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技術者・研究者のための実験計画法・基礎講座

目次
はじめに―なぜ今「実験計画法」を学ぶべきか
製造業の現場において、高品質な製品を安定して生産することは、企業の競争力そのものと言える重要な課題です。
製品トラブルの未然防止や、生産工程改善のためには「根拠あるデータ」をもとに意思決定する姿勢が不可欠です。
昭和以来、多くの現場は勘や経験が重視されてきましたが、時代は大きく変わりつつあります。
品質保証や生産性向上への取り組みがよりシビアに要求される今、技術者・研究者の基礎能力として「実験計画法」の知識は必須です。
本講座では、現場目線で役立つ実験計画法の基本から、実践導入のヒントまで、アナログな現場でも着実に根付くノウハウを解説します。
実験計画法の基本理解と、よくある誤解
実験計画法(DoE)とは何か
実験計画法(Design of Experiments:DoE)は、限られたリソースで最大の情報を引き出すための実験の組み方や考え方の体系です。
要素(因子)の組み合わせを効率よく探り、製品やプロセスの特性や最適条件を科学的に特定するための手法です。
具体的には、
・どの要素がどこまで品質に影響するのか
・プロセスのバラツキ原因をどのように特定するか
・テストコストを抑えつつ、無駄のない開発・解析を行うにはどうするか
こういった悩みを抱える現場で重宝されます。
「多品種少量→効率化」の時代とDoE
従来の大量生産モデルでは、同じ実験を何十回も繰り返せました。
しかし、現在はロットの小口化や多品種短納期へのシフト、材料コストの高騰など、無駄な試験や不良発生を許容できない現場が増えました。
最小限の試験回数で本質を掴む必要性が、かつてないほど高まっています。
勘や経験との「ハイブリッド活用」こそ成功の鍵
多くの現場では、「数式や統計には抵抗がある」「結局現場でやってみなければ分からない」といった声が根強いです。
しかし、実験計画法は、現場の知恵やヒラメキと、論理的な組み立てを両立できるツールです。
むしろ「現場で見えている仮説」があるからこそ、再現性・客観性を持って生産ライン全体に共有できる力を発揮します。
製造業現場で役立つ、実践的な実験計画法の使いどころ
1. プロセス最適化・不良撲滅に役立つ
現場でよく起きるのが、「なぜ今月だけ不良品が増えたのか分からない」「いつか誰かが経験から手当してきた設定を何となく引き継いでいる」という問題です。
因果関係を論理的に調べるためには、DoEが力を発揮します。
例えば射出成型工程で不良率が高い場合、「温度・圧力・速度」など複数パラメータの影響度を体系的に洗い出し、最小限の試験で“肝”の条件を明らかにできます。
2. 原材料・サプライヤーの切り替え時にも有効
コストダウンや調達リスク分散のため、原材料やサプライヤーを切り替えるたびに、品質トラブルや工程調整が発生するケースも多いです。
感覚的な調整に頼らず、材料ロットごと/サプライヤーごとの影響度を客観的に評価し、代替・併用時の仕様管理がしやすくなります。
バイヤーを目指す方やサプライヤーとの交渉担当者にとっても、「どこに注意すべきか」「厳密に検証しなければならないポイント」が明確になり、調達品質の底上げにつながります。
3. 新規開発や仕様変更時、開発・生産部門の共通言語になる
新製品開発や製品バリエーション追加を現場で進めるうち「設計と生産で言うことが違う」「お互い再現できない」といった、部門間コミュニケーションロスが生じがちです。
実験計画法で根拠を明確にし、仮説と実験を“定量的データ”で回すことで、
・開発部門の設計意図
・生産技術部門の現場調整
・品質保証部門の検証要求
これらの「共通言語」として機能します。
現場導入の現実と課題―アナログ業界あるある
「現場は忙しい」「人手不足」「エクセルに拒否感」……
現場では、どうしても「日々のトラブル対処・納期最優先」「中小では解析ソフトも高額で手が出せない」「人材が流出し、ノウハウ継承に不安」などの課題が根強いです。
実験計画法も「結局難しそうだ」「これまでの経験を否定される気がする」といった『心理的障壁』が導入の壁になりやすいのが現実です。
「計画主義」が定着する現場文化をどう育てるか
昭和からの「現場力=現場での対処力」重視の文化が根付く工場ほど、
「やってみてから考えよう」
「トライ&エラー回数で勝負」といった改善活動が好まれます。
しかし、デジタル化・グローバル化が進む現代では、「根拠なき改善」を繰り返すリスクが年々高まります。
現場のベテランの知見に、科学的アプローチを加えて「計画→実行→検証→改善(PDCA)」の型を定着させることが、次世代の現場リーダー育成には不可欠です。
現場リーダーこそ「小さく始めるDoE」が効果的
大規模な設備投資や人材配置転換に頼らず、既存の設備やチームで「まず2つか3つの因子を絞り込んだ簡便な因子実験」から始めることをおすすめします。
現場リーダーが率先して、自ら「仮説-検証型」のリーダーシップを示すことで、メンバーの納得感や理解を引き出しやすくなります。
実践! 製造業現場で導入しやすい基礎的実験計画法
1. 単因子実験(One Factor at a Time:OFAT)
最もシンプルな実験手法です。
ある1つのパラメータのみを変化させて製品品質や工程指標への影響を確認する方法で、現場で多く使われています。
手間や準備が少なく「部分最適」には十分役立ちます。
一方、因子間の相互作用や全体最適が抜け落ちやすい点に注意しましょう。
2. 直交表(タグチメソッドなど)を使った多因子実験
複数の因子が絡む工程や、ちょっと踏み込んだ解析にもってこいなのが「直交表(Orthogonal Array)」です。
例えば「温度・圧力・時間」の3因子それぞれ2水準で全ての組み合わせを実験するなら2×2×2=8回必要です。
しかし、直交表を用いれば最小限の4回で各因子と相互作用の傾向を把握できます。
現場では、「気になる因子をまずは3~5個、2水準に」など“部分的な適用”からスタートし、属人的な勘やばらつき要因を洗い出すのに有効です。
3. 実験計画ソフトは必要か?
最近では、エクセルで手軽に計画・集計できるテンプレートや、オープンソースの無料解析ツールも登場しています。
「高額な専用ソフトは導入できない」「現場PCでの作業は簡便化したい」といった事業所でも、手計算やシートで充分な成果を上げている現場が増えています。
まずは「手軽に始めて結果を現場で活かす」こと。これが成否を分けるポイントです。
DoEを導入する際のコツと、現場定着のヒント
1. 現場目線の「困りごと」を起点に
「会社命令で」といったトップダウン方式よりも、「実際の品質異常や納期遅れへの不安」など“現場の痛み”から始めたほうが、まず役に立つDoEになります。
現場のOJTや会議の中でも「今回の不良原因、棚卸しできる範囲で因子候補を挙げてみよう」といったアプローチが有効です。
2. 可視化・見える化で「小さな成功体験」を積む
実験計画法は「やったらすぐ分かる」ことが魅力です。
例えば、簡単なグラフで比較したり、因子ごとに影響度ランキングを出してみせるだけでも、現場の理解が進みます。
「現場のあの手順が、実は無意味だった」「意外なパラメータが品質に影響していた」などの気づきが、現場員の意識変革につながります。
3. 成功事例を社内で広める
一度上手くいった事例は、「関係者への社内報告」「横展開ワークショップ」「簡易Q&A集の作成」等で広めましょう。
現場実感を伴ったノウハウこそ、中長期的な現場力強化、属人化回避のカギです。
まとめ―「実験計画法」は現場の問題解決と未来志向の両輪
昭和的な現場力や経験主義は、今も多くの製造業に根強く残っています。
しかし、現場で起きる不良品・工程異常・安定生産の課題に、どれだけ科学的に向き合えるか。
“再現性ある品質”や“真の改善力”は、経験知と実験計画法のハイブリッドから育まれます。
現場目線で「困りごと」からPoC的に始め、手軽に実績を積む――。
それが、未来志向の工場運営や、バイヤー・サプライヤー関係の進化にもつながります。
「根拠を持った意思決定」が、あなたの現場やキャリア、会社全体の競争優位につながる。
その最初の一歩として、今こそ“実験計画法”の基礎を、ぜひ現場で試してみてください。
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