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日本品質を前提としたサステナブル調達と価格競争力の両立

目次
はじめに:日本の製造業に求められる新たな調達戦略
日本の製造業は、長年にわたり「高品質」「信頼性」「きめ細やかな生産管理」を強みとして世界市場をリードしてきました。
いわゆる“日本品質”は、多くの国で認知され、時には高付加価値を生み出す武器となってきました。
しかし、グローバル競争が激化し、モノづくり現場の構造変化が急速に進む現在、その“日本品質”だけでは十分な競争力を維持するのが難しくなってきています。
特に重要なのが「サステナブル調達」と「価格競争力」の両立です。
脱炭素やESG経営が叫ばれる今、サプライチェーン全体で持続可能な運用が求められています。
一方で、継続的なコストダウンや最適なサプライヤーポートフォリオの構築も不可欠。
アナログから抜け出しきれない現場力と、日本独自の品質基準を守りながら、どのようにこれらを両立していけばよいのでしょうか。
この記事では、私自身が現場で感じてきた課題や、具体的な実践例を交えつつ、製造業バイヤーが今後取り組むべきサステナブル調達と価格競争力のポイントを掘り下げていきます。
日本品質とは何か――“当たり前”を疑うことから始める
昭和の現場から引き継いだ「当たり前」
日本の製造業現場には、「これが当たり前」という強い価値観があります。
例えば「不良は0ppm(ゼロパーミル)」「部品精度は設計寸法どおり」「検査は全品実施」などです。
この“過剰品質”ともいえる現場文化は、日本のものづくりのライフラインでありブランドを支えてきました。
ですがグローバル化の中で、「欧米やアジア他国のメーカーでは半分以下の検査工数で通用している」「過剰品質がコスト高に直結している」と気付きつつ、なかなかその“当たり前”を変革できていないのが実情です。
日本品質の本質とは
日本品質の本質は、「期待値を常に超え続ける工夫」と「顧客との長期的な信頼関係」です。
これは単なる技術的な作り込みだけでなく、納期・価格・環境対応・アフターサポートなど幅広い領域に及びます。
サステナブル調達でも重要なのは、「品質・コストのバランス」+「サステナビリティ」+「将来にわたる信頼の蓄積」です。
サステナブル調達と価格競争力――どのように両立するか
サステナブル調達とは
サステナブル調達とは、単に環境にやさしい材料を使うというだけではありません。
温室効果ガス排出量削減、リサイクル素材活用、人権や労働環境への配慮、公正な取引体制、公害対策、安全保障貿易など、さまざまな側面から企業の社会的責任(CSR)を果たす調達活動の総称です。
たとえば、サプライヤー選定において「ISO14001」「SA8000」などの認証を重視したり、調達契約書に環境や倫理条項を盛り込む、といった対応も一般的になっています。
価格競争力の再定義
価格競争力というと単純なコストダウン競争を思いうかべがちですが、本来は“品質・納期・コスト・サステナビリティ”全体でどれだけ高い価値を顧客に提供できるか、という総合力が問われます。
「価格を下げる」だけでなく、「付加価値を高めて適正な価格を受け入れてもらう」交渉力や、「現場でのコスト構造そのものを変革する」戦略的視点も重要です。
成功事例:工場および調達現場での取り組み
たとえば自動車部品メーカーでの事例です。
従来、サプライヤーには「品質第一」を求め、年2回の価格交渉でコストダウンを義務付けていました。
しかし最近は、サステナビリティに貢献する取り組み(省エネ機器導入、リサイクル材の使用拡大、廃棄物削減など)を積極評価する体系に変更。
また、サプライヤーが中長期の設備投資をしやすいよう、複数年分の発注計画や資金援助プログラムを導入しています。
こうした“共創型バイヤー”への転換が、高付加価値化・コスト合理化・長期安定供給の好循環を生むのです。
転換期の今、現場バイヤーに求められるスキルと思考
デジタル活用による“見える化”の重要性
アナログな現場体質が色濃く残る日本のサプライチェーンでは、正確な現状把握やデータ化の遅れがひとつの大きな弱点です。
調達業務の各プロセス――見積もり依頼・契約・受入検査・実績評価など――をデジタルで見える化することは、サステナブル調達と価格競争力の両立に直結します。
クラウド型サプライヤーポータルの導入や、バイヤー自身による現場監査レポートのデジタル蓄積・分析なども今後“当たり前”になるでしょう。
現場起点の「課題発見力」と「交渉力」
従来、日本の現場バイヤーは「価格交渉人」「納期調整役」としての立場が色濃く求められてきました。
しかし、環境・社会・経済全体が大きく変化する時代には、「現場とサプライチェーン全体の課題をひとつひとつ可視化・構造化できる力」と「Win-Win構造を作る交渉力」が一層求められます。
サステナビリティ領域では、材料調達先の労働環境やサステナブル認証の妥当性確認など、従来とは異なる知見や情報ネットワークも不可欠です。
バイヤー思考を持つサプライヤーの時代へ
競争力のあるサプライヤーほど、「バイヤーが何を思い、何を重視するか」を深く洞察し、提案力や自社のバリューチェーン改革に努めています。
単なる価格提示で受注を争うのではなく、「サステナブル調達のためにこんな設備・プロセス改革を行いました」「グリーン調達の対応で御社調達戦略にこれだけ貢献できます」といった“選ばれる理由”を確立することが不可欠です。
逆に「ノウハウ流出が怖い」「昔からの慣習を変えたくない」と現状維持にこだわることは、市場から取り残される最大のリスクもはらんでいます。
ここから始める:調達購買実務のアップデート施策
1. サステナブル調達方針の再策定
まず自社のサステナブル調達方針を明文化・見直ししましょう。
グローバルサプライチェーンのどこで温室効果ガスが排出されているのか、サプライヤーのコンプライアンス体制や人権リスクはどうか、現場ヒアリングやアンケート・監査を通じたサプライチェーン全体の棚卸しが第一歩です。
2. サプライヤースコアカード/表彰制度の導入
「QCD(品質・コスト・納期)+S(サステナビリティ)」でサプライヤーを多角的に評価し、単なる価格比較・発注先選びから脱却しましょう。
優れた提案や環境活動を積極的に評価・表彰することで、サプライヤーの自発的な改善を引き出すことも可能です。
3. DX対応の推進
現場データ収集・AI活用・サプライヤーポータルとの連携など、調達情報のデジタル化はすでに大企業では主流となりつつあります。
実際に現場で運用する際は、「IT導入が本業の効率化やQCD/Sの向上にどう貢献するか」を徹底して現場バイヤー自身の言葉で語れるようになることが重要です。
4. 現場主導のチーム力強化・共創スキーム構築
購買部門だけでなく、開発・生産・品質・物流など他部門とも現場横断で新しい共創体制を作ることが、サステナブル調達と価格競争力の両立には不可欠です。
「部門間の壁」や「外注丸投げ」の発想から脱却し、多様なメンバーでバリューチェーン全体の最適解を追求する力を磨きましょう。
まとめ:ラテラルシンキングで“新しい差別化”を創る
日本の製造業は、昭和の現場力・日本品質という強みを持ちながら、今まさに「サステナブル調達」と「価格競争力」の二兎を追う岐路に立っています。
今までの延長線上ではない、現場・調達・サプライヤーの相互成長による新しい価値づくりが求められているのです。
既存の常識や成功体験にとらわれず、ラテラルシンキング(水平思考的アプローチ)でバリューチェーン全体を見直し、デジタル・サステナビリティ・協働による新しい地平線を切り拓きましょう。
現場を熟知するあなたの一歩が、日本のものづくりの未来を力強く切り拓く原動力となるはずです。
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