投稿日:2025年6月17日

熱交換器の基礎と最適選定活用のポイント

熱交換器とは?基礎からわかるその仕組み

熱交換器とは、2種類の流体(液体や気体など)の温度エネルギーを直接または間接的に移動させるための装置です。
その役割は産業の基幹を成し、エネルギー効率の最適化や品質維持、省コスト化といった観点からも極めて重要です。

工場の蒸気配管、空調、化学プラント、食品製造、そして自動車のラジエーターまで、あらゆる製造現場に欠かせません。
とくに昭和のものづくりを支えてきた産業用設備でも古くから導入されており、「縁の下の力持ち」と表現しても過言ではない存在です。

現場の実務者やバイヤーにとって、熱交換器は単なる「箱もの」ではなく、生産活動の根幹部分でエネルギー管理と品質のかなめを占めています。

この章では、熱交換器の基礎的な仕組みと代表的な構造を解説します。

熱交換器の基本原理

熱交換器は、2つ以上の異なる温度の流体を接触・隣接させ、一方の「余分な熱」を他方に受け渡すことで、流体温度を昇温・降温します。

この時、流体同士は直接触れ合わないケースが多く、金属などの伝熱面(チューブ、プレート等)を介して熱をやり取りします。
熱エネルギーは「高温側から低温側」へ自然に移動する「熱伝導」の物理法則によって成り立っています。

主な熱交換器の種類

製造業では用途や設置条件によって、さまざまなタイプの熱交換器が使われます。代表的なものを以下に紹介します。

  • シェル&チューブ型熱交換器:金属の筒(シェル)の中に多数のチューブが通り、シェル側・チューブ側の流体を分けて熱交換を行う。大型プラントや化学工場で重用される。
  • プレート型熱交換器:多層の金属プレートを交互に配置し、流体を薄い層で対向流または並流させて高効率な熱交換が可能。コンパクトで清掃性も良い。
  • フィン付き熱交換器:空気との熱交換を強化するため、表面積の大きなフィンを配したタイプ。空調用や冷蔵・冷凍、乾燥工程などで活躍する。
  • 空冷熱交換器:空気を用いてプロセス流体を冷却する。外気を直接使うため冷却水不要で、近年環境規制の観点からニーズが高まっている。

昭和からの脱却!現場目線で考える熱交換器選定の重要性

熱交換器の世界も他の工業製品同様、技術革新や省エネ要求、メンテナンス性の進化が続いています。
一方で、昭和時代からの保守的な慣習や「これが定番」という選定パターンが根強いのが実情です。

「とりあえず従来仕様」「見積が一番安いものを」といった選び方では、現代の厳しい事業環境では通用しません。
現場の管理職や生産技術者が、いかに目的や運用現場に即した最適選定を行えるかが、今後の利益率や生産安定性に大きく影響します。

さらに、バイヤーとしては調達側の論理だけでなく、サプライヤーの技術的な視点や改善事例を理解し、真に合理的な意思決定が求められているのです。

熱交換器選定の失敗例に学ぶ

例えば、既存設備のスペースや配管サイズだけを基準に、「実績があるから」という理由で古い型式を更新するとどうなるでしょうか。

・熱交換効率が低い
・必要以上に大型化されていて無駄なコストやエネルギーを消費してしまう
・最新素材や技術が活用できず、メンテナンスしづらい

こうした「平成・令和の課題」に直面してからでは遅く、昭和的なベテラン技術者でも頭を切り替える必要があります。

熱交換器の用途別・最適選定ポイント

ここでは各工程や現場の目的別に、選定時に必ず押さえておくべきポイントを解説します。
自社の状況や、バイヤーとサプライヤーのやり取りをイメージして読み進めてください。

1. 冷却・加熱工程

熱交換器の主目的の一つは、原料や製品、各設備の「冷房・加温」です。
エネルギーコストが年々高騰する中で、熱効率とランニングコストの最適化は死活問題となっています。

・流体の性状(粘度、腐食性の有無)
・温度レンジ(加熱・冷却する温度幅)
・流量変動(定常流、バッチごと等)
・設置スペースと将来増強の可能性

これらを総合し、必要な伝熱面積や素材、型式(プレート型orシェル&チューブ型など)を検討してください。
近年は「省エネ交換器」や「プレート式の二次冷却」など多層的な組み合わせも普及しています。

2. 洗浄・殺菌工程

食品工場や医薬品工場では、衛生・殺菌目的で高温水やスチームによる処理が不可欠です。
この分野では異物混入や洗浄性が最重要視されます。

・内部構造がシンプルで分解洗浄しやすいか
・CIP(定置洗浄)に対応しているか
・使用素材が衛生規格や社内ルールに合致しているか
・短時間で温度上昇させるための高伝熱効率

近年、従来のシェル&チューブ型でも着脱構造や各種表面処理による進化が見られ、現場の声を反映した機種が増えています。

3. 自動車・空調分野

各種車載用(ラジエーター、インタークーラー)や空調用途では、小型軽量・高効率化が求められます。
耐振動性や省メンテ、省資源設計への要求が年々厳しくなっています。

・流体と空気の比熱差を加味した熱交換面積
・限られたスペースでの配置最適化
・アルミなど軽量で熱伝導性に優れた素材選び
・量産品/オーダーメイド対応のバランス

昭和的な「とにかく厚い銅管・鉄板」ではなく、新世代の現場要求を取り込んだ設計が主流です。

サステナブル時代に求められる熱交換器の進化

カーボンニュートラル実現やエネルギー最適化は、製造業の大テーマです。
熱交換器の分野でも、単なる「省エネ」だけでなく、広い視野での使用熱回収や廃熱再利用といった観点が広がっています。

1. 廃熱回収システムの拡大

製造現場では多くの工程で熱が「捨てられている」現実があります。
最新型熱交換器は、その廃熱を給湯・蒸気・二次加熱にダイレクト活用するためのシステム構成が重要になっています。

バイヤーサイドも、従来品の氷山の一角だけでなく、「設備全体視点」で熱利用の提案・選定を行うことが差別化への近道です。

2. メンテナンス・保守の高度化

製造現場でのダウンタイムは大きな損失につながります。
最新の熱交換器では「自己診断機能」「遠隔モニタリング」「自動洗浄」といった付加価値機能が普及しつつあります。

サプライヤー側も現場相談の充実や、現地対応メニューを充実させることで、旧態依然のアフターサービスから脱却しています。

バイヤーの立場で考える熱交換器調達の勘所

バイヤーが熱交換器の調達を成功させるためには、単なるコスト比較だけでなく、現場の生産工程との一体化・長期的価値・技術者との対話が大切です。

1. 図面だけでなく「運用実績」を徹底的にヒアリング

メーカーの営業担当、設計担当と「導入後のトラブル事例」や「他社現場での長期運用実績」を聞き出してください。
特に稼働年数が10年以上の現場経験は貴重です。

2. メンテナンス頻度・ランニングコストの見積もりを重視

試算見積の際は、スペアパーツ単価・清掃時間・定期点検内容など、トータルのコスト把握がポイントです。

3. サプライヤー側の改善提案力を評価基準に

図面どおりの仕様だけではなく、「現場の改善事例」「管理の工夫」など、サプライヤーの提案力・柔軟性も重視しましょう。
これが、単なる価格比較に留まらない、建設的なパートナーシップにつながります。

サプライヤーとして知っておくべき現場・バイヤー心理

最後に、サプライヤー(メーカー、商社)側の立場で、バイヤーの心理やニーズを的確につかむためのアドバイスです。

1. 批判ではなく「共感」から入る営業姿勢

「その方式は古いですよ」と決めつけるのではなく、「従来型での貴重なノウハウ・現場流儀」への共感を示したうえで、新技術の導入事例やコストダウンの実績を提案します。

2. 現場の「困りごと」や「定期点検時のハードシップ」に寄り添う

点検・交換・洗浄作業がどれほど手間か、その労力や現場責任者の心理も理解したうえで提案すること。
現場の声はバイヤーに強くリーチします。

3. トレンドとイノベーション提案のバランス感覚

保守的な業界動向やコスト志向も配慮しつつ、時代の流れと新技術(省エネ・IoT化など)を折衷提案できれば、差別化が実現します。

まとめ:自社の未来を見据えた熱交換器の選び方・活用術

熱交換器は、単なる「冷ます/温めるための機器」ではなく、製造業の競争力とサステナビリティを左右する戦略機器です。

技術面・運用面・コスト面の3つをバランスよく評価し、現場・バイヤー・サプライヤーが一体で「より良い選定・運用・改善」を目指すことが、昭和から脱却した真のものづくり現場をつくります。

理想の熱交換器選定・活用で、現場力と調達力を最大化し、製造業全体の発展に貢献しましょう。

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