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工場内物流の効率化に必要な搬送・保管の基本設計

目次
はじめに:なぜ工場内物流が重要なのか
現代の製造業では、QCD(品質・コスト・納期)を満たすことが競争力の源泉になっています。
その中でも、工場内の物流はQ(品質)とD(納期)を左右し、ひいてはC(コスト)にも直結する極めて重要な要素です。
物流が滞ると、せっかく効率的に計画した生産も立ち行かなくなり、結果として納期遅延や不良品の増加、コスト高といった深刻な事態に発展します。
昭和のアナログな現場では、「物は人が運ぶもの」「保管スペースは余裕をもって」といった慣習が今も根強く残っています。
しかし、グローバル競争が激化し、現場でもDX化や自動化が急速に進むなか、こうした「昭和的発想」から脱却し、工場内物流そのものを“価値創造の源泉”として再設計する必要があります。
この記事では、担当バイヤー目線・サプライヤー目線・現場管理者目線という3つの立場を意識しつつ、実際の工場改革現場で役立つ「搬送」と「保管」の基本設計の勘所について深く掘り下げていきます。
工場内物流の全体構造を設計する意義
工場内物流は、大きく分けて2つの要素――搬送(物の移動)と保管(物の置き場)に集約されます。
この2つをどう設計するかが、現場の生産性・安全性・柔軟性を大きく左右します。
1.搬送の全体設計
搬送は「工程間物流」と「工程内物流」に分かれます。
前者は複数工程間のモノの流れ(例:プレス工程→塗装工程)で、後者は同一工程内の部品供給や完成品の移載などです。
点在する工程ごとに「とりあえず台車で運ぶ」「とりあえず人力で対応」といった属人的運営は、日々の雑務だけで貴重な人手が奪われてしまいます。
ここを「線」や「面」で捉えて、最短ルート、最小人員で・安全に・確実に運ぶ仕組みを設計することが第一歩です。
高齢化と人手不足が叫ばれるいま、AGV(自動搬送車)やコンベア、リフター、無人フォークリフトといった自動化設備の導入検討も避けて通れません。
ただしやみくもな投資ではなく、本当に「最適なモノの流れ」になっているか、その検証を怠らない姿勢が求められます。
2.保管の全体設計
製造現場における保管スペースの捉え方は、コストと品質管理のバロメーターです。
「現場は神棚」「材料や仕掛品を床に直置き」「必要な時に見当たらず探し回る」といった“昭和の現場”が色濃く残っていませんか?
これは現代では大きなムダです。
高効率工場では、WMS(倉庫管理システム)活用による材料・半製品・完成品のデジタル管理が当たり前です。
ただし日本の中堅・中小メーカーでは、現場事情や少量多品種生産の特性上、IT化が浸透しきれていないのも現実です。
私は「システムありき」ではなく、現場の実情(現物・現場・現実)をしっかり捉えて、手書き帳票やホワイトボード、カラテープを巧みに活用した“昭和的工夫”ともバランスをとりながら、段階的な保管の最適化を進めるべきだと考えています。
搬送の効率化設計ポイント
動線の最短化と標準化
搬送効率を高めるには、「どこから・どこへ・何を・どうやって」運ぶかという動線を最小化・標準化することが重要です。
たとえば、工程配置を見直して物理的距離を短縮する、ラインサイドストッカーや工程間バッファを設けて一時的なワーク滞留を予防する、などがあります。
また、「搬送のタイミング」を標準化し、必要なときに必要なモノだけを運ぶ“かんばん方式”や“ジャストインタイム方式”の導入も、現場のムダや遅れを減らす効果が大きいです。
自動化・省人化の導入判断
ここ数年、日本国内の大手メーカーを中心に、AGVやAMRの導入が加速度的に進んでいます。
しかし私が実際に訪れた現場では、「導入効果が不明」「トラブル時に結局人が対応することが多く、手間が増えた」といった声も少なくありません。
本質的に大事なのは、「自動化すべき工程」と「人手が担うべき工程」の線引きです。
おおよそ「繰り返しパターン」「ルートが限定的」「トレーサビリティ(追跡管理)」が必要な領域は自動化やロボット搬送による大きな効果が得られます。
一方で、複雑な判断が必要、状況に応じて柔軟な対応が必須な部分は、現場力と人の判断を活かす余地を残しましょう。
現場で根付くアナログ工夫の活用と見直し
たとえば、台車や手押しカートに「色付きテープ」で搬送ルートや置き場区分を書き分けたり、「ロット番号札」「赤札・青札」などを現場独自で運用している例は今も多いです。
こうした“現場ならでは”のナレッジは無意味ではありません。自動化にあたっては、現行の工夫がどうして有効だったのか根本まで見極め、単純に一掃するのではなくデジタル運用にシームレスに置き換える工夫も重要です。
保管の効率化設計ポイント
“保管=コスト”の視点で考える
保管場所が広ければ広いほど、在庫が多ければ多いほど、管理コスト・保管コストは増大します。
「スペースに余裕があるから」と安易に材料や仕掛品、完成品を詰め込むと、スペース不足に陥るだけでなく、物探し・先入先出管理・誤出荷リスクが高まるのは現場の常識です。
優れた工場は、「不要なもの」「今必要でないもの」を極限まで現場からカットし、回転率で勝負しています。
この“Lean(リーン)”な設計思想を根幹に据えましょう。
保管の「見える化」とトレーサビリティ
最近ではIoT棚卸、RFIDタグ活用、WMS連携などでデータに基づく在庫管理を実現する工場が増えています。
ただし、コストや業務負荷を考慮し絶対にシステム化が最善とは限りません。
現場実態に即した「紙ベース」と「デジタル」のハイブリッド管理、棚表示・色分け・5S管理(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底が、結果として最も効果的な場合も未だに多いのです。
「保管量の明示」「出し入れ履歴の記録」「先入先出ルールの徹底」「在庫過多や停滞在庫の早期発見」など、自社の実情に即した“見える化”を、一歩一歩進める地道さが大切です。
保管エリアの設計~変化に柔軟なゾーニング
品目数、生産変動、出荷形態の変化にすばやく対応できる、フレキシブルなゾーニング設計が求められます。
ラック棚やパレット配置の可変性、棚番・保管位置の柔軟な設定ができる仕組みづくりは、今後不確実性が高まる製造現場では欠かせません。
季節や生産変動に併せて、素早く保管レイアウトを切り替えられる運用体制を、現場と一体で考えていく視点を持ちたいものです。
バイヤー・サプライヤー・現場管理者の立場から考える設計の本質
バイヤー(調達)の立場
調達担当者が工場内物流設計で意識してほしいのは、「入荷から現場まで一気通貫の設計思想」です。
購買契約・納品条件が、現場や物流にどのような負荷を与えるかを把握し、「納品リードタイム」「分納・一括納品の可否」「パレット・梱包仕様」まで細かく現場現実とすり合わせて計画立案することが、コスト削減や品質向上に直結します。
サプライヤー(供給者)の立場
バイヤーが何を考えているかを知りたいサプライヤーにとって、「ただ納品する」から「価値ある納品プロセスを構築する」視点への転換が必要です。
「指定した時間・指定した場所・指定した形で、ミスなく納入できる」仕組みが差別化要素になります。
近年は「ベンダーマネージド在庫(VMI)」や、「共同配送・一元物流」も拡大しています。
受け身ではなく、バイヤーと共に工場全体の物流設計にアプローチする提案力が競争力です。
現場管理者の立場
工場長・現場責任者が担うべきは、現場の“困りごと”と経営の“KPI”を同時に見据え、短期目線と中長期目線のバランスで物流最適化を推進することです。
現場は「明日の出荷が心配」「納入ストップされたら大混乱」など目の前の課題ばかり見えがちですが、ここにこそ本質的な改善の種があります。
「人の手間がどこにかかっているか」「どこが停滞要因か」「本当に今その在庫が必要か」を“現場百回”で見抜き、ルール化や自動化、5S活動の推進を根気強く重ねていくべきです。
まとめ:現場の知見×新技術で切り拓く未来
日本の製造業現場には、昭和時代から脈々と受け継がれてきたアナログ工夫や現場の生活知が根付いています。
一方で、グローバル化・人手不足・サステナビリティ対応といった新たな要請も急速に押し寄せています。
工場内物流の効率化には、「現場の手触り感のある視点」と「新技術やシステム導入によるブレイクスルー」、この両輪こそが重要です。
まさにラテラルシンキング――水平思考で発想を広げつつ、「いま目の前の困りごと」に徹底して寄り添い、“工場は常に進化する現場”だと捉える姿勢が大切です。
物流の基本設計を見つめ直し、操業の安定・人材負担軽減・現場改善・経営指標の達成――すべての好循環を生み出す原動力として、今こそ搬送・保管設計の最適化に取り組みましょう。
私も現場一筋で得たすべての知見を惜しまず、製造業のさらなる発展の一助となれるよう、今後も情報発信を続けていきます。
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