投稿日:2025年11月5日

図面の“表面処理指示”を読み取るための基礎知識

はじめに:図面の“表面処理指示”が重要な理由

製造業の現場や調達・購買、そしてバイヤーやエンジニアの仕事において、部品図面の“表面処理指示”は見落とせません。

なぜなら、表面処理は部品の耐久性や防錆、美観、あるいは機能性向上など、品質・コスト・納期すべてに大きく影響するからです。

昭和時代からの“図面文化”ではあいまいな指示が現場の混乱を招く原因になってきました。

しかし、現場でのモヤモヤや「なぜこの処理なのか?」という疑問は、実際に図面を読み解き、正しくコミュニケーションすることで解消されます。

本記事では、バイヤー目線・現場目線の双方に立ちながら、表面処理指示の読み取り方を基礎から解説します。

よくある表面処理の種類と意味

めっき

部品に金属被膜を付けることで、「耐食性」「電気伝導性」「装飾性」を高める処理がめっきです。

たとえば“亜鉛めっき(Znメッキ)”と図面に記載されていれば、主に防錆のための処理であると読み取れます。

“ニッケルめっき”は見た目の良さと電気特性が重視されます。

めっきには“電気めっき”“無電解めっき”“溶融亜鉛めっき”など種類があります。

指示が不明確だと工程取り違えや適合性トラブルが起こるので、指示内容は敏感に読み取る必要があります。

塗装

板金部品や大型筐体によく使われる塗装処理は、R22(ラッカー)、R23(ウレタン)、E71(焼き付け)など種類が多彩です。

“色番号”や“塗膜厚み”“艶有り/無し”“下地処理”などの指定も頻出なので、図面の注記や呼び出し線には特に注意が必要です。

納入側としては、サプライヤーと仕上がり認識のズレを防ぐ調整力が重要になります。

アルマイト処理

アルミ部品の図面では“アルマイト(陽極酸化処理)仕上げ”の記載が定番です。

アルミ本体の耐食性や外観を高める処理ですが、さらに“白、黒、金”といったカラーアルマイト指定、“膜厚”、場合によっては“導電性あり/なし”の指示もあります。

一見簡単に思えて奥が深く、プロ同士の綿密な打ち合わせ・過去実績も大切です。

その他(黒染め、焼き入れ他)

“黒染め”は鋼材を黒っぽく酸化させる防錆表面処理です。

用途によっては“焼き入れ”や“ショットブラスト”、“リン酸塩被膜”などの特殊処理もあります。

各処理ごとに特徴・目的が異なるため、「材料 × 目的 × 表面処理種別」を整理し、図面指示とリンクさせて理解しましょう。

図面の“表面処理指示”の見方・読み取り方

どこに、どう書かれているかを知る

一般的な部品図面では、“枠外指示”または“主投影図に付属するリーダー線”の注記として記載されます。

たとえば、
・表面処理 Znメッキ3μm
・手順1:脱脂、手順2:クロメート処理
・塗装指定:マンセル5Y8/1 半艶
このような形で具体的な厚みや手順、色番号、下地処理まで盛り込まれている場合も多いです。

この指示に気づかず発注してしまうと後で致命的なトラブルになるため、目を皿のようにして確認する習慣を持ちましょう。

“省略された”指示の危険性

時には「表面処理」だけの曖昧な記載や、図面の片隅に小さく材料名と共に一行だけ“ユニクロメッキ”といった省略形式となっていることも。

現場では「現物合わせ、慣習でやってきた」などの昭和的な運用が根強く、サプライヤーでは経験値だけで進めてしまいがちです。

しかし外注先やグローバルサプライヤーなど多様な調達先が増えた現在、そのままでは品質事故・クレームにつながります。

過去実績や“言わずもがな”を一旦リセットし、原点から読み解く習慣が大切です。

規格・仕上げ記号を読み解く

図面にはJIS(日本工業規格)やISO、社内規格などの仕上げ記号が略称で書かれることが多いです。

例として、
・JIS H 8625(アルマイト処理の標準規格)
・ISO 1461(溶融亜鉛めっきの国際規格)
・“Ra1.6” “tZn8” など粗さや厚みの略称
バイヤーやサプライヤーは、指示内容がどこの規格基準か、そこからどの程度の品質・手間が想定されるかを“感じ取る力”が求められます。

もし不明点があれば、設計部門や過去類似品図面など原典を積極的に参照しましょう。

トラブル・コスト増を避けるための実践チェックポイント

表面処理と材料・用途のミスマッチに注意

たとえば「SUS304(ステンレス)への亜鉛めっき」や「高強度材への焼付け塗装」など、材料特性と処理方法が相反していることがあります。

設計の意図や、実際の使用環境(屋外・屋内、湿度、摩耗度)に合わせた“現場の目利き”が、バイヤーサイドにも強く求められます。

おかしいと感じたら必ず設計者へ確認し、状況によってはサプライヤーの経験知も持ち寄って最適案を再提案する姿勢が重要です。

指示の“幅”を許容しない

「tZn5〜8μm」や「サンドブラストによる目粗し仕上げ」など、指示に幅がある場合は一番厳しい条件でコスト算出し“最終顧客に説明できるロジック”を用意しましょう。

安易な自己判断でのアンダースペック(基準未達)生産は、不良発生率増加や出戻り・クレーム・追加費用のきっかけになりかねません。

調達・購買部門は“現場知らず”と思われがちですが、図面の読み取りから将来的なリスクシナリオを逆算で考え、工程・コスト・納期のバランスを戦略的に調整できると真価を発揮します。

逆提案・積極的コミュニケーションでリスクヘッジ

・「実はこの材質であれば焼き付け塗装→粉体塗装への変更で安定工程&長期コスト低減できます」
・「ロット管理を厳格化することで、表面処理のバラつき低減が可能です」
こうした、“図面通り”の受け身型オペレーションではなく、サプライヤー・設計・現場(生産技術・品質)と連携した解決提案がこれからの現場購買・バイヤーには強く求められています。

また昭和的な“なあなあ”“現場頼り”を脱するためにも、社内ルールや標準書を見直し、図面管理や変更点の記録、処理履歴のトレーサビリティも合わせて磨くことが大切です。

表面処理指示の最新トレンドとAI・自動化時代への適応

グローバル化と規格多様化による新たな課題

調達網の国際化により、JIS・ISOはもちろん米国ASTMなど新しい規格との“多重比較”が現場での必須業務になっています。

またRoHS・REACH対応など「環境対応型表面処理」、“金属イオン分離量規制”といった時代トレンドも読み取りが必要です。

バイヤーだけでなく現場管理者やサプライヤー側も学びを止めず、小まめな情報アップデートが現代工場の生命線となります。

図面の電子化と、自動判別AIの台頭

いよいよ紙図面から3Dデータ&電子図面への移行が本格化し、図面読み取りAIや表面処理工程の自動最適化も進みつつあります。

ですが、現場では「読み取りミス」「データ化時の指示抜け」「従来慣習とのギャップ」も根強く残っているのが実情です。

“AIの提案をうのみにせず、最終的には現場の目利きでリスク判定し、適切な判断ができる”人材がこれからのイノベーターとなります。

まとめ:現場知×図面読解スキルで新たな製造業価値を創出しよう

製造業で働く皆さん、もしくはこれからバイヤーを目指す方や、サプライヤーとして“バイヤー思考”を身につけたい皆さんにとって、図面の“表面処理指示”は逃げられない核心的課題です。

材料・工程・規格の意味を正しく読み取り、現場コミュニケーションを積極的にリードすることで、品質・コスト・納期バランスの最適解を導き出せます。

昭和的な勘と経験値も大切にしつつ、最新トレンド(環境・自動化・デジタル化)も学び続けてください。

現場に根ざし、図面と向き合い、社会インフラを支え続ける製造業の未来は、皆さんの“読解力”と“現場対応力”にかかっています。

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