投稿日:2025年7月2日

異種材料接着の基礎と環境対応構造用接着剤応用ポイント

はじめに:異種材料接着の重要性と現場が求める本質

日本のものづくり、特に製造業において異種材料の接着技術は、軽量化や機能向上、コストダウン、環境対応といった現代の経営課題に直結しています。

たとえば自動車、電子・電機、航空宇宙、インフラ分野では、「異種材料接合」が競争力そのものであるといっても過言ではありません。

しかし一方で、昭和の時代から続く“素材ごとの加工ルール”や“ボルト・ナット/溶接信仰”が根強く残る工場現場も少なくありません。

バイヤー視点、サプライヤー視点、そして管理職・現場技術者視点から「異種材料接着の基礎と実践」「環境対応接着剤の選択肢と応用」の本質を紐解いていきます。

異種材料接着の基礎理解:なぜ今、異種材料なのか

1. グローバル競争下で求められる多材料化

従来、単一素材(たとえば鋼板やアルミ等)による設計・製造が支配的でしたが、製品要求の高度化とグローバル市場の競争激化で、異なる材料を組み合わせる意義が増しています。

・軽量化(アルミと樹脂、CFRP+鉄系材などのコンビネーション)
・機能の複合(絶縁・導電、耐熱・耐薬品、外観デザイン性 等)
・原材料コスト最適化
・省工程化によるコスト削減

異種材料をうまく「繋ぐ」=新たな価値の創造、とも言えるでしょう。

2. 機械的な締結・溶接の限界と接着剤の特長

従来の溶接、リベット、ビス止めには以下の弱点があります。

・材料間の熱膨張率・硬さ等の差による応力集中
・薄板、樹脂、異方性材料などでは溶接・ボルト締結が不可や困難
・防水性、防振性、騒音低減では接着が優位

接着剤は「分子レベルで材料表面に密着」し、「応力を面で分散」「薄物や柔軟材にも適応」「外観やデザイン自在」という強みが際立ちます。

3. 品質保証と生産性の両立

「接着はなんとなく怖い、不安」といった声も現場には根強くあります。

一方で、
・事前の表面処理、接着面設計、塗布・硬化プロセス条件
・工程データの見える化(IoT/AI QC)
によって「確実性」「再現性」が実現できます。

この点は、昭和的な“勘と経験”から“理論的な工程管理”への転換を意味します。

実践現場における異種材料接着の注意点と攻略法

1. 表面処理・前処理が全て

異種材料の接着において最重要なのが「表面状態」です。

・油分や錆の除去(脱脂・洗浄)
・表面の粗化(サンドブラスト、化学処理等)
・必要に応じたプライマーやアンダーコートの選定

これらを怠ると、せっかくの高性能接着剤でも“本来性能”が出ません。

現場では「標準化」「作業バラツキ排除」が肝心です。

2. 異種材料の特性理解と設計サポート

・熱膨張係数の違い
・剪断/引張の負荷方向
・水分や熱による材料特性の変化

強度はもちろん、「経年での信頼性設計」がポイントです。

たとえば、
・耐熱性を重視するならエポキシ系、変成シリコン系
・柔軟性+耐候性ならウレタン系、MSポリマー系
など、用途ごとに接着剤の選定と設計検証が不可欠です。

設計段階からサプライヤーの技術部門を巻き込んだ「共創型の開発」が勝ち筋です。

3. 接着工程の自動化・安定化

人手作業によるバラツキを減らすため、ディスペンサー/自動塗布装置、UV照射硬化装置などの導入が進んでいます。

接着剤メーカーによる「塗布量・塗布パターン」「硬化温度・湿度管理」のノウハウ共有も有効です。

今後はDX時代、リアルタイムでプロセスデータを収集し品質予測する「スマートファクトリー化」が進むでしょう。

環境対応接着剤の最新動向

1. グリーン調達時代の接着剤要求

「REACH規制」「RoHS指令」「PRTR制度」など国際/国内規制が年々厳しくなる中で、調達バイヤーは
・揮発性有機化合物(VOC)レス
・鉛・カドミウム・有害溶剤不使用
・リサイクル設計への適合
などを必須条件とする場面が増えています。

接着剤も「溶剤系」から「水系・ホットメルト・UV硬化・1液型」への移行が加速しています。

2. バイオベース・リサイクル適合型接着剤

バイオマス原料や容易な分解性(デタッチャブル接着技術)、あるいは「再接着・部分補修性」に優れた製品も顕在化しています。

特に家電・自動車分野では「分解容易な接着点」「リサイクル工程における分離性」が設計要件になりつつあります。

サプライヤーは、こうした動向を先取りした独自技術やエビデンス(LCA評価データ、環境ラベル等)を持っていることが、新規商談獲得や持続的ビジネスにつながります。

3. エネルギー消費低減・CO2削減型プロセスの実現

低温・短時間硬化型接着剤(UV硬化、電子線硬化など)の拡大によって、生産プロセス全体のエネルギー消費とCO2排出量の低減も大きなテーマです。

加熱工程不要、自動ライン適用、硬化後の省トルク締結との同期など、工場全体のカーボンフットプリント低下を意識した“サステナブル接着”が新定番となっています。

バイヤー・サプライヤーが押さえるべき「現場に効く」応用ポイント

1. 安全性・作業性を徹底追求

使う側の立場(工場オペレーターや設備保全担当者)になりきって「臭気・危険性・管理のしやすさ」「硬化時間と工程との整合」「ロット間品質のバラツキ管理」まで徹底することで、真の現場実装に近づきます。

投資コストだけでなく、ランニングの安全・安心までアピールできるサプライヤーが選ばれます。

2. 部材コストだけではなく、工程全体コストで評価

接着剤のコスト比較の際、“材料単価”だけに注目しがちですが、「塗布工程数」「乾燥・硬化のためのエネルギーコスト」「廃棄・リサイクルのしやすさ」も中長期でコスト評価すべきです。

LCA(ライフサイクルアセスメント)での差別化提案が、バイヤー側の意思決定を大きく左右します。

3. 品質トレーサビリティとデータ管理を最優先に

異種材料接着は、工程変動や原材料ロットの違いが「強度ばらつき」「不具合リスク」になりやすい領域です。

IATF16949、ISO 9001などの国際規格を基準とし、
・工程ごとのパラメータ記録
・トレーサビリティデータ管理
・定期的な抜き取り確認試験
等を徹底活用しましょう。

現場では「誰が、いつ、何を、どうしたか」がデジタルで追える体制が、顧客や市場での信頼獲得につながります。

まとめ:製造業の“次の地平”を開く異種材料接着の進化

異種材料接着は、材料工学、設計合理化、プロセス自動化、グリーン調達、サプライチェーン全体効率化という製造業の“攻めと守り”の両軸を担う重要技術です。

現場では「新旧の技術文化の融合」と「バイヤー/サプライヤー/エンジニア三位一体のプロジェクト型推進」が成功のカギとなります。

昭和に培われた“職人技と安全意識”を礎にしつつ、最新の材料科学、IoT・DX、エビデンス営業力を融合し、真に強い日本製造業の未来を支えましょう。

接着技術の知見と現場実装力のアップデートこそが、きっと皆さんの“ものづくりキャリア”の大きな価値になるはずです。

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