投稿日:2025年6月18日

車載ネットワークの基礎と高速化技術および適用事例・実用化のポイント

車載ネットワークとは何か?基礎知識から解説

現代の自動車は「走るコンピュータ」と呼ばれるほど、電子制御ユニット(ECU)や各種センサ、アクチュエータが多数搭載されています。
これらをつなぎ、リアルタイムで膨大なデータをやり取りするための通信基盤、それが「車載ネットワーク」です。

車載ネットワークは、車内の複数の機能を統合的に制御し、安全性、快適性、省エネ性を大きく向上させるキーテクノロジーです。
昭和のアナログな車両がワイヤーハーネスを中心としていた時代から、デジタル化・ネットワーク化は大きく進展しました。
その進化の背景には、「コスト・重量削減」「制御の高度化」「新機能(自動運転/コネクテッド化)対応」という明確な現場ニーズがあります。

車載ネットワークの主な方式

車載ネットワークといっても用途や求められる速度、信頼性に応じて幾つかの主要技術があります。

– CAN(Controller Area Network):現在も車載標準。堅牢で安価、リアルタイム性も高い。
– LIN(Local Interconnect Network):主にドアやシート、ミラーなど周辺機器制御。低速・低コスト。
– FlexRay:CANの10倍以上高速。安全性要求が高い領域向け(自動運転制御など)。
– Ethernet(車載イーサネット):近年急速に普及。大容量データ転送や映像処理向け。

これらを多段階的に組み合わせる「マルチネットワーク構成」が、現在の車両設計のトレンドとなっています。

車載ネットワーク高速化の背景と最新トレンド

自動車の進化に伴い、車内ネットワークでやり取りされるデータ量は爆発的に増加しています。
例えば自動運転車では、カメラやLiDARなどからの高解像度映像・センサデータをリアルタイムに処理する必要があり、Gbps(ギガビット・パー・セカンド)級の通信が求められます。

高速化を推進する4つの要素

1. センサー技術の高度化
2. 自動運転・ADAS(先進運転支援システム)の普及
3. コネクテッドカー時代への対応(クラウド連携やセキュリティ強化等)
4. 車内インフォテインメントの高機能化

従来のCAN方式だけでは対応しきれず、車載Ethernetや次世代バス(TSN: Time Sensitive Networkなど)が主役に浮上しています。

高度化と「昭和から抜け出せない業界」の現実

一方で、長年の習慣やリスク回避志向が根強い自動車業界では「安定した技術に頼りたい」という現場心理もあります。
段階的な移行、混在運用、評価・検証スパンの長さ(車両開発は通常3~5年サイクル)など、“いきなり全てを新規技術に置換”は現実的ではありません。

そのため、現場実務では「要件による最適技術配分」「既存ネットワークとのゲートウェイ設計」などの工夫が求められています。

車載ネットワーク高速化技術の具体例と適用事例

車載イーサネットの導入と課題

例えば、MB(メルセデス・ベンツ)やBMW、トヨタなども車載Ethernetを積極導入しています。
具体的には、バックカメラ映像の伝送や最新インフォテインメントシステム、先進安全装備制御(レーダー・カメラ統合など)に採用されています。

従来の4線式100Base-TXでは重量増となるため、1対(2本)のツイストペアケーブルで1Gbps伝送が可能な「BroadR-Reach」や、1000Base-T1など車載専用Ethernet規格が標準化されています。

課題としては
– 外部ノイズや振動への高耐性確保
– 車両火災リスクを抑える設計・部材選定
– ISO(国際標準)、業界慣行との整合性確保
などがあります。

自動運転レベルと高速通信の相関

自動運転レベル3~4の量産車では、LiDARや360度カメラ、AI演算用ECU同士のデータ交換に高速・広帯域ネットワークは必須です。
実は、これらの制御機器は各社が複数ベンダーの部品を「最適調達」しています。
したがって、異なるメーカー機器の“相互接続性(インターオペラビリティ)”が、現場レベルでも開発・品質・調達部門の最重要課題となっています。

実務としては、エンジニア同士の事前QA確認、第三者による検証試験、規格準拠部品のソーシングなど、設計と調達が密に連携しながら「量産で確実に動く」仕組みをつくり上げています。

バイヤー・サプライヤー視点の実用化ポイント

・バイヤー側(自動車OEM・ティア1メーカー等)
1. どの領域にどこまでの先進技術を投入すべきかを見極め、既存技術の長所短所を冷静に評価します。
2. ベンダーロックインを避け、複数サプライヤーとの相見積もり・技術比較・リスクヘッジを行います。

・サプライヤー側(部品・モジュール提供者等)
1. 規格対応力や相互接続検証データを強みにできれば大きなアドバンテージとなります。
2. 顧客(バイヤー)の開発スケジュールに沿ったテスト・量産対応体制が必須です。
3. 長期供給保証(自動車部品は10年以上の補給部品供給が原則)体制も信頼獲得の鍵です。

業界では、生産管理・品質管理と技術開発・調達部門の連携が活発な企業ほど、車載ネットワークの進化に柔軟に適応しています。

昭和流アナログ現場の知見を活かすために:

デジタル化一辺倒では、信頼性・耐久性の面から“落とし穴”も存在します。
特に現場目線では「アナログ的な冗長設計」「非常時のバイパス手段の残存」などが、実用段階で大事なノウハウとなります。

例えば、
– 誤作動やノイズによる通信エラーの際に、自動的にフェールセーフ動作へ切り替える制御
– 経年劣化や端子部の緩みなど、昭和流の現場点検手法を継承しつつ新技術へ活用
– 供給部品のばらつき・不良率など「現場実感」をデータ化し、フィードバック運用

こうした “泥臭い現場知見” も、ネットワーク設計・導入時に忘れてはなりません。

今後の展望とバイヤー・サプライヤーのためのヒント

車載ネットワークは今後も進化を続けますが、「新しいから良い」「速いから最適」ではないのが現実です。

●バイヤーとして重要なのは、技術トレンドと自社の強み・弱み、現場フィードバックを多角的に分析するラテラルな視点です。
●サプライヤーとしては、これまでの日本的きめ細やかな作り込み、現場密着力、実例ベースの提案が信頼獲得のポイントになります。
●調達・設計・生産・品質が縦割りでなく連携する、“壁を超えるチームづくり”が業界標準になりつつあります。

高速化技術への対応は、単なる通信規格履修だけでなく“現場全体の流れ”を理解する地頭力が問われます。

まとめ:現場の知恵と高速化技術の融合が未来のカギ

車載ネットワークの高速化は、単なるモノづくりの先端化だけでなく、安全性・利便性、そして新たな付加価値をもたらします。
一方で、昭和から脈々と伝わる現場実学や泥臭さも、これからの製造現場には不可欠です。
バイヤー、サプライヤーの皆さんが双方の目線を意識し、技術と現場知見が交歓することで、より良い自動車産業の発展が実現できると信じています。

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