まで詳細に聞くようになりました。
なぜなら、軽量化と強度要求の極限では、設備能力や工程管理のちょっとした“癖”が部品性能に直結するからです。

サプライヤー側も「ただ納期通りに作る」から「QCD(品質・コスト・納期)のトータル最適」を追求し、積極的に工程改善提案を持ち込むことが重視されます。
このパートナーシップにより、従来は“できない点”だった低コスト高性能部品が実現し、業界全体が進化していくのです。

開発初期からの巻き込みが未来を変える

軽量化と強度両立の目標を達成するには、設計段階から調達・サプライヤーと密に連携する「早期巻き込み」が不可欠です。
設計が固まった後では、工程変更やコスト圧縮の余地が少なくなり、「あとから修正」では期待した性能や価格に届かないことが多いです。

開発初期で、「この加工方法ならどこまで薄肉化できますか?」「どの部材ならコスト・強度バランスが優れていますか?」と、素早く率直に情報をシェアし合うことが、最速最短で“ものづくりの高度化”を実現する近道です。

未来を創る「軽量高強度設計」の最近動向

先端材料とデジタル融合の決定打

近年、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)や高張力鋼板、3Dプリンティング技術など、従来では考えられないアプローチが製造現場に浸透し始めています。
デジタルツイン技術で“仮想工場”を立ち上げ、軽量化と強度を短期間でトライ&エラーできる時代が到来しています。

特に、3Dプリンティングは「一体成形によるリブ追加」「ラティス構造」といった、従来工法では難しい構造の実装を可能とし、まさにラテラルシンキングの結晶とも言えます。

求められるのは「失敗を許容したトライ」の発想

新しい設計や工法は、時に失敗や想定外のトラブルも生み出します。
しかし、現場で蓄積された“失敗知見”や“現場の気付き”こそが、究極の軽量化・高強度設計の突破口となることが多いです。
「設計図通りにいかなかった」ではなく、「なぜそうなった?どう工夫するか?」という成長思考こそが、現場から次世代のものづくりを生み出します。

まとめ:矛盾と葛藤を超えて、「最適解」を探求し続けるものづくり精神

軽量化と強度の両立は、決して単なる技術課題ではありません。
設計指針や材料知識、最新技術だけでなく、開発現場・調達・サプライヤーとの“現場目線の対話”が極めて重要です。

ベテラン設計者の経験と勘、デジタル解析や先端材料、そして現場の職人技やサプライヤーの知恵。
これらをラテラルシンキングで掛け合わせ、小さな“気付き”や失敗を恐れずチャレンジしていく姿勢が、困難を極めるがゆえの「ものづくり大国・日本」の強みだと思います。

バイヤーを目指す方、サプライヤーとして設計側の本音を知りたい方へ。
ぜひ本記事を通じて、設計現場の“真の葛藤”と、現場発で進化するものづくりの醍醐味を体感し、明日の現場に活かしていただければ幸いです。

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