投稿日:2025年6月12日

設計者に必要な信頼性設計の基礎と実務への応用ポイント

はじめに:製造現場と信頼性設計の本質

製造業の根底を支えるものは、顧客からの「信頼」に他なりません。

どれだけ優れた性能を持つ製品でも、現場の期待する信頼性を欠いていれば、ブランドそのものの価値が問われてしまいます。

設計者にとって必要な「信頼性設計」は、単なるスペック設計や形状決定の枠を超えた、製品ライフサイクル全体への責任あるアプローチです。

昭和の高度成長期から今日に至るまで、現場で培われてきた信頼性技術は、アナログな伝統を色濃く残しつつも、最新技術とのハイブリッドによって進化を続けています。

本記事では、実務の現場目線で「信頼性設計」とは何か、そしてどのように実務へ応用すべきかを、調達購買から品質管理まで包括的に解説します。

信頼性設計の基礎知識

信頼性設計とは何か?

信頼性設計とは、製品が「定められた条件・期間において、期待される機能や性能を維持し続ける」ことを設計段階から考慮し、具現化する活動です。

製品寿命、故障率、稼働率といった指標を元に、予防保全や安全設計、冗長設計など、多角的な観点で設計に落とし込む必要があります。

単発の試験や一過性のチェックシートだけに頼るのではなく、設計思想そのものに信頼性を織り込むことが重要です。

バイヤー・サプライヤーの視点で考える信頼性

バイヤーは、サプライヤーから部材やユニットを調達する際に、その信頼性情報を重視しています。

単に「品質が良いか」だけでなく、「長期間安定稼働する根拠は何か」「過去のクレームや不具合歴はないか」など、調達購買の現場では信頼性データがしばしば最優先されます。

一方、サプライヤーはバイヤーからの信頼を獲得するため、設計者としっかり連携し「なぜこの設計で長寿命が実現できるのか」を明確に説明できなければなりません。

現場で押さえるべき信頼性設計のポイント

1. 故障モードの徹底的な洗い出しとFMEAの活用

実際の現場で多発するのは、「想定外の故障モード」です。

設計段階で故障モードを網羅的に抽出することは、信頼性設計の第一歩となります。

FMEA(故障モード影響解析)を徹底活用し、発生しうる全ての故障パターンを想定通りだけでなく、「お客様の使い方」「現場独特の癖」「過酷な環境条件」など多角的な視点で把握します。

現場のベテラン作業者や品質管理担当者と設計者がワークショップを行い、過去の発生事例や「ヒヤリハット」の蓄積から現実的な故障モードを整理します。

これにより、カタログスペックだけでは見えないリアルな信頼性リスクを設計にフィードバック可能です。

2. データ根拠に基づくマージン設計

机上論のスペックではなく、実際の現場データ(例:温度変動、振動、通電回数、手順逸脱率など)を収集し、そのデータをもとに余裕(マージン)をどこまで設けるべきかを設計で決定することが重要です。

テストデータやフィールドリターン品分析など、現場のリアルな数字を「設計インプット」として活用します。

バイヤーの観点では、この「根拠となるデータの開示・共有」が信頼獲得の大きなポイントとなります。

特にサプライヤーは、ファクトベースで信頼性を語ることで価格競争以外の「付加価値」を示すことができます。

3. 部品選定と標準化から始める長寿命設計

信頼性設計の成否は、部品選定の吟味が大きく左右します。

設計者は、入手性やコストだけではなく、「過去実績の信頼性データ」「メーカーメンバーとの技術連携」「型式落とし込み」など、現場で安心して使える部品を優先的に選定するべきです。

例えば、現場でよく使われる「経験則データベース」の活用や、社内標準品の維持管理、サプライヤーとの共同試験などを通じて、徹底的に選別します。

結果として、調達購買部門と設計、品質管理が「同じ安全基準」を共有できる体制が構築され、現場全体の信頼性向上につながります。

4. 工場検証・現地実証・量産移行段階の信頼性確認

設計段階では要件通りでも、いざ量産フェーズでトラブルが頻発するケースが後を絶ちません。

試作から量産へのスムーズな移行を確実にするためには、「工場での実機検証」「サプライチェーン全体での流通テスト」「現地(ユーザー環境)での試験評価」など、段階的な信頼性確認プロセスを組み込みます。

昭和期以来の“現場たたき上げ”の知恵として「量産開始時のファーストロット立会い」「多能工による現場検証」「お客様クレームのフィードバックループ」など、泥臭いプロセスがいまだ信頼性担保に大きな効果を発揮します。

5. バイヤー・サプライヤーで共創する信頼性文化

信頼性設計は「設計者だけの領域」ではありません。

調達や生産技術、品質保証など、社外のパートナーや現場スタッフも巻き込んで「信頼性にコミットする文化」を創ることが、長期的な品質担保へとつながります。

定期的な振り返り(レビュー)、バイヤー・サプライヤー合同の信頼性フォーラム、トラブル時の即時情報共有、現場へのフィードバック制度など、組織を越えた連帯感を育む取り組みが不可欠です。

昭和的アナログ文化とデジタル信頼性設計の融合

高度情報化社会の到来でデジタルツインやAI解析が急速に進む中、製造業の現場には依然としてアナログ的な「五感の知見」や「人の機微」が濃厚に根付いています。

昭和から令和への過渡期、信頼性設計を実務で成功させるためには、両者の強みを組み合わせるラテラルシンキングが求められます。

現場作業者の「違和感」「勘所」をヒアリングして設計に反映させる一方、テストデータやフィールドリターンのAI解析で「早期警戒」を実現する――そんなハイブリッドアプローチこそが、次世代の信頼性設計です。

バイヤーであれば、実績のあるサプライヤーに対し「昔ながらの安心感」と「デジタルで見える化された根拠」両方のバランスを取ります。

サプライヤーにとっては、これら両面を同時に提供できることが競争優位となります。

設計者が身につけたい信頼性思考と変革のヒント

なぜ「現場重視」の発想が欠かせないのか

現場目線の信頼性設計は、デスクワークやCAD画面だけでは見えてきません。

なぜそのトラブルが生じるのか、どこで人為的な逸脱が起こるのか、顧客はどんな期待値で使っているのか――それら現場のリアルを自ら足を運んで五感で観察することで、はじめて説得力のある設計改善が可能になります。

現場ヒアリングや現品確認を繰り返し、設計書の1行1行に現場の温度感を映すことが、設計者の信頼性向上につながります。

DX時代の信頼性設計――必要なのは「見える化」

従来、「暗黙知」として伝承されてきたアナログな信頼性ノウハウは、若手の流出や業界の高齢化、グローバル調達の進展で危機に瀕しています。

そこで必要になるのは、「曖昧な経験則」をデータで可視化し、設計ナレッジとして社内外に共有できる仕組みです。

IoTによる稼働状況のモニタリングや不具合履歴のデータベース、パラメータシートの共通化など、DXを活用した信頼性設計へ転換が求められます。

バイヤーの立場では、こうした「見える化」による“透明性”が、リスクヘッジや調達戦略構築に大きく寄与します。

サプライヤー側も、設計思想や安全対策をロジックとデータで「見せる」ことで、信頼獲得の新たなチャンスを広げられます。

おわりに:製造業の未来にとっての信頼性設計とは

設計者が信頼性設計を学び、実務へ応用することは、経営資源の最適活用や不良削減、ひいては顧客からの圧倒的な評価につながります。

アナログ文化とデジタル技術、それぞれの「強み」と「現場目線」をしっかり融合させていくこと。

その連携こそが、次代の日本製造業の競争力の源泉となります。

バイヤー志望者、サプライヤー、現場の設計者――すべての製造業関係者が「信頼性設計」という新しい共通言語でつながる時、業界の発展とお客様の安心が、より強いものとなっていくはずです。

今こそ、設計の時点から未来の信頼を先取りする目線と行動を、一歩踏み出してみませんか。

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