投稿日:2025年6月23日

FTIR・SEMによる異物分析の基礎と分析・解析のポイント

はじめに:異物分析が製造業にもたらす価値

製造業の現場では、絶えず「異物混入」という課題に直面しています。

特に自動車、電子部品、食品、医薬品といった高い品質基準を要求される業界において、異物の存在は重大な不良品・クレーム発生、製造ライン停止、ひいてはブランド価値の損失にも直結します。

こうしたトラブルを未然に防ぎ、迅速な原因究明・再発防止を図るためには、異物そのものの正しい分析・解析が不可欠です。

製造業現場で培ったノウハウと最前線の分析技術、そして現場に求められる実践的な視点から、「FTIR・SEMによる異物分析」の基礎知識と分析・解析のポイントを解説します。

バイヤー・調達担当者、品質管理担当、サプライヤーの方もぜひ参考にしてください。

FTIRとSEMとは?~異物分析に欠かせない2大分析手法~

FTIR(フーリエ変換赤外分光法)とは

FTIR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)は、赤外線を試料に照射し、その吸収スペクトルから化学構造や官能基の種類を特定する分析方法です。

主に有機物や高分子材料(プラスチック、樹脂、ゴム、油脂など)の判別に高い威力を発揮します。

微量な試料でも分析でき、サンプルが粉体・固体・液体など多様な形状でも対応できるため、異物分析の初動として定番の技術です。

SEM(走査型電子顕微鏡)とは

SEM(Scanning Electron Microscope)は、電子ビームを照射して試料表面の微細構造を観察する分析装置です。

FTIRが「何でできているか」を明らかにするのに対し、SEMでは「どのような形状・構造か」「何ミクロンの大きさか」といった物理的特徴を可視化できます。

また、EDX(エネルギー分散型X線分析)を併用すれば、無機物や金属成分の分析も可能です。

異物分析の流れ:現場目線で理解する基本プロセス

異物分析で最も重要なのは、「なぜ分析するのか=最終的な目的意識」です。

現場でよくあるパターンをなぞりつつ、おおまかな流れを示します。

  1. 【検体採取】異物の採取・サンプリング(清浄なツール・環境で取り出す)
  2. 【目視観察・前処理】顕微鏡などによる初期観察。必要に応じて洗浄・抽出などの前処理
  3. 【分析手法の選定】有機物中心か、無機成分も調べるかなどを判断
  4. 【FTIRによるスペクトル解析】主成分・化学構造の同定
  5. 【SEMによる形態・組成解析】微細構造観察、EDXによる元素分析(必要に応じて)
  6. 【データ解析・報告書作成】分析データを根拠に、発生源・原因・再発予防策を考察

現場では「どこで、いつ、どうやって」発生したのかという工程履歴・作業日報・設備構成なども併せて情報整理することが重要です。

FTIR:異物分析の現場で活きるノウハウとポイント

スペクトルマッチングの落とし穴

FTIRで得られるスペクトルは、まるで指紋のように各物質固有のパターンを持ちます。

しかし現場では、スペクトルライブラリとの「完全一致」に頼り切るのは危険です。

なぜなら、異物は単一成分ではなく複数の物質が混在していたり、劣化や熱・化学反応を経て元の特性とは異なる分光特性を示すことがあるためです。

そのため、スペクトルの「主要ピーク」と「サブピーク」、「一致しない部位」まで細かく人の目と知識で読み解くことが欠かせません。

前処理(不純物除去・分離)の重要性

異物が油汚れ、錆、ゴミなどと混ざっていることは日常茶飯事です。

この場合、水洗・有機溶剤抽出・フィルターろ過など、できるだけ主成分のみを取り出す前処理が分析の信頼性向上に不可欠となります。

特に樹脂成型工場では、「母材と離型剤」「塗装片・異種樹脂」の見極めなど、業界特有の課題にも注意しましょう。

SEM:形態観察と元素分析(EDX)による総合判断

「目で見て分かる」ことが最大の強み

SEMは、光学顕微鏡の数十倍から数十万倍という高倍率で、異物の形状、表面の凹凸、割れ方、粒子の付着の有無などを観察できます。

「金属光沢の有無」「繊維状・球状・薄片状」といった定性的判断も、原因解明の重要なヒントになります。

例えば、金属切粉であれば旋盤加工やボルト締結時の異物、繊維であれば作業着やクロス片、黒い粒状ならゴム系部品の摩耗粉、など所属工程や歩留まりトラブルと結びつけて考えられます。

EDXによる元素の特定で確証を得る

異物が無機物、金属系の場合はSEMにEDX分析を付加することで、微量レベルでも主元素(Al、Fe、Cu、Si、Znなど)を特定できます。

たとえば「SとFe検出⇒鋳鉄系」「Zn検出⇒亜鉛メッキ系」「Siのみ⇒ガラス片」など、発生源をかなり絞り込むことができます。

特に自動化工場や最新設備導入の現場では、外部業者から「材質確認して!」と依頼があってもEDXの情報が根拠となるケースが増加しています。

昭和から脱却できないアナログ文化の壁と新しい課題

現場に根付く「職人勘」と分析のギャップ

長年の経験から「この匂いはあの油」「この粉はメンテのゴミ」と直感するベテラン技術者の存在は、依然として工場の現場力を支えています。

一方で、こうした「見た目」「臭い」「手触り」といったアナログ評価を、いかにデータと結びつけるかが分析技術者・バイヤーの課題です。

FTIR・SEMによる科学的根拠と現場の経験値の融合が、再発防止や品質向上への最短ルートとなります。

DX推進と異物管理の最先端

AI画像解析やIoTセンサー導入といった新潮流も、分析現場に急速に普及しつつあります。

製造履歴データ、水質・空気質ログと異物発生状況を紐づけることで、問題発生要因の特定が格段にスピードアップしています。

ただし、アナログ工場では「記録が残っていない」「工程図やマニュアルが紙ベース」といった昔ながらの運用も根強く残っています。

どんなに最新の分析技術を導入しても、ベースとなる現場情報(いつ、どこで、どの工程)が曖昧だと、真の原因究明には至りません。

まとめ:異物分析を現場改善の起点に

FTIR・SEMは、もはや大手製造業はもちろん中堅・中小の現場でも異物管理の必須武器です。

重要なのは「分析して終わり」ではなく、発生源・原因までを深掘り、工程改善・現場教育・ベンダ管理までを一気通貫でつなぐことです。

バイヤーであれば、異物発生パターンから取引先管理や工程指導に役立ちますし、サプライヤーであればバイヤーがどうトラブルを分析・改善しているかを知る材料にもなります。

昭和の職人文化と先端デジタル技術、現場知と分析知を組み合わせ、持続的な品質向上・産業発展の一助となることを願っています。

製造現場でしか語れないリアルな異物分析の知識を、どうぞ日々の業務改善に活かしてください。

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