投稿日:2025年10月21日

一品料理を商品に変えるために必要な“製造ロジック”の基礎知識

一品料理と量産品、どう違うのか?

一品料理と聞くと、その場でしか味わえないこだわりの一品を想像される方が多いでしょう。
製造業の現場にも「一品もの」と呼ばれる特注や多品種少量生産品があります。
しかし、多くのメーカーが目指すのは「繰り返し同じクオリティで提供できる商品」です。
これを実現するために必要となる“製造ロジック”の考え方について、まずは一品料理と量産品の違いから紐解いていきます。

一品料理は、現場の“匠”の技術や経験が大きく左右します。
レシピや調理の工程が厳密に決まっているわけではなく、時には材料の状態、道具、火加減に応じてアレンジしながら作ることも多いです。

一方、量産品は同じ製品を安定して、効率よく、品質を維持しながら作ることが求められます。
このとき重要となるのが、誰が作っても一定の結果を出せるようにするための“製造ロジック”の設計です。

一品ものから商品へ変換するための「標準化」とは

量産に不可欠なのは「標準化」です。
標準化とは、手順や材料、設備の設定などを誰もが同じように理解し実施できる形にまとめることを意味します。

一品ものの場合は、熟練者による暗黙知(ノウハウや感覚)に頼る場面が多いですが、それを形式知(書類や仕様に落とし込まれた知識)に置き換える作業が必要となります。
ここで活躍するのが製造現場の「工程設計担当者」や「生産技術者」です。

具体的には下記のポイントを抑えて標準化を図ります。

作業手順の見える化

最初に必要なのは、現場で行う各作業工程を細かく洗い出し、それを作業手順書などの形で形式知化することです。
写真や動画で残したり、作業で躓きやすいポイント、注意点なども明記します。

設備・治工具の固定化

使う道具や設備も統一します。
人によってモノが変われば品質にバラツキが出るためです。
また、モノづくりの安定化には、治具や型を利用して人の手技を出来るだけ排除する工夫もポイントです。

材料の規格化

材料の品質や規格も「ぶれ」が起きないようにします。
そのためにはサプライヤーとの密な連携や、時には「サプライヤーを育てる」目線での品質保証も大切です。

昭和から現代、根強く続く“アナログ現場”の実情

現在でも多くの製造現場では、戦後から引き継がれた手作業や、技能者の職人芸に頼る状況が根強く残っています。
この「アナログな現場」がもたらす強みと弱みを正しく理解することが、製造ロジック構築の第一歩となります。

アナログな現場の強みは、「柔軟な対応力」や「一点ものの品質の良さ」、変種変量生産への順応性などです。
一方、弱みとしては「作業者個々の技能差に伴う品質ばらつき」や「属人化による生産性の壁」が挙げられます。
特にベテランの高齢化・退職が進む中で、この属人化リスクを早急に解消しなければなりません。

これを乗り越えるためには、“現場の声”を拾いながらも、標準化・デジタル化の推進に腰を据えて取り組む必要があります。

バイヤー・サプライヤーにとっての「町工場の知恵」

大企業が「標準品」にこだわる背景には、サプライチェーン全体での安定生産や品質保証が欠かせないからです。
一方、中小の町工場やサプライヤーには、個人職人が持つ経験や現場力があります。
この二つの力をどう融合させるかが、現代のものづくり現場の大きなテーマです。

バイヤー目線:選ばれる工場になるためには

バイヤーがメーカーやサプライヤーを選定する際、重視するのは「再現性」と「安定供給」、そして「トラブル時のレスポンス力」です。
一品ものの匠の技にも価値はありますが、標準化・見える化への取り組みを進めている会社が選ばれやすい傾向にあります。

さらに最近ではESG(環境・社会・ガバナンス)やBCP(事業継続計画)への配慮も外せません。
「うちの現場はアナログだし、量産ラインを持ってない」と嘆くのではなく、「こうやって標準化、形式知化しています」という成果を見せられるかどうかが、バイヤーから選ばれるポイントです。

サプライヤー視点:現場の改良提案力

一品料理の目利きや小回りの利く対応力も大切ですが、今後は「お客様の要求する標準に合わせた提案」が必須です。
現場で培った改善力(例えば、歩留まり向上、小ロット多品種化の生産ノウハウ、納期短縮の管理手法など)を、積極的にお客様へ提案していく姿勢が大切です。

現場改革のためのラテラルシンキング

今の現場が抱える問題の多くは、従来の延長線上では解決できません。
ここで求められるのが「ラテラルシンキング」、つまり横断的・発想の飛躍です。

例えば、こんな発想の転換が有効です。

工程見直しで付加価値を最大化

従来は“手作業が当たり前”だった工程をデジタル化・自動化に置き換えてみます。
ただ省力化だけでなく、検査の自動化によって品質情報のリアルタイム共有、AIによる異常検知への応用など、多面的に価値を生み出せます。

データ活用による工場力の底上げ

IoTやセンサーを活用し、「人のカンや経験」を数値データに変換します。
職人頼みではなく、誰でも一定レベルに達する現場環境を作り、「属人化」の壁を乗り越えるための第一歩です。

外部と連携した“共創”によるイノベーション

町工場同士や異分野の企業と連携し、新しい生産方式や技術開発に挑戦する例も増えてきました。
一社完結型から、オープンイノベーションへ。
知恵と技術を集めて「一品ものを商品化する力」に繋げていくことが重要です。

今こそ求められる“製造ロジック”の深化

製造業の現場は、昭和の時代と比べて格段に多様化・高度化しています。
「一品もの」を「商品」へと転換する上では、現場で根付くアナログ文化と、グローバル競争で求められる標準化やデジタル化の両立が求められます。

サプライヤーや現場リーダーの方にはぜひ、今までの“経験・勘・度胸”に、標準化と可視化、データ活用といった製造ロジックを融合する視点を持っていただきたいと思います。

そして、今、あなたの現場で起きている一品ものの製品が、
いかに標準品へ、安定した価値提供ができる商品へと生まれ変われるのか。
その「製造ロジック」を現場と一緒に作ることこそが、製造業の未来を支える力となるのです。

まとめ:進化する製造現場の主役は「現場の知恵」と「標準化」

一品料理を商品に変える——。
そこに必要なのは、現場の知恵や経験を仕組みに落とし込む“製造ロジック”です。

昭和から続く現場文化の強みを活かしつつ、デジタル時代の標準化や自動化を積極的に取り込むことで、日本のものづくりはさらに発展していきます。

現場の皆さま一人ひとりの創意工夫と、ラテラルな発想が、明日の「売れる商品」へと繋がっていきます。
製造業の現場が持つ“力”を武器に、共に未来を切り拓いていきましょう。

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