投稿日:2025年7月3日

簡潔で分かりやすい英語技術文書を作成する基本ルールと実践法

はじめに – 製造業における英語技術文書の重要性

グローバル化が進む現代の製造業において、英語の技術文書は避けて通れない存在です。

受発注、設計、品質管理、調達、生産ライン…。
あらゆる業務プロセスで英語の文書作成や読解が求められています。

しかし、多くの現場では「翻訳ソフトに頼ればいい」「テンプレートですぐにできる」と軽視されがちです。

ところが実際は、現場を混乱させる原因となる誤解・曖昧表現・伝達ミスが絶えず発生しています。

この記事では、20年以上の現場経験から得た知見をもとに、「伝わる」「誤解を生まない」英語技術文書の書き方・考え方を、実践的に解説します。

アナログ文化が色濃く残る昭和の工場的運用を、世界標準へとアップデートするためのヒントとして、お役立てください。

なぜ英語技術文書が難しいのか?現場のリアルな課題

テンプレートだけでは伝わらない本当の意図

多くの現場では、既存の英語テンプレートや自動翻訳に頼った技術文書が大量に出回っています。

しかし、例えば「Unnecessary」や「as soon as possible」といった曖昧な表現、主語があいまいな命令文、和文英訳の直訳表現は、下手をすると重大事故に直結します。

機械や部品、材料などのスペック、取扱手順、安全上の注意点など、現場で重要な「具体的かつ一義的な情報」が抜け落ちてしまうのです。

日本語思考のまま直訳した「誤った」英語が招く誤解

例えば「再度ご確認ください please check again」を安易に使うと、作業指示がどこまでさかのぼるのか現場が混乱します。

部品名称一つとっても、和製英語や略語のまま伝えた結果、海外工場やサプライヤーでまったく別物が納品されることもあります。

昭和時代からの「空気」で伝える文化、あうんの呼吸では、英語圏のパートナーやグローバルメンバーには通じません。

英語技術文書の基本中の基本 – 5つの原則

1. シンプル・イズ・ベスト(Simple is Best)

専門用語や複雑な構文を避け、短く、明快な文章を意識します。
ひとつの文にはひとつの意味だけを込めることで、誤読を防ぐことができます。

2. 主語・動詞・目的語(SVO)を徹底する

日本語は主語を省略しがちですが、英語では必ず主語を明確にします。
例:The operator must tighten the bolt.(作業者はボルトを締めなければならない)

3. 正確な固有名詞・品名・数値・単位表記

型番・型式・寸法・トルク値・温度…これらは「数字、単位、記号まで」正確に表記し、略語も必ず最初に定義します。

4. 曖昧表現は絶対に避ける

ASAP(できるだけ早く)、maybe(たぶん)、around(おおよそ)など、範囲が曖昧な言葉は使いません。
「24 hours after assembly」「within 0.5 mm」など、具体的な時間や数値を示すようにします。

5. 過去の事例・重大な失敗から学ぶ

どんな業界にも「ヒヤリハット」の経験が蓄積しています。
“言葉が足りなかったために”起こったトラブル事例を洗い出し、文章で同じ誤りをしないようフィードバックを生かします。

用途別 – 製造業でよく使う英語技術文書の基本構成

作業手順書(Work Instruction)や標準作業書(Standard Operating Procedure)の場合

1.Title(ドキュメントタイトル)
2.Scope(適用範囲・対象物)
3.Tools and Materials(必要な工具・材料)
4.Procedure(手順)
5.Precautions(注意事項)
6.References(関連資料)

各項には、実際の現場業務をイメージして必要かつ十分な情報だけを簡潔に記載します。
曖昧な記述や過剰な装飾は避け、現物・現場・現実(3現主義)を大切にします。

品質規格書・仕様書(Specification)の場合

・Part Number(部品番号:必ず正式な型式と一致)
・Dimensions(寸法:mmやinchと単位明記)
・Material(材料名・グレード指定)
・Tolerances(許容差:記号と値を明記)
・Test Method(検査方法)
各項目は英語の工業規格記号とともに記載し、国際的な基準・用語との整合性を徹底します。

現場プロが実践している英語技術文書の作成テクニック

ピクトグラムや写真を最大限に活用する

文章だけでなく、現物写真やピクトグラムを一緒に使うことで、言葉以上の情報を直感的に伝えられます。

特に手順書や警告文は、作業者が「ぱっと見て」分かる資料作りが必須です。

レビューの多重化 – 第三者チェックの徹底

自分が書いた技術文書は、自分の思い込みバイアスが必ずかかります。

現場作業者、海外工場担当、前工程・後工程のバイヤーや生産管理の第三者にも必ずレビューしてもらい、「本当に伝わるか」を確認します。

シンプルな言い換え(Plain English)へ意識転換

「comply with the instruction」ではなく「follow the instruction」。
なるべく平易な単語・構文に言い換えることで、英語を母国語としない現場スタッフにも伝わりやすくなります。

実践!現場で役立つ具体例・フレーズ集

・Install the filter in the correct direction.
(フィルターは正しい向きに取り付けてください。)
・Do not touch the heated area.
(加熱部分には触れないでください。)
・If you find any damage, report to the supervisor immediately.
(損傷を見つけた場合は、直ちに上司へ報告してください。)
・Torque: 8±0.5 N·m, measured at 25°C.
(トルク値:8±0.5 N·m、25°Cで測定すること。)

こうした端的かつ客観的な表現は、どの国、どの現場にも共通して伝わります。

昭和的アナログ現場からの脱却 – 新時代の英語文書運用へのヒント

「みんな知ってるから」から「誰が見ても分かる」へ

古い現場では、「あえて書かない」「書類化しない」文化が根強く残っています。

しかしグローバル標準では、「個人の知恵」よりも「文書化されたルール」にこそ価値があります。
誰が、いつ見ても、同じ品質で作業・判断ができる英語技術文書の充実が必要です。

デジタル化とセットでルール整備を推進

最近は電子マニュアルやIoT端末で現場表示するケースも増えました。
このときも「電子化すればOK」ではなく、情報の整理、メンテナンス、履歴管理までを一体運用することが重要です。

教育と継続的な改善がグローバル競争力に直結

文書作成スキルを高めるため、英語教育や実践ワークショップも取り入れましょう。
現場・設計・バイヤー・サプライヤー、それぞれの立場で実際の失敗事例を共有し、PDCAサイクルで改善することが、結局はトラブルを未然に防ぐ最善策となります。

まとめ – 製造業の未来を支える英語技術文書の力

英語の技術文書を制するものが、これからのグローバル製造業をリードします。

「誤解をなくす」「ムダを減らす」「現場の知恵を引き継ぐ」――この三本柱こそ、文書化の最大のメリットです。

現場で見てきた失敗、ヒヤリハットの数々も、正しい英語の技術文書にしてこそ、未来のバイヤーや現場スタッフに伝承できます。

バイヤーを目指す方、サプライヤー側で理解を深めたい方…。
ぜひ現場で実践し、より安全で効率的なものづくりの礎を、一緒に築いていきましょう。

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