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FTIRとSEMによる異物分析の基礎と解析のコツおよびその事例

目次
FTIRとSEMとは?製造現場で異物分析が必要な理由
異物は歩留り低下だけでなく、クレーム・リコール・ライン停止につながる重大リスクです。
しかもサプライチェーンが長く複雑化した現在、原因を特定できなければバイヤーもサプライヤーも共倒れになりかねません。
その切り札がFTIRとSEMによる異物分析です。
異物がもたらすリスクとコスト
1個の異物でライン全停止、1時間当たり数百万円の損失という例は珍しくありません。
顧客クレーム対応、仕損じ品の廃棄、再検査の追加コスト、サプライヤーへのペナルティなど、目に見えない費用が雪だるま式に膨らみます。
2つの分析手法を併用するメリット
FTIRは有機系の官能基を、SEMは無機系を含む微細形態と元素を可視化します。
両者を組み合わせることで、ほぼ全種類の異物を網羅的に特定でき、原因究明のスピードと確度が大幅に向上します。
FTIRによる異物分析の基礎
原理と装置構成
FTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)は赤外光を試料に照射し、吸収スペクトルから分子振動を読み取ります。
最大の特長は官能基ごとのピーク形状がライブラリ化されており、未知試料でもデータベース検索で候補物質を即時提示できる点です。
スペクトル解釈のポイント
・1700cm⁻¹付近のC=O伸縮は樹脂系、油脂系の判定キーになります。
・1000〜1200cm⁻¹の指紋領域は化学構造が似たポリマーの差別化に必須です。
・マイナーピークは配合添加剤を示すことが多く、配合歩留り不具合のヒントになります。
測定時の実践的なコツ
・厚みがある固体異物はミクロトームで5〜10µmに薄片化すると透過スペクトルが安定します。
・シリコンウェーハ上に押し付けるATR法は試料前処理が楽ですが、表層成分のみを測定する点に注意します。
・ライブラリ一致度は80%超でも鵜呑みにせず、現場で使っている材料リストとの照合が重要です。
SEM/EDSによる異物分析の基礎
原理と装置構成
SEM(走査電子顕微鏡)は電子ビームを走査し、二次電子像で表面形態を数nmレベルで可視化します。
付属のEDS(エネルギー分散型X線分析)で元素情報も同時に取得できます。
元素分析(EDS)の活用
・金属粉であればFe系かAl系か、ステンレスか炭素鋼かを数分で判定可能です。
・Ca、Si、Sのピーク混在は研磨剤やスケール由来異物の典型例です。
・少量のClやFピークは腐食促進剤の混入を示唆し、環境ストレスと絡めた対策が必要です。
試料前処理と静電チャージ対策
・非導電性試料は5〜10nmの金属蒸着を行いチャージアップを防ぎます。
・導電テープで固定すると背面汚染が起きるため、周辺にアルミ箔を敷きカーボンペーストで導通を確保します。
FTIRとSEMを組み合わせた解析フロー
サンプリングからレポーティングまでのステップ
1. ライン停止直後に異物位置をマーキングし写真保存。
2. クリーンルームでピンセット採取、クリーン瓶に保管。
3. FTIRで有機・無機判定、候補物質を絞り込む。
4. SEM/EDSで形態・元素を確認し根本原因を推定。
5. 原因仮説と現場ヒアリングを突き合わせ、是正案を作成。
6. バイヤー/サプライヤー合同レビューで再発防止策を合意。
トレーサビリティとデータ管理
測定データの生ファイル、解析ログ、写真、ロット情報を一元管理し、ISO9001の要求事項に合わせて電子署名を付与します。
これにより、クレーム発生から24時間以内に根拠データを提出でき、顧客信頼を損なわずに済みます。
コミュニケーションの観点:バイヤーとサプライヤー
・バイヤーは要求スペックの背景にある顧客リスクをサプライヤーに共有し、測定条件まで事前合意することが重要です。
・サプライヤーは異物発生時に「社内でSEM確認済み」「FTIRでポリイミド片と特定済み」と報告すると、バイヤーは追加解析コストを抑えられます。
典型的な異物事例3選
樹脂成形品の黒点
現象:ポリプロピレン成形品に1〜2mmの黒色粒。
結果:FTIRで炭化ポリプロピレン、SEMでMn・Fe含有。
原因:シリンダ内壁に残った酸化皮膜が高温で剥離し混入。
対策:シリンダ温調見直しと定期パージ、内部鏡検査を標準化。
電子部品はんだ付近の白色粉体
現象:BGA基板のフラックス周辺に白い粉。
結果:SEM/EDSでSn、Cl、Oピーク、FTIRで有機酸。
原因:水溶性フラックスが洗浄不足で残留し加水分解。
対策:洗浄液導入温度を45℃→55℃へ変更し超音波時間を延長。
化粧品製造ラインの繊維状異物
現象:クリーム充填品に白色繊維が混入。
結果:FTIRでPET、SEMで繊維径20µm、Tiのピーク有り。
原因:作業員の防護衣の繊維に充填ノズルが接触し摩耗、粉体TiO₂が付着。
対策:充填ノズル長さを変更し、ESD管理服にアップグレード。
よくある失敗と再発防止策
分析データを活かせない組織の壁
品質部門が結果を握り締めていても、保全や生産技術に共有されなければ改善は進みません。
異物分析レポートは必ずKPIに直結する形で発行し、工程FMEAや設備点検表にフィードバックします。
管理監査でチェックすべきQAポイント
・異物採取の清浄度を確保するツール管理(ISO14644準拠)。
・FTIR/SEMの校正記録と参照材料の保管状況。
・解析者の訓練履歴とクロスチェック体制。
・報告書に原因と再発防止策が盛り込まれているか。
まとめ〜昭和型勘と経験からデータ駆動型品質管理へ
FTIRとSEMは高価なラボ機器というイメージがありますが、1件のライン停止コストを考えれば十分に回収可能な投資です。
さらに近年は卓上型やアウトソーシングサービスも充実し、中小サプライヤーでも容易に導入できます。
バイヤーはサプライヤー選定時に「異物分析の即応力」を評価項目に入れることで、長期的な品質リスクを低減できます。
サプライヤーは設備投資が難しくても、解析データの読み方を習得し積極的に提案できれば差別化が可能です。
昭和的な“なんとなくの勘”に頼る時代は終わりました。
FTIRとSEMで得られる客観データを起点に、サプライチェーン全体が同じ地図を共有しながら問題解決を進めることこそ、これからの製造業に求められる姿勢です。
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