読みやすい文章を書くための基本構成と推敲テクニック

はじめに：製造業のプロが伝える「伝わる文章術」

製造業の現場では、図面や仕様書、報告書、調達依頼など、文章を書く機会が想像以上に多くあります。

実は、どんなに現場経験や技術力が豊富でも、「思いが伝わる」文章を書けないと、折角の専門知識やノウハウが社内外に活かされません。

特に調達・購買や生産管理、品質管理業務では、立場や知識レベルが異なる人と多くやりとりするため、わかりやすい文章は“現場力”そのものです。

この記事では、製造業ここで20年以上培った私の視点で、「読みやすい文章の基本構成」と「推敲（見直し）のテクニック」を徹底解説します。

バイヤーや現場担当者だけではなく、サプライヤーとしてもバイヤー思考を知りたい方、文章力を向上させたい全ての方に役立つ内容です。

読みやすい文章の基本構成とは

文章作成で最も大切なのは「伝わること」、つまり読み手が内容を正しく、素早く理解できることです。

そのための基本構成を解説します。

PREP法で論理的に構成する

製造現場でも採用されている、最もシンプルかつ効果的な構成が「PREP法」です。

– Point（主張） : まず、結論（何を言いたいのか）を先に示します。
– Reason（理由） : 次に、その結論の理由を述べます。
– Example（具体例）: 理由を裏付ける具体的な事例やデータを示します。
– Point（再主張） : 再び結論を簡潔に述べます。

この順番に従えば、上司やバイヤー、サプライヤーといった立場や専門性が異なる相手にも、「何がポイントなのか」が明確になります。

一文一義を意識して書く

一つの文では必ず一つの内容だけを書く、これを「一文一義」と言います。

複数の内容や視点を詰め込むと、製造現場の現物や工程と同じで混乱を招き、誤解やミスのもとです。

句点（。）で文章を区切り、読みやすいリズムを作りましょう。

要点を冒頭に、詳細は後ろに

昭和から続くアナログ文化の製造業では、とかく「前置き」が長くなりがちです。

ですが、相手が必要とするのは“まず要旨”です。

たとえば、調達・購買の提出資料や工場の改善提案では、「最初に結論や要点を提示」し、その後に詳細や補足を書きましょう。

この“逆三角形型”の構成を徹底するだけで、一気に伝わりやすい文章になります。

推敲テクニック：現場流・伝わる文章の磨き方

文章を書いた直後はどうしても自己満足になりやすいものです。

「書いた後のひと工夫」が、文章の伝わり方・分かりやすさを大きく左右します。

声に出して読んでみる

自分の書いた文章を声に出して読んでみると、「文が長すぎる」「主語と述語が噛み合っていない」など、意外な違和感に気づきます。

特に製造現場の報告書や調達依頼書では、現場作業後の疲れた頭でも一発で伝わる簡潔な表現が肝心です。

社内会議で説明するつもりで音読する習慣を持つと、論理の飛躍や不要な繰り返しを自然と修正できます。

“5つのW1つのH”を見直す

製造業の「5W1H（いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どのように）」は、文章のぬけ漏れ確認にも最適です。

特に工程トラブル報告やサプライヤーへの情報提供時には、「Who（だれが）」「When（いつ）」の項目を意図的に見直しましょう。

「何が明確で、何が曖昧なのか」を区別しやすくなり、文章の品質が飛躍的に向上します。

専門用語は必ず補足する

調達や購買関連、設備や品質管理に携わる場合、つい専門用語を使いがちです。

「取引先の新入社員」あるいは「購買部の異動者」が読んでも伝わるように、略語・専門語には一言補足をつけましょう。

例：「QCD（品質・コスト・納期）の観点で」など。

この習慣が「属人化からの脱却」につながります。

昭和アナログの壁を超える“ラテラルシンキング”

ここから一歩踏み込み、昭和的な「伝統的な文章」から脱却し、ラテラルシンキング（水平思考）の視点で伝え方を考えてみましょう。

自分の“常識”を疑い、読み手の立場を再定義する

製造現場や調達現場で数十年とやってきた“自分ルール”や“業界の常識”は、往々にして前提として外部に伝わっていません。

たとえば「指示待ちの報告書」や「不明確な要件依頼」は、読み手の期待を裏切ってしまいます。

誰に向かって、何のために、どこまで伝えるべきか──これを徹底的に自問してください。

サプライヤーの立場なら「バイヤーは何を気にしているのか」「経営層はどんなリスク懸念を持つか」まで視野を広げる必要があります。

比較対象や対立軸を設けて「自分なりの視点」を持つ

単なる説明や報告だけでなく、二つ以上の選択肢や視点を並べることで、文章に「考え抜いた痕跡」が現れます。

生産方式の変更提案や仕入先選定の場合
– A案：従来の方法／B案：新提案方式
– それぞれのメリット・デメリット
– あなただったらどちらを選ぶか、なぜそう考えるのか

このプロセスを意識的に文章に取り入れると、現場の知恵とラテラルシンキングの“深み”が加わります。

数字やファクトに裏付けられたメッセージを意識する

昭和の時代は「根性主義」や「経験則」が幅をきかせました。

今や「数字で語りファクトで納得させる」能力がバイヤー・現場共通の必須スキルです。

「どこが・どれくらい・なぜ」を必ず定量データや具体的事実で示し、それが読み手の課題解決や意思決定に直結しているか確認しましょう。

現場で使える！文章力向上チェックリスト

ここまでの内容を踏まえ、文章作成の前後に役立つチェックリストをまとめます。

– 結論・要点が最初に書かれているか
– 一文一義、50字以内で区切っているか
– 5W1Hが明確か
– 数字やファクト、具体例が盛り込まれているか
– 専門用語に補足・説明がついているか
– 比較軸や複数視点が盛り込まれているか
– 読み手の立場で表現や流れを再検討したか
– 声に出して読んで違和感はないか

ひとつでも「NO」があれば、必ず推敲してください。

まとめ：文章力も“現場力”の一部です

どんなに優秀な生産技術や調達ノウハウを持っていても、伝わらなければ価値は半減します。

「伝わる文章」を書ける人は、現場・バイヤー・サプライヤーの間を繋ぐ“推進力”となります。

昭和型アナログ文化のしがらみや、専門用語に頼りすぎた属人化を乗り越え、ラテラルに“新しい伝え方”を生み出す人が次世代の製造業をリードしていきます。

ぜひ、今日からここで紹介した基本構成・推敲テクニックを実践し、ご自身の現場でも“伝わる力”を磨いてみてください。

そして、あなたが書く一つひとつの文章が、製造業の未来を切り拓く一歩になります。