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高周波・マイクロ波・ミリ波回路の基礎と設計への応用および実装のポイント

目次
はじめに:高周波・マイクロ波・ミリ波回路の重要性
高周波、マイクロ波、そしてミリ波は、現代の製造業や電子機器開発において非常に重要な技術領域です。
特に5G、IoT、自動運転、衛星通信、レーダーシステムといった先端分野での活用が著しく伸びてきました。
これまでアナログが中心だった現場でも、こうした高周波技術が急速に導入されています。
本記事では、長年現場に携わった視点から、高周波・マイクロ波・ミリ波回路の基礎と設計・実装のポイント、さらに業界が直面する課題やトレンドについて解説します。
高周波・マイクロ波・ミリ波とは何か:基本の理解
高周波(HF)・マイクロ波(MW)・ミリ波(mmWave)の定義
高周波(HF)は一般的に3MHz~30MHzの周波数帯域を指します。
さらにこれより高い周波数帯がマイクロ波で、30MHz~300GHzくらいと大変広範囲です。
さらに、30GHz~300GHzの帯域がミリ波と呼ばれます。
この帯域での電波は波長が非常に短く、数ミリメートル程度しかありません。
この違いが設計や実装、さらには評価時の難しさにつながります。
産業シーンでの活用例
高周波回路は従来のアナログラジオや放送機器で用いられてきました。
マイクロ波はレーダーや通信機器、産業用加熱などに活用されています。
近年注目されているミリ波は、5G通信や車載レーダー、非接触センサ、さらに次世代のIoT機器などに採用が進んでいます。
回路設計の基礎知識 — なぜ「波」が難しいのか
インピーダンスマッチングと波長の影響
アナログ回路と最大の違いは「線」が「伝送路」となり、波が反射してしまうことにあります。
インピーダンスマッチングを怠ると信号の反射が発生し、信号品質が極端に劣化します。
ミリ波領域では、わずかなパターン長や部品の実装ずれが大きな損失や雑音の原因となります。
回路パターンの線幅、GND面との距離、ビア(スルーホール)位置など、これまで気にしなかった要素が重要となります。
高周波用部品の選定と配置
バイヤーやサプライヤーが知っておくべきポイントとして、高周波専用のチップ部品(コンデンサ、インダクタ、抵抗)は周波数特性がカタログ通りにならない場合が多いです。
また、多くの部品メーカは40GHz以上になるとサンプル供給やスペック保証が不十分となるケースがあります。
流通在庫数も大幅に少なくなります。
購買や調達担当者には、事前のサプライヤーコミュニケーションと納期調整が欠かせません。
設計現場におけるラテラルシンキング:従来技術への挑戦
アナログ回路の常識が通用しない世界
昭和時代から続く製造現場では「ラジオの増幅回路はこう作る」といった定石が根付いてきました。
しかし、ミリ波時代になると伝送路、部品同士の間隔、シールド、基板材料が全く新しい重要点となります。
例えば、マイクロストリップラインの設計や同軸コネクタの結合は、社内にノウハウがないと高確率で失敗します。
従来の感覚に捉われず、CAD・EMシミュレーション(電磁界シミュレータ)の活用が必要となります。
生産現場で求められる“工程設計”の視点
生産管理や工場の自動化現場では、高周波回路実装のために従来の自動実装機を大幅に見直す動きもあります。
ミリ波向け基板の厚み制御、銅箔表面粗さの管理、はんだの量や実装後のクリーニング方法の絶え間ない見直しが不可欠です。
間違った工程設計は歩留まり悪化・コスト増大・納期遅延を招きます。
製造エンジニアや現場リーダーも積極的に技術習得しなければ、設計と生産の“溝”が深まります。
業界はこのギャップを埋める人材を強く求めています。
高周波・マイクロ波・ミリ波回路の設計ポイント
伝送路設計と基板材料の選定
回路パターンの設計では、従来のガラエポ紙やFR-4などの基板は、数GHzを超えると大きな損失や信号劣化を引き起こします。
ミリ波では、PTFE(テフロン)系基板、ロジャース社やタクティクス社の低損失材料が業界標準です。
しかし、価格は従来基板の10倍以上となることが一般的です。
バイヤーにはサプライチェーン上の調達難易度とコスト上昇への理解が求められます。
EMC対策とノイズマネジメント
高周波・ミリ波回路では外来ノイズ対策も大きな課題です。
回路単体の設計だけでなく、筐体全体でのシールド、GNDパターン、フィルタの多重配置など、多層的なEMC設計が求められます。
設計時だけでなく、生産での実装精度や検査精度がEMC品質に直結します。
工程管理でもEMC試験設備の有無、測定できるエンジニアの確保が不可欠です。
組立・実装現場での実践ノウハウと課題
リフローはんだと手付はんだ、それぞれのメリットとリスク
高周波回路の実装にはリフローはんだが主流ですが、ミリ波用途では手付けが必要になる場合も少なくありません。
特に、超小型パッケージや特殊基板でははんだの盛り過ぎによるブリッジ、はんだ不足による接触不良リスクが高まります。
工程設計では詳細な作業指示書や専用治具の開発、社内技能の底上げが欠かせません。
工場の自動化とIoT化の壁
最新の工場自動化設備を導入する際も、「実際にミリ波基板がラインで稼働するまで試行錯誤が続く」ことが現場では多いです。
カメラ検査、X線検査とも従来に比べ微細かつ複雑な不具合検出が求められるため、AI活用や自動判定も必要になりました。
昭和的な“目視検査”だけではとても管理できません。
サプライヤー、バイヤー、それぞれの視点で押さえるべきポイント
サプライヤーは“提案型”の姿勢へ
高周波・ミリ波部品や基板のサプライヤーは、単なるスペック提示ではなく、設計―実装―評価まで一貫した提案力が重視されています。
顧客の使い方・実装環境まで知り、材料レベル、加工性、歩留まりについて的確に助言できる体制が必要になっています。
また部品実装後の品質検証体制(X線検査、ネットワークアナライザ評価など)の強化も必須です。
バイヤーは“技術を理解し調整できる”プロへ
バイヤーも調達部門の中で単なる価格交渉者から、「技術仕様」「納期」「在庫リスク」「品質管理」など多角的な調整力が不可欠です。
近年は技術部門との連携と、海外サプライチェーンの動向把握が日常業務となっています。
また、トラブル発生時に即時現物確認や問題分析ができる基礎知識も問われる時代です。
今後の動向と製造業バリューチェーンの新展開
5G・6G・自動運転・宇宙産業への応用拡大
今後は、ミリ波を超えたサブテラヘルツ帯域(THz)への応用や、次世代通信の研究開発が進むと考えられます。
これにより、新たなサプライヤーや材料メーカー、評価装置メーカーが台頭するでしょう。
製造業は従来の延長線上では対応できず、設計ー調達ー生産ー評価まで一気通貫の知見が不可欠です。
“現場知見”が価値へと転換する時代
高周波回路とミリ波実装の知識は机上理論だけでは完結せず、現場での経験が大きな差別化ポイントです。
現場に根ざしたノウハウが強みとなり、設計・製造・バイヤーが本音で議論することが重要視されています。
それが日本のものづくり強化の核心です。
まとめ:高周波・マイクロ波・ミリ波回路で勝ち抜くために
高周波・マイクロ波・ミリ波回路を取り巻く環境は、従来の常識が大きく覆されつつあります。
部品選定から設計、生産、工程管理、評価、調達までラテラルシンキングが欠かせません。
また、現場責任者、設計者、バイヤー、サプライヤーが“共通言語”で連携できる体制が、これからの勝ちパターンです。
新しい技術を受け入れる柔軟性と、現場での試行錯誤や不具合解決の泥臭さ、その両輪が真の競争力となります。
これから製造業を担う皆さんに、ぜひこの領域に積極的に挑戦し、現場知を武器に成長に繋げていただきたく思います。
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