投稿日:2025年6月17日

空力騒音の基礎と計測・評価および騒音低減対策・事例

はじめに:空力騒音の重要性と現場目線での捉え方

製造業の現場において「騒音対策」は長く重要視されてきました。
しかし、その中でも「空力騒音」は意外と見落とされがちです。
なぜなら、多くの製造工程や工場設備では「機械騒音」や「振動音」のほうが目立ちやすく、目に見える“原因”がフォーカスされる傾向があります。

ですが、近年の設備の高速化や省エネ化、環境負荷低減の流れの中で、空力騒音——つまり風や空気の動きがもたらすノイズ—が製品品質や職場環境を左右し始めています。
今回は、空力騒音の基礎から現場で使える計測・評価手法、そして実際に行われている騒音低減対策・事例まで、管理職・技術担当者目線で実践的に解説します。

空力騒音とは?基礎知識を押さえる

空力騒音の定義

空力騒音とは、「空気の流れ」や「流体と構造物との相互作用」によって発生する音を指します。
具体例で言えば、自動車や鉄道車両の走行音、送風機・換気ファンのノイズ、工場内配管を流れるエアの風切り音など、多くの現場で耳にした経験があるはずです。

空力騒音が発生するメカニズム

空力騒音の原因は、主に以下の3つです。

1. 流速の高い空気が障害物に衝突したとき(エッジ・障害物付近の乱流)
2. 流れの中にギャップや穴、凸凹があるとき
3. 風と物体表面との摩擦・剥離による振動音

昭和の時代は設計に余裕があり、そこまで深刻な問題にならないことも多かったですが、最近は省スペース化や流量・速度向上により、この種のノイズが無視できなくなりつつあります。

空力騒音の計測・評価手法

現場で使える基本的な計測方法

騒音計による一般的なdB(デシベル)測定が主流ですが、空力騒音の場合は周波数分析(FFT)やスペクトル分析が欠かせません。
空気の流れ由来のノイズは広い周波数帯域に分布しやすいため、「ピークだけでなく、帯域全体」を知る必要があるからです。

1. 騒音計(A特性、C特性を使い分け)
2. FFTアナライザやリアルタイムアナライザ
3. マイクロホンアレイによる音源可視化

例えば、ファンやブロアの排気ポイントで、計測位置を変えて各ポイントのスペクトル分布をデータ化。
「どこから問題音が出ているか」を特定するだけでなく、「設計ベンチマーク」として設計・改修後の性能比較にも役立ちます。

空力騒音評価における現場目線のポイント

現場でのノイズ評価は、「作業員の会話が聞こえない」「耳障りなピーク音が続く」という実感値と、測定結果が必ずしも一致しない点に難しさがあります。
そのため、周波数1/3オクターブバンド分析や、「騒音レベル変動グラフ」を合わせて見ることが、対策検討のコツとなります。

現実に多いのは、「派手な音でなくても、じわじわストレスとなる帯域(例えば1~8kHz)」。
こうした帯域をターゲットに評価を進めると、現場の体感とも整合し、効果的な低減対策に結びつきます。

空力騒音低減の具体的な手法

設計段階での対策

設計の現場では、「最初から空力騒音を出さない工夫」が最重要です。
代表的な事例を挙げます。

– 流路や配管の急な絞り・広がり・カーブを避ける
– 段差や隙間、不要な障害物を減らす
– ブレード、ファン、羽根車などは翼形状や角度・表面粗さを最適化
– 吸音材・防音カバー化(設計初期からスペースを確保)

例えば送風ファンでは、羽根の枚数を増やす・トレーディングエッジで表面加工する・ケーシング近傍の隙間を最小化する工夫が、高速化しても騒音レベルを抑える鍵となっています。

現場でできる後付け対策

既存設備で発生している場合は、工場の改修工事や追加部品で対応します。

– ダクト内に吸音材を貼る、遮音壁を設置する
– 配管・ダクトの位置や隙間を調整(一工夫で音のピークが消えることも)
– 吹出口や吸気口にノイズリダクション用サイレンサーを設置
– ファンやコンプレッサに減振ゴムを追加して、振動と空気音の両方を抑制

非常にアナログな現場手法ですが、「ダクト内部を掃除・補強」「パネルの固定ネジを増やす」「出口の向きを変える」だけで10dB以上の改善例も多数あります。
こうした地道な改善こそ、現場の職人技・ノウハウの見せどころです。

最新のデジタル活用も

AIベースの音源識別や、コンピュータ流体解析(CFD)データと騒音シミュレーションを連携させた取り組みも始まっています。
試作前に「どこでどんな空力騒音が起こるか」可視化できれば、設計段階から徹底的にトラブル回避ができます。

事例紹介:空力騒音対策で成果をあげた現場

自動車部品工場での空力騒音対策

自動車部品工場では、部品洗浄装置のエアブローラインで騒音トラブルが発生。
従来の「防音カバー追加」では作業性が落ち、却ってトラブルに。

そこで、ラインの配管の急カーブ部分をなだらかなR形状へ変更、エアノズルの先端にスリット入り静音タイプへ交換したところ、作業環境騒音を7dB低減し、残響音も減少。
加えて、ノズルの特性を見直したことでエア消費量自体も10%削減となりました。

電子機器工場での換気ファン騒音問題

電子機器工場の換気ファンが深夜に特に高い空力騒音を発生し、近隣からクレームが続発。
現場ではファン本体交換案も出たが、高コストなため、まずは「吸気ダクトの途中に吸音材」を追加、「排気口を90度転換」する手法を採用。

この結果、測定騒音レベルは昼夜とも8dB低減に成功。
加えて、工場内の空気流れも改善し、一石二鳥の成果となりました。

空力騒音対策がもたらす業界の新しい価値観

昭和の現場は、「とにかく機械を回し、生産を上げる」が至上命題。
騒音は“我慢するもの”という文化が色濃くありました。

しかし今、騒音問題は働く人の健康障害リスクや、企業としてのESG経営評価、さらにはサプライチェーン内のパートナー評価にも直結し始めています。
バイヤー目線では、こうした「サステナビリティ」「職場環境に配慮したものづくり」を求める声が年々大きくなっています。

空力騒音に真摯に向き合うことは、単なる生産現場の効率化・快適化にとどまらず、
社会・顧客に向けた品質訴求(ファクトリーブランド価値の向上)や、グローバルサプライチェーンでの信頼構築という、より広い視野での企業価値創出につながるのです。

まとめ:空力騒音の未来を切り拓くために

空力騒音は「目には見えず」「意外と根が深い」問題ですが、設計から現場改善、経営戦略まで多層的に関わるテーマです。

製造業に働く皆さん、これからバイヤーを志す方、現場の声を聞きながら戦うサプライヤーの皆さん、それぞれの立ち位置から“空力騒音対策”という新たな地平線を切り拓いていくことが、ものづくり発展のカギとなります。

昭和のアナログ型ノウハウ、最新のデジタル活用、その両方を活かしつつ、
「現場で実効性のある空力騒音対策」をともに追求していきましょう。

これが、より良い製造現場創出、日本のものづくりの未来を支える礎(いしずえ)となるはずです。

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