- お役立ち記事
- 空力騒音の基礎と計測・評価および騒音低減対策・事例
空力騒音の基礎と計測・評価および騒音低減対策・事例

目次
はじめに:空力騒音の重要性と現場目線での捉え方
製造業の現場において「騒音対策」は長く重要視されてきました。
しかし、その中でも「空力騒音」は意外と見落とされがちです。
なぜなら、多くの製造工程や工場設備では「機械騒音」や「振動音」のほうが目立ちやすく、目に見える“原因”がフォーカスされる傾向があります。
ですが、近年の設備の高速化や省エネ化、環境負荷低減の流れの中で、空力騒音——つまり風や空気の動きがもたらすノイズ—が製品品質や職場環境を左右し始めています。
今回は、空力騒音の基礎から現場で使える計測・評価手法、そして実際に行われている騒音低減対策・事例まで、管理職・技術担当者目線で実践的に解説します。
空力騒音とは?基礎知識を押さえる
空力騒音の定義
空力騒音とは、「空気の流れ」や「流体と構造物との相互作用」によって発生する音を指します。
具体例で言えば、自動車や鉄道車両の走行音、送風機・換気ファンのノイズ、工場内配管を流れるエアの風切り音など、多くの現場で耳にした経験があるはずです。
空力騒音が発生するメカニズム
空力騒音の原因は、主に以下の3つです。
1. 流速の高い空気が障害物に衝突したとき(エッジ・障害物付近の乱流)
2. 流れの中にギャップや穴、凸凹があるとき
3. 風と物体表面との摩擦・剥離による振動音
昭和の時代は設計に余裕があり、そこまで深刻な問題にならないことも多かったですが、最近は省スペース化や流量・速度向上により、この種のノイズが無視できなくなりつつあります。
空力騒音の計測・評価手法
現場で使える基本的な計測方法
騒音計による一般的なdB(デシベル)測定が主流ですが、空力騒音の場合は周波数分析(FFT)やスペクトル分析が欠かせません。
空気の流れ由来のノイズは広い周波数帯域に分布しやすいため、「ピークだけでなく、帯域全体」を知る必要があるからです。
1. 騒音計(A特性、C特性を使い分け)
2. FFTアナライザやリアルタイムアナライザ
3. マイクロホンアレイによる音源可視化
例えば、ファンやブロアの排気ポイントで、計測位置を変えて各ポイントのスペクトル分布をデータ化。
「どこから問題音が出ているか」を特定するだけでなく、「設計ベンチマーク」として設計・改修後の性能比較にも役立ちます。
空力騒音評価における現場目線のポイント
現場でのノイズ評価は、「作業員の会話が聞こえない」「耳障りなピーク音が続く」という実感値と、測定結果が必ずしも一致しない点に難しさがあります。
そのため、周波数1/3オクターブバンド分析や、「騒音レベル変動グラフ」を合わせて見ることが、対策検討のコツとなります。
現実に多いのは、「派手な音でなくても、じわじわストレスとなる帯域(例えば1~8kHz)」。
こうした帯域をターゲットに評価を進めると、現場の体感とも整合し、効果的な低減対策に結びつきます。
空力騒音低減の具体的な手法
設計段階での対策
設計の現場では、「最初から空力騒音を出さない工夫」が最重要です。
代表的な事例を挙げます。
– 流路や配管の急な絞り・広がり・カーブを避ける
– 段差や隙間、不要な障害物を減らす
– ブレード、ファン、羽根車などは翼形状や角度・表面粗さを最適化
– 吸音材・防音カバー化(設計初期からスペースを確保)
例えば送風ファンでは、羽根の枚数を増やす・トレーディングエッジで表面加工する・ケーシング近傍の隙間を最小化する工夫が、高速化しても騒音レベルを抑える鍵となっています。
現場でできる後付け対策
既存設備で発生している場合は、工場の改修工事や追加部品で対応します。
– ダクト内に吸音材を貼る、遮音壁を設置する
– 配管・ダクトの位置や隙間を調整(一工夫で音のピークが消えることも)
– 吹出口や吸気口にノイズリダクション用サイレンサーを設置
– ファンやコンプレッサに減振ゴムを追加して、振動と空気音の両方を抑制
非常にアナログな現場手法ですが、「ダクト内部を掃除・補強」「パネルの固定ネジを増やす」「出口の向きを変える」だけで10dB以上の改善例も多数あります。
こうした地道な改善こそ、現場の職人技・ノウハウの見せどころです。
最新のデジタル活用も
AIベースの音源識別や、コンピュータ流体解析(CFD)データと騒音シミュレーションを連携させた取り組みも始まっています。
試作前に「どこでどんな空力騒音が起こるか」可視化できれば、設計段階から徹底的にトラブル回避ができます。
事例紹介:空力騒音対策で成果をあげた現場
自動車部品工場での空力騒音対策
自動車部品工場では、部品洗浄装置のエアブローラインで騒音トラブルが発生。
従来の「防音カバー追加」では作業性が落ち、却ってトラブルに。
そこで、ラインの配管の急カーブ部分をなだらかなR形状へ変更、エアノズルの先端にスリット入り静音タイプへ交換したところ、作業環境騒音を7dB低減し、残響音も減少。
加えて、ノズルの特性を見直したことでエア消費量自体も10%削減となりました。
電子機器工場での換気ファン騒音問題
電子機器工場の換気ファンが深夜に特に高い空力騒音を発生し、近隣からクレームが続発。
現場ではファン本体交換案も出たが、高コストなため、まずは「吸気ダクトの途中に吸音材」を追加、「排気口を90度転換」する手法を採用。
この結果、測定騒音レベルは昼夜とも8dB低減に成功。
加えて、工場内の空気流れも改善し、一石二鳥の成果となりました。
空力騒音対策がもたらす業界の新しい価値観
昭和の現場は、「とにかく機械を回し、生産を上げる」が至上命題。
騒音は“我慢するもの”という文化が色濃くありました。
しかし今、騒音問題は働く人の健康障害リスクや、企業としてのESG経営評価、さらにはサプライチェーン内のパートナー評価にも直結し始めています。
バイヤー目線では、こうした「サステナビリティ」「職場環境に配慮したものづくり」を求める声が年々大きくなっています。
空力騒音に真摯に向き合うことは、単なる生産現場の効率化・快適化にとどまらず、
社会・顧客に向けた品質訴求(ファクトリーブランド価値の向上)や、グローバルサプライチェーンでの信頼構築という、より広い視野での企業価値創出につながるのです。
まとめ:空力騒音の未来を切り拓くために
空力騒音は「目には見えず」「意外と根が深い」問題ですが、設計から現場改善、経営戦略まで多層的に関わるテーマです。
製造業に働く皆さん、これからバイヤーを志す方、現場の声を聞きながら戦うサプライヤーの皆さん、それぞれの立ち位置から“空力騒音対策”という新たな地平線を切り拓いていくことが、ものづくり発展のカギとなります。
昭和のアナログ型ノウハウ、最新のデジタル活用、その両方を活かしつつ、
「現場で実効性のある空力騒音対策」をともに追求していきましょう。
これが、より良い製造現場創出、日本のものづくりの未来を支える礎(いしずえ)となるはずです。
資料ダウンロード
QCD管理受発注クラウド「newji」は、受発注部門で必要なQCD管理全てを備えた、現場特化型兼クラウド型の今世紀最高の受発注管理システムとなります。
NEWJI DX
製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。
製造業ニュース解説
製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。
お問い合わせ
コストダウンが利益に直結する術だと理解していても、なかなか前に進めることができない状況。そんな時は、newjiのコストダウン自動化機能で大きく利益貢献しよう!
(β版非公開)