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電磁気電磁界解析基礎とフリーソフト活用事例で学ぶ解析手法

目次
はじめに:製造業の現場における電磁界解析の重要性
近年、製造業では製品の高品質化・省エネ化・安全性向上といった要請がますます強くなっています。
そのなかで、電磁気・電磁界解析の果たす役割は従来にも増して大きくなってきました。
電気モーター、トランス、センサー、無線通信モジュールなど、多くの製品や装置が複雑な電磁現象の上に成り立っています。
これらの挙動を正しく把握し、設計や品質保証に活かすためには、電磁界解析の知見と現場で使えるツールの選定が欠かせません。
特に、昭和時代から続く“経験と勘”だけで回してきたアナログ的な現場を、これからどうデジタル化・自動化していくかが業界全体の大きな課題です。
今回の記事では、まず電磁気・電磁界解析の基礎から、現場での活用方法と、コストを抑えながらも十分使えるフリーソフトの事例まで、深掘りして解説します。
購買・生産・品質・設計すべてのプロセスで電磁界解析をいかに“戦力化”できるかを考えながら進めていきます。
電磁気・電磁界解析とは何か
電磁界解析が必要となる理由
電磁界解析とは、電気と磁気の現象が複雑に絡み合う部品や装置の内部・周辺を数学的モデル化して、実際のシミュレーションや数値解析によって定量的に評価する作業を指します。
特に以下のような課題を抱えている場合、電磁界解析は威力を発揮します。
– モーターのコアロスや発熱・効率解析
– 高周波回路のシールドやノイズ対策設計
– インダクター・トランスの漏れ磁束把握・最適構造設計
– 無線給電やワイヤレス充電のカップリング効率検討
– 電流センサーや磁気センサーの配置・感度最大化
– EMC(電磁両立性)試験対策
アナログ現場からの“脱却”に不可欠
従来はベテランの経験者が「これくらいの巻数で大丈夫」「ここのシールドを強くすれば良い」といった形で勘に頼った設計・改善をしてきました。
しかし、開発サイクルの短期化、試作回数削減、グローバル調達の急拡大など、現場は大きく変化しています。
失敗コストを抑えつつ、素早く正解にたどり着くためにも、設計段階から電磁界を“見える化”すること、数値的な裏付けを持って意思決定することが必要な時代となりました。
電磁界解析の基礎知識
解析の原理と主な種類
電磁界解析では、マクスウェル方程式(電場・磁場の変化を表す物理学の根本原理)をもとに、対象となる構造物の内部や周囲にどのような電場・磁場が発生するかをシミュレートします。
主に利用される手法には以下の2つがあります。
– 有限要素法(FEM:Finite Element Method)
– 境界要素法(BEM:Boundary Element Method)
FEMは装置の内部の現象の詳細なモデリングに強く、BEMは周辺(シールド効果や外部放射)を計算するのに有利です。
また、用途に応じて2次元・3次元解析が使い分けられます。
入力値と出力値のイメージ
電磁界解析では、以下のようなパラメータを設定する必要があります。
– 幾何形状(寸法・厚み・巻数など)
– 材料特性(透磁率・誘電率・電気抵抗率 など)
– 電源条件(電流値・周波数・波形 など)
– 境界条件・周囲の影響(対地・シールドの位置 など)
解析ソフトウェアを使うと、シミュレーションの結果として
– コア・磁性体への磁束分布やサチュレーション
– 発生する漏れ磁束や遠方への放射量
– 電磁誘導電流やヒートスポットの分布
– ノイズレベル・シールド効果の数値
などが出力されます。
このデータは、設計の最適化、異常検知・不良解析、量産前の品質保証など、さまざまな現場で活用できます。
現場での実践:電磁界解析の導入と課題
昭和的アナログ現場での課題
長年の現場目線で見ると、電磁界解析の導入には以下のようなハードルが存在します。
– 技術者が解析ツールを“難しい・取っつきにくい”と感じている
– 解析専門の人材がいない、教育が行き届いていない
– 解析結果をどう評価基準や設計判断に落とし込むのか分からない
– ソフトウェアが高額でなかなか投資が進まない
– 不良やクレームが出てから慌てて解析に頼る“後追い型”が多い
これは、今まで“経験・勘・手作業”主体で現場を切り盛りしてきた製造業で特に顕著な傾向です。
しかし現場の世代交代や顧客要求の高度化が進む中、解析力を“標準装備”とすることが工場の競争力確保に直結します。
バイヤー・調達担当の視点
今後、調達バイヤーがサプライヤーの技術力を見極めたり、最良のパートナーを選定したりする際にも、「設計段階から電磁界などの基礎検証ができているか」「見える化された解析結果を開示できるか」が重要な評価軸になります。
サプライヤー側としても、“解析に基づく品質証明”をデータで提示できれば、受注拡大や信頼性向上につながる新たな強みとなります。
無料で使える電磁界解析ソフトの可能性
なぜフリーソフトに注目するのか
本格的な電磁界解析ソフトウェア(ANSYS、COMSOL、JMAGなど)は高機能ですが、その分費用が高額です。
初期投資やライセンス料がネックとなり、中小規模の現場や新規チャレンジを足止めしてしまうケースが多々見られました。
ところが近年、世界的なオープンソースの流れや、元メーカー技術者のボランティア参画によって無料でも十分に活用できるフリー解析ソフトが登場しています。
これらを活用することで、
– 小規模・試験的な解析の内製化
– 設計~購買プロセスでの迅速な技術判断
– サプライヤー管理、受託案件の検証コスト削減
を目指す企業が増えています。
主なフリーの電磁界解析ソフトウェア
ここでは現場でも実践的に使いやすいフリーソフトの一例を紹介します。
○ FEMM(Finite Element Method Magnetics)
– Windows系で動作する2次元FEM解析ツール。低周波磁界解析に強みがあります。
– コイルやコア、磁気回路の磁束分布設計に最適。誘導加熱やモーター、トランスの簡易評価にも使えます。
– モデル作成~計算~可視化まで、単独で完結できる操作性です。
○ openEMS
– 広く使われている3次元FDTD法ベースの電磁界解析オープンソース。
– 高周波回路、アンテナ、シグナルインテグリティ解析にもチャレンジできます。
– PythonやMATLABとの連携ができるため、カスタマイズ性や自動化に優れています。
○ Elmer FEM
– 多物理場解析が可能な総合FEMソフト(熱・流体・磁場など)。
– 本格的な3次元電磁界解析にも応用可能。メーカーの基礎検証レベルに十分応えられるポテンシャルを持っています。
いずれもグローバルなユーザーコミュニティや解説サイトが充実しているため、導入ハードルは年々下がっています。
フリーソフト活用事例と現場導入の工夫
事例1:省コスト開発に向けた早期シミュレーション
ある精密小型モーターを量産する企業では、従来は“現物サンプル→試作→実操業テスト”という反復プロセスで構造検証を行っていました。
しかしFEMMの活用により、通常3回かかっていた試作検討を1回に短縮。
磁気飽和やコアロスの発生位置も事前に数値で可視化され、設計~試作のコストを60%以上削減できました。
事例2:EMC/EMI対策の根拠提示
電子機器のEMC問題発生時、原因特定と対策提案のスピードが納期に直結します。
openEMSを使い、筐体シールドの効果やケーブル引き回しパターンごとの放射ノイズ分布を可視化。
この結果を顧客に提示することで、調達・購買部門との交渉がスムーズになり、“安心して発注できるサプライヤー”として評価を高めました。
事例3:バイヤー視点での技術力評価
調達バイヤーがサプライヤーの新規選定を行う際、Elmer FEMで“拡張性のある独自設計案”と“標準品”の電磁場分布や発熱シミュレーションを比較。
論理的な根拠をもった技術評価が可能になり、従来の“スペック表と価格だけ”での選定から大きく進化できました。
導入時のポイントと現場独自の工夫
– 段階的に使える範囲から始める(まずは2次元モデルのみ・簡単なケーススタディから)
– “解く人”と“現場・設計担当”で意図をすり合わせる(解析目的の明確化)
– 得られたシミュレーションデータと現場実測値をセットで管理
– フリーソフトのバージョン更新やユーザーコミュニティ活用
– 教育マニュアル・勉強会の開催(現場のベテラン参加を促しフードロス防止)
こうした“現場起点・少しずつ進める”工夫が、文化的にアナログ色の強い職場でも電磁界解析を根付かせるコツです。
まとめ:電磁界解析はあらゆる製造職種の“言語”となる
電磁気・電磁界解析はもはや一部の技術者だけの特殊技能ではありません。
設計・生産管理・調達バイヤー・サプライヤーに至るまで、共通の“言語”で現象を捉えて議論するツールになりつつあります。
特に“昭和以前の勘頼み”からの脱却、品質・コスト・スピードの三立てバランスを現場全体で高めていくうえで、解析力の底上げは不可避です。
今まさにフリーソフトを活用する絶好のタイミングです。
まずは小さな一歩から。
ぜひこの記事をきっかけに、あなたの現場でも電磁界解析の戦力化を進めてみてください。
技術力の底上げは、ひいては製造業全体の競争力、ひいては私たちの社会全体の発展につながると信じています。
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